ビーグル号航海記 2016年8月15日(月)

 

 ずっと昔から本棚に立っていて気になっていた『ビーグル号航海記』を、ついに読み終えることができました。ダーウィン著・島地威雄訳『ビーグル号航海記(上・中・下)』岩波文庫(初版1960年、22刷1979年)です。これまで何度か読もうと挑戦したことがありましたが、上・中・下巻の、上巻の最初で挫折してきた本です。いつのまにか、立派な古本になってしまっています。

 1979年というのは、私が24歳で、堺市立科学教育研究所の地学研究室にいた頃に印刷された本です。化石や岩石について書かれてあるので、読むつもりで買ったものでした。同じ本棚には、ダーウィン著・八杉竜一訳『種の起源(上・中・下)』岩波文庫(初版1963年、16刷1976年)も並んでいます。なぜ、今読めたのか考えると、退職して余裕ができたことが挙げられますが、最近、一日100頁を読み続けているので、勢いがついて読めるようになったのかもしれません。そう考えると、教師現職の頃は、本をあまり読めていませんでした。これから続けて『種の起源』も読もうと手元に置きました。岩波文庫と合わせて、築地書館の『ビーグル号世界周航記 ダーウィンは何を見たか』(ダーウィン著、荒川秀俊訳)も読みました。下の地図は、その築地書館の本の中に掲載されている地図から引用しました。この地図を見て、世界一周の最後にもう一度南アメリカに立ち寄ってからイギリスへ戻っているのを初めて知りました。アフリカと南アメリカは意外と近いことが分かりました。

 

 ダーウィンは、1809年イギリスに生まれました。エジンバラ大学で医学を学び、ケンブリッジ大学では神学を修めています。この航海記は、1831〜1836年の、イギリス軍鑑ビーグル号艦長フィッツロイ大佐の好意により、ダーウィンを博物学者として便乗させました。「ビーグル号航海記」は、6年間かけて世界一周をした博物学者ダーウィンによる記録です。

 

 

 内容は、植物や動物、昆虫、化石などの記録が中心だと思っていましたが、それぞれの地域の気候や地形、そして、住んでいる人たちの生活についても、詳しく書かれていました。一方、進化論の原点であるガラパゴスの自然の記録は、全体からみるとほんの一部に過ぎませんでした。それほど、若い博物学者の6年間の探検は、多種多様な分野に渡って調査し記述されていました。

 まず、本を読み終えて自然の記述以上に心に残ったのは、世界へ進出しているイギリスなどの先進国の移民たちと、原住民や奴隷との生活の格差です。南米には、ダーウィン達よりもさらに以前から、鉱物資源の開発などをするために、野心のあるヨーロッパ人が移住していました。彼らは、現地の未開原住民、運び込まれた罪人やアフリカからの奴隷を使って、採掘や道造りをしていました。とてもひどい扱いで、過酷な労働をさせている状況に、ダーウィンも心を痛めている記述がありました。

 

 

 今年は、ブラジルではオリンピックが開催されています。コロンブスの新大陸発見が1642年、アメリカ建国1776年(独立宣言)、そしてこのダーウィンの航海は1831年〜1836年であす。現在は、ダーウィンが訪れた頃からわずか200年だと考えると、南米はどのように発展をして、オリンピックができるような国になったのでしょう。植民地としての苦しい歴史の上での発展であるのでしょう。

 ガラパゴス諸島についての記述は、上・中・下巻のうち、やっと下巻に出てきます。ここでも驚いたことには、ヨーロッパからの移民が既に住み着いていて、亀を食べ、イグアナ、植物を乱獲している状況が書かれています。これまで、ガラパゴス諸島の自然は、原始の生物環境が保たれていると思っていましたが、ダーウィンが訪れた200年前には、もうすでにかなり荒らされていたことを知り、がっかりしました。さらにその後も自然破壊は進んできていると考えられるので、現在はとても残念な状況なのでしょう。そういえば、白川郷も、ここ30年ほどでどんどん開発されて、まるで、かやぶき屋根のパビリオンになってきています。自然との調和の中でゆっくり創り上げられてきた環境を、開発という名のもとに一気に破壊します。ヨーロッパ人が、アフリカや、南北アメリカの人たちに、どんなに酷いことをしてきたのかを、考えさせられる本でもありました。

 

 

 ダーウィンは、ビーグル号が地図を作るためにあちこちの湾に停泊している間に、案内してくれる現地人を雇って、数日から1,2週間かけて、馬やロバに乗り調査の旅を行いました。そして、植物、昆虫、動物、岩石、化石の採集や、地形の観察を行っています。船から近くにある高い山に登り、周囲の様子を見る探検もよくしています。ダーウィンは、20歳代の体力のある青年なので、かなり過酷な野外調査も、なんとかこなしています。雨の中で野営をしたり、水に困ったり、現地人の襲撃から身を守ったりと、現在のキャンプとは比較にならない過酷な生活を送りながらの調査だったようです。また、ペルーやアルゼンチン地域は砂漠地帯が多く、川も湖も塩分を含んでいて、人は飲み水を持って行っても、移動に使う馬やロバの、餌や水に困る様子が書かれています。未知の世界の探検というのは、こういうものなのだと知ることができました。6年間、このような苛酷な自然の中での調査を続けたダーウィンは、本物の探検家でした。また、大きな災害や病気に見舞われなかった幸運な人だとも言えます。

 

 この本には、日記のような部分と、論考を深くしているところがあります。地震や津波について、サンゴ礁のでき方について、段丘地形のでき方について、鳥や昆虫などの生育地の広がりなどについては、テーマを決めて観察と考察を繰り返しながら、とても詳しく書かれています。この探検の後に書かれる『種の起源』への発想が、このような論考の中に隠されているのでしょう。この探検旅行の中で、ダーウィンがどのように生物を見てきて、進化論へとつながっているのか、『種の起源』を読むのがとても楽しみになってきました。