大隅良典先生がノーベル賞を受賞 2016年10月31日(月)

 

 大隅良典先生がノーベル賞を受賞されました。一緒に編集会議をしていた頃があり、そのような偉大な先生を中心に理科教育について考えていたことを、本当に光栄に感じます。

 

大隅先生と奥様

 

 日本のノーベル賞受賞者は、25人目になります。一昨年の赤崎勇(名城大学終身教授)、天野浩(名古屋大教授)、中村修二(米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授)の3名、昨年は大村智(北里大特別栄誉教授)、梶田隆章(東京大学教授)の2名に続く、2014年から3年連続の受賞でした。

 生理学・医学賞では、1987年の利根川進(米マサチューセッツ工科大教授)、2012年の山中伸弥(京都大学教授)昨年の大村氏に次いで4人目。自然科学3賞(生理学・医学賞、物理学賞、化学賞)では、大隅先生は日本人3人目の単独受賞。利根川氏以来の29年ぶりで、他に1949年の湯川秀樹博士しかおられません。

 受賞された理由は「細胞自食作用(オートファジー)のメカニズムの発見」。東大助教授だった1988年、観察がしやすい酵母を使った実験で、たんぱく質が細胞内にある小器官に取り込まれて分解される現象を顕微鏡で発見し、オートファジーの仕組みを解明しました。オートファジーのカギとなる遺伝子のほとんどを発見し、93年に論文を発表しています。その後、動物の細胞に詳しい研究者らも加わり、人間を含む動物でも酵母と同じ仕組みがあることが判明。さらに、がんなどの病気に関係していることも分かり、治療法の開発に向けて研究が広がっています。

 人間は1日に、200~300gのたんぱく質を必要としますが、食事から取り込めるのは70~80gほど。足りない分はオートファジーなどのリサイクルで補っています。オートファジーの仕組みは、「①細胞が栄養不足などになると、細胞内に特殊な脂質の膜が現れる。②膜が細胞内のたんぱく質や小器官を包み始める。③膜が球状に伸びる。④膜が完全にたんぱく質などを覆う。⑤膜が分解酵素の入ったリソソームと融合する。⑥たんぱく質の材料となるアミノ酸に分解される。⑦たんぱく質の合成など生命活動に再利用される。」というような活動です。

 大隅さんが研究者になったきっかけの一つは、子どものころ、お兄さん(東京女子大名誉教授83歳)和雄さんから、イギリスの科学者マイケル・ファラディーの本などを贈られたことだそうです。兄和雄さんは「何年も候補に挙がっていたが、私が生きている間に受賞ができてよかった」としみじみ語り、弟大隅さんが「兄から贈られた本に影響を受けたと言ってくれているようだ。私にも本の選択眼があったのかもしれませんね。」と喜んだと、新聞に書かれていました。

 最近の大学院生の研究環境について「今は精神的に、とても貧乏な時代。博士課程まで進もうと決意することが難しいのが現状だ。」と指摘。「我々の世代で何としても変えなければならない。」と決意を述べられていました。また、「科学研究は役に立つべきだというとらえ方をされると、基礎的なサイエンスは死んでしまう。」と、現状を憂えておられました。基礎科学の研究費についても、「不足している。社会全体が基礎科学を支えるシステムを作ること以外、あまり解決策はないと思う。」と述べ、基礎研究を充実させる必要性を訴えておられました。日本の研究環境は「若い人が次から次に出てこないと日本の科学は空洞化する」と、危機感を募らせ、若手研究者に対しては、「1回しかない人生なのでチャレンジしてみるのもいい。何としてもこれをやりたいというのを自分の中で固めて、決意を新たにして頑張ってほしい。」とエールを送っておられます。ノーベル賞の賞金の活用なども考えに入れ、微生物の研究拠点や若手研究者支援のシステム作りに尽くしたいと意欲を述べられていました。

 共にお酒が好きだという妻の万里子さんと記者会見を受けられていました。大隅さんは自宅をサロンのように開放し、朝まで杯を交わすこともよくあるそうです。研究仲間や教え子たちとの交流を欠かさない、気さくな人柄を慕って集まる研究者らから、祝福の声が相次いています。横浜市緑区の東工大すずかけ台キャンパスで開かれた記者会見には、受賞を聞きつけた学生ら約300人が詰めかけました。共にお酒が好きという夫婦の絶妙な掛け合いに笑いも起き、会場は和やかな空気に包まれました。「考えていることも分かっているので、あんまり話が弾むこともありません。」大隅さんが万里子さんについてそう答えると、大隅さんの魅力を問われた万里子さんは「いつもニコニコしているので、一緒にいて心は落ち着きます」と持ち上げつつも、「でも、とてもいいかげんなんです」と生活を明かします。その上で、「友人にそのことを言ったら『良いかげんなのよ』と言われたので、そう思うことにしています」と、ユーモアたっぷりに話をされていました。万里子さんは東京都立大を卒業後、東京大学大学院へと進み、同じ研究室で大隅さんと知り合っておられます。2年後に学生結婚。二人の子に恵まれましたが、大隅さんは子育てを殆ど万里子さんに任せて、研究室にこもりっきりでした。「忙しくて仕方なかった面もあるが、それにしても子育てには関わらなかった」と。「夫はいいかげんで、不思議な人です。ずぼらで適当なのに、どうして実験がうまくいくのか、不思議で仕方なかった。私の方がよっぽどきちんとしているのに」と、おどけてみせました。

 海外の研究者からも称賛の声が上がっています。大隅さんが発見した「オートファジー」の仕組みを発展させ、治療や創薬にむすびつける研究を続ける米テキサス大のベス・ビラン教授は「大隅さんの成果のおかげで、この分野の研究が進んだ。オートファジーの最大の貢献者であり、『父』と言える。受賞に異論を唱える研究者はいないだろう」と、読売新聞の取材に答えました。1990年代後半から交流があるというビラン教授は、「我々にも資料を提供してくれたり、アドバイスをくれたりした。こうした寛大さに加え、東京大水島昇教授ら優れた後輩を育成する能力が相まって、この分野が発展した」と称賛されていました。また、学会を通して交流があるという英フランシス・クリック研究所のシャロン・トゥーズ博士も「大隅さんは未開の分野を切り開き、結果的に、それが病気にも関係する極めて重要な細胞の仕組みであることが分かった。科学を愛する謙虚で優れた指導者でもある」と答えておられました。        (文章は全て、読売新聞より要約する)