福地化石館 2018年7月27日(土)

 

 晴天の上高地を二日間歩くことができました。上高地は自家用車では入ることが出来ないと聞いていたので、これまで行きそびれていた所ですが、今回思い切って行って良かったです。天候にも恵まれ、よくテレビでみる風景が、実際どのように広がっているのか体験することができました。絵にかいたような、美しいところでした。

 旅行三日目の最終日は、台風12号が近づいて朝から雨だと言われていましたが、大風は少し遅く進んでいるので、朝から雨は降りませんでした。そこで、福地化石館へ行ってから帰ることにしました。福地化石館は、地図に載っていないので、取り敢えず福地温泉に行き、現地で探すことにしました。30年ほど前、このあたりを通ったときは、たぶん福地化石館が幹線道路沿いにあって、立ち寄った記憶がありました。それが閉館になったことは知っていたのですが、少し前、福地化石館として、別の所で展示されていることがネットに掲載されていました。少しわくわくした気分で出かけました。

 福地温泉は、数件の温泉宿がある山中の集落の一部です。その一か所に、お土産屋さんが1軒あり、朝市をしていると看板を挙げていました。村で取れた野菜を温泉帰りの人たちに買ってもらうようです。その近くに車を止めて回りを散策すると、化石館という看板を掲げた、古い民家を再利用した建物を見つけました。近くに誰もいなかったのですが、隣の建物に、絵を描いておられる人がいて、その人に、「地元の方ですか。化石館にはどのように入ればいいのですか?」と、たずねてみました。「ああ、その向こうの入り口から入って、二階が化石館ですよ。」「受付とかないのですか?」「無料です。スリッパに履き替えて、二階に上がって見てください。」と、教えてもらえました。

 ガラガラと扉を開けて、スリッパに履き替え、屋根裏に上がるような階段を二階へ上がると、化石が並んでいる空間がありました。ちょうど、白川郷などで民具を展示している屋根裏の所に、化石が並んでいる状況でした。地質年代の説明と、福地の化石全般については、ボタンを押すと自動的に解説が流れるようになっていました。古生代オルドビス紀・シルル紀・デボン紀・石炭紀・二畳紀の化石があります。古生代の年代は、4億9000万年―オルドビス紀―4億4300万年―シルル紀―4億1700万年―デボン紀―3億5400万年―石炭紀―2億9000万年―ペルム紀(二畳紀)-2億4800万年前となっています。日本で最古、4億8000万年前の化石(パレオレペルディシア)が、この福地で見つかったと書かれています。デボン紀よりも古い化石(シルル紀の化石)は、中央構造線の南側の古生層の中の石灰岩からは見つかっているけれど、オルドビス紀の化石は、福地だけということです。日本列島は、太平洋プレートに乗っかった地層や、石灰岩・火山岩の島が寄せ集められてきてできた付加帯だと言われています。この奥飛騨の福地地区の石灰岩は、中央構造線に近い石灰岩よりもさらに古い、最古の付加帯の石灰岩に当たるということなのでしょう。

 「福地の化石研究はまだまだ終わっていません。最近になって、主に微化石を用いた研究で、一重が根付近にオルドビス紀の地層があることや、一の谷の地層がシルル紀のものであることなどが分かってきました。さらに、福地よりずっと西の森部や呂瀬にもデボン紀層がみつかり、福地の北の柏当にある白亜紀の地層からは、恐竜の足跡らしきものが発見されています。」

「福地の化石の中で最も有名なのが三葉虫です。三葉虫は、海にいた節足動物で、体が左右と中央の三つの部分に分かれているので名付けられました。少なくとも11属21種の三葉虫が福地から報告されています。」

 「福地のデボン紀の化石は、今から約4億年前のものです。サンゴの化石が特徴で、当時、奥飛騨がサンゴ礁の広がる海だったことが分かります。」

 「日本では、古生代の中期の地層は大変珍しく、限られたところでしか見ることができません。福地では、この時代の化石が大変豊富で日本の古い時代の様子を知るためには大変重要なところです。中でも日本最古であるオルドビス紀の貝形虫の化石が発見されたことで、その重要性はさらに大きくなりました。」

 「山腰悟さんは、1960年代から福地の化石を集められ、1970年代には、「飛騨自然館」を開設して観光や教育、そして化石の保存に尽力されました。山腰さんの集められた化石のうち、特に重要なものは岐阜県の文化財として指定されました。1999年に山腰さんが逝去された後、文化財指定された標本は上宝村に寄贈され、ここに保管されています。」

 

 福地の主な化石は、直角貝(頭足類)、エオスビリファー(腕足類)、キモストロフィア(腕足類)、イソオルシス・フクジエンシス(腕足類)、ボイオトレムス・フクジエンシス(巻貝類)、スクオメオポーラ・タカレンシス(床板サンゴ類)、ティフェオフィルム(四放サンゴ類)、アンフィポーラ(層孔虫類)、ウミユリ(棘皮動物)、ハチノスサンゴ、多くの三葉虫、二枚貝などでした。置かれている化石は一流です。展示場所はとてももったいないと思える状態でした。もっとお金をかけて、近代的な所で教育的展示をしてほしいなあと思いました。

 福地化石館をゆっくり貸し切りで見たあと、すぐ近くのクマ牧場にもよって、台風に追いつかれないように、大阪へ向けて出発しました。