実験・観察への出会い方 2015年9月27日(日)

 

理科の実験観察については、奈良県小学校理科研究部会で5年間ほど進めてきた取り組みがとてもよい経験になっています。月に一回、金曜日の午後6時ごろから始めて午後9時ごろまで、集まってきた先生たちと一緒に実験データを取るという研究会です。年間8回ほどあり、5年間で40回ほど行ったかもしれません。単元を一つにしぼり、その単元に関連する実験を5〜6個ほど事前に準備し、来られた人からグループを作り実験に参加していく方法です。奈良県各地からこぎつね小学校の理科室に集まってくるので、①みんなが集まるまで開会を待たない、②来た人からグループを作り実験に取り組む、③到着した人は名前カードを掲示する、④だれがどこの結果や考察を発表するかは、その名前カードを掲示することで決める、という進行方法です。実験の考察は午後8時ごろから始めます。早く到着した人は全部の実験ができるし、遅く来た人はそれなりにできるところまで取り組むことになります。到着順にグループを作るので、グループメンバーは毎回違っていて、おひとり様参加も毎回楽しいようです。20〜40人ぐらいの先生が集まり、若い先生同士、また、若い先生とベテランの先生の交流もできます。毎回新しい出会いもあり、それぞれで楽しめる部分もあるようです。噂では、若い先生のカップルも育ったようです。

考察は、きつねTが司会進行しながら、みんなのデータを突き合わせていき、名前カードを貼られた先生が頑張って発表します。質疑もします。最後にふりかえりをそれぞれ参加者が書いて、担当の人に提出して終わりです。運営委員の先生が、次回までに、実験の様子とふりかえりをまとめて報告書を作ってくださいました。

「みんなで、理科授業の予備実験をしましょう」というキャッチフレーズでした。この数年間で、私自身も、小学校の各実験に詳しくなりました。また、現場の先生方に今必要なのは、難しい理論、教科書の分析、新教材の開発、指導案の作成、ベテランの先生の自慢話を聞くのではなくて、明日の授業に必要な器具の準備、技能の向上、実験進行上の問題点の洗い出し、実験の面白さの体験、教科書の理解、安全管理などであることが分かりました。

この実験の進め方は、教員免許更新講習の講師を担当したときの、3年「重さ比べ」単元と、6年「発電、蓄電、利用」単元の実技研修にも活用しました。それぞれ小グループで協力して実験に取り組み、結果と考察については、名前カードで掲示されたところについて責任をもって発表し、最後に、みんなで話し合って終わるというものです。実験の課題は、黒板に簡単に書いて、どのようにするかは、それぞれが工夫するようにします。自信のない先生には、丁寧に説明し、補助に入り、決して恥をかかせないようにすることも重要です。大学の先生と一緒に5日間の免許更新講習を担当しましたが、私が担当したこの実験を中心にした2日間は、とても楽しかったと感想をいただきました。子どもも大人も一緒です。まず体を動かす、自分の経験と思考を活用する、いろいろ工夫する、協力する、成果を出す、話し合いをする、ふりかえりをする、というような、活動的な学びがよいようです。

では、子どもたちの理科の実験はどうあればよいのでしょうか。子ども自ら実験することは可能なのでしょうか。私たちの学校では、子ども自ら学習を創るということを課題としています。生活から学びを立ち上げ自ら探究し、さらに生活へと学びを応用させていくことを目指しています。本校の「しごと学習」では、教科書がないので、生活の中に課題を見つけることがまず大切な取り組みですが、各教科の「けいこの学習」は、単元ありき、教科書ありきからの出発です。国語は教材があっての追究であり、算数は分数や図形などの単元があっての追究です。理科も、天気、川、熱、電気という単元があっての追究でなければ始めることはできません。全ての理科の問題や課題を生活の中で見つけて、それを解決していく学習方法では、先生や子どもに負担が多すぎて、内容に関して責任を持った取り組みが進められません。私は、教科書単元を基にしながら、しかし理科学習を生活の課題と突き合わせながら始めるようにしています。なぜなら、子どもの感性でその現象や自然に接し、そこから自ら問題や課題やさらに面白さや美しさを、子どもの生活の視点で教科書の課題を自分の問題として感じる瞬間を持たせたいからです。かつての物理学者、生物学者がふと考えたことや感じたことを、子どもの発達段階にあわせて、それぞれなりに体験できるのではないかと考えます。一方、情報化社会の現在、子どもは塾、参考書、インターネットなどで、既に学習していたり、また、見ていたりして、部分的には知識化している場合が殆どで、初めて体験するように取り組むことは不可能な時代になっていることも、私たち教師は分かっています。それを、あたかも初めて出会うような学校の研究授業的学習の進め方は、子どもにとっても、教師にとっても、不幸な授業となってしまいます。子どもたちの持てる情報をフルに生かしながら、精一杯の感性を動員し、さらに、独自の学習を積み重ねて、その教材に向かわせていきたいものです。

例えば、ふりこの学習、メダカの学習は、どのように始めると良いのでしょうか。ふりこの学習では、ふりこ時計やメトロノームやブランコなどを、教材との出会いに使いたがるのは古い教師の発想で、実は、そのような体験は、現代の多くの子どもたちはあまりしていないのではないでしょうか。ブランコのない幼稚園、公園が殆どなので、心行くまでブランコに乗ったという体験は少ないかもしれません。また、メダカをすくいに行ったり、金魚を飼ったりというような体験も、それは昔の理科好き教師の発想で、このような家庭も少ないと思われます。それでは、現在の学習はどのように始めるとよいのでしょうか。ふりこの学習では、「ふりこ」とは何かということから始めます。1mほどのひもに、いろいろな重さのものを2~3種類くくり付け、上を固定して振らせることで、何か規則性を見つけるという遊びから始めるのはどうでしょうか。何日間も、子ども一人ひとりに、ふりこを振らせる経験を沢山させて、問題や課題を自ら見つけられるようにさせるというのは、よい方法だと考えます。また、メダカの学習では、学校で学習に入る1〜2か月も前から、できれば各家庭でメダカを飼うように勧めて、生き物としてのメダカ飼育体験の中から、子どもが問題や課題を見つけるようにさせます。メダカは水の循環システムも必要なく、安価で飼育が可能なので、ぜひとも多くの家庭で飼育体験をしてほしいと考えています。生活から始める学習を進めるためには、子どもの体験的生活を学習前に創る必要がある時代になってきています。テレビ、コンピュータ、スマホ、塾など、情報環境の中の生活に多くの時間が使われている現在、「実体験的生活」を学校から提案していき、子どもの生活を耕すようにしていきたいものです。

上記のような取り組みによって、①人間が楽しく興味を持つということ。また、②個人が関わりを持って取り組んだことはよく覚えているという事実。を生かすためには、学習者自身の試行錯誤の活動の大切さが見えてきました。しかし、試行錯誤の活動は、実は学校の理科学習では、時間的に不可能です。失敗のない実験や観察を進めるだけで精一杯なので、できるだけ生活の中に、遊びの中に、活動を事前に提案しておいて、テレビやゲームや塾などに費やされている時間から、体験的かかわりのための時間を取り戻し、試行錯誤のある体験的生活を進めさせたいと考えました。自ら考える子ども、自ら活動を進める子ども、自ら生き抜く子どもを育てたいと思います。情報だけで生きていくのではなく、あらゆる困難や自然の驚異に、自分で立ち向かう力を、体験の中で培っていく実験・観察にしていきたいと思いました。