虫取りをする子ども 2018年6月30日(日)

 

 幼稚園に行かせていただいて、3年目になります。小学校にいるころは、子どもの育ちは1年生からしか分かりませんでしたが、最近は3歳から考えることができます。

 3歳と虫取りをしていて、熱心にやり続ける子どもがいます。とても興味が続く子どもです。一緒に虫取りをしているきつねTから、虫への近づき方、虫の取り方、虫かごへの入れかたなどを、よく見て学ぶ子どもです。対応がしなやかで、人から学ぼうとする気持ちが育っている子どもです。小学校に入っても、どんどん育っていく予感がします。きつねTが、その場からしばらく離れても、自分で虫取りを続けることができます。暑いのですが、よく続くなと思います。一方、一緒に虫取りをしていても、大きな声を出して走り回ったり、他の遊びに興味が行ったりする子どももいます。1年生の子ども達と朝の元気調べで話し合いをしているとき、みんなの発表をどんどん吸収して、対応していく子どもがいました。自分から学びの行動を起こせる人は、たかが朝の元気調べの時間ですが、すごい成長をしていました。周りから吸収できる力は、人が生きていく上でとても大切だと感じます。生活学習力です。

 3歳なので、まだ、虫に出合っていない子どももいます。初めて虫取りをする子ども達です。まず、虫に出合うことが大切です。3歳の子ども達には、虫を捕まえて、ガラスのシャーレに入れてじっくり見せてあげるところから始めます。虫をよく見ないで捕まえるというのは、危険なことです。生きている様子をよく見ることです。体のつくり、動き方、羽などを見ながら、見つけたことを話してもらいます。ハチやアブや毛虫などは、捕まえないことを覚えることも大切です。次に、周りの年上の子達や、虫取りが上手な子は、虫にどのように接しているのかを見させるようにします。例えば、一つ年上の虫マニアの年中さんが、どのように虫取りをしているのか、どのように捕まえた虫を、虫かごに入れているのかを、一緒に行動しながら感じ取るようにさせます。ショウリョウバッタの幼虫の捕まえ方、つかみ方、虫かごへの入れ方を学びます。虫網で捕まえたシジミチョウのどこを持って虫かごに入れるとよいのかも、見て学びます。たぶん、虫取りだけでなく、いろいろなことを見て学ぶことが人の成長であって、その子が属している文化に馴染んでいくことだと思います。アリを見て、すぐに踏みつぶす子どもがいます。家では、親がそうしているのでしょう。子どもは、話し方、行動、価値観など、全て見て学びます。我々でも、初めての虫、初めての生き物を触る時は、知識と勇気が必要です。同じことが、3歳の子どもにも言えます。それを周囲の人から学びながら、新しい体験を習得していきます。

 初めての体験にどんどん入っていく子どもと、自分の経験のあることしかしないような子どもがいます。それは個性であって、生き方であるとも感じます。大人でも、そのような生き方をしています。しかし、子どもの個性は、本当に生まれながらに最初からあるのでしょうか。よく見ていると、自分の世界にずっと留まっているのではなく、案外、子どもはいろんなことに機会を見つけてチャレンジしています。自分なりに成長しようとしています。注意深い子どもと、無頓着な子どもがいるのですが、自分の接し方で、新しい世界を広げようと考えているようです。いい感じに見守り、環境作りと、安全という部分で、支援してあげることができるといいなあと思います。

 学習は、子どもが自ら動き始めるように、1年生から取り組んでいると、3,4年生では、先生はまだなんとか競えても、5,6年生になると、小学校の先生では、太刀打ちできなくなってきます。理科、算数、社会、国語でも、勿論、体育や音楽や図工などでも、本当に素晴らしい才能が発揮されてきます。どの分野でも、優れた能力を持っている子どもが育ってきて、ずば抜けた能力を発揮し、秀才、天才ではないかと思うような子どももたくさん現れます。それらの子どもに、教師のつまらない押し付け学習で、無駄な時間を使わせてしまわないようにしなければいけません。

 かつて1年生で一緒に虫取りをしていた子ども達が、今、大学を卒業しています。東大や京大や阪大に進学して、これから世の中で活躍していこうとしている子どもが多くいます。そのような子ども達と一緒に、奈良さんぽをしたり、虫取りをしたり、劇を創ったりしていて、本当に凄い時間を過ごしていたんだなと思います。子どもの個性的な育ちを大切にしなければいけないと、つくづく反省させられます。今、目の前の虫取りをしている子どもが、将来、昆虫学者になるかもしれないし、算数を一緒に悩んで考えている子どもが、科学者になるかもしれません。その子の将来の育ちに夢を馳せて、今、その子がしたい活動を十分に進められるようにしてあげることが、先生の仕事なのでしょう。今、その子が生きている時間を、その子が自分のために使えるようにしてあげることです。そう考えると、先生が教えることは、本当に少ないのかもしれません。環境作り、安全対応、健康管理ぐらいが先生の仕事で、学びは、子どもに任せる、環境、文化の中で、自ら育つ状況を創ることしかないのかもしれません。読書環境、経験場を広げる、本物に出会わせるなどに、先生は、懸命にならなくてはいけないと思います。