おたよりを書く 2017年7月10日(月)
私はこれまで小学校で学習を創っていくとき、常に「お便り」を大切にして、自分のクラスづくり、子ども達との学習の探究、理科学習づくり、学年づくりを、続けてきました。教師としての学びのスタイルを、お便りを通して創ってきました。こぎつね小学校の副校長を退職してからは、大学での講義を、あちこちから依頼を受けました。今年は、5つの大学で、講義をします。最初、大学の講義は、小学校の学習とは違うのだろうと漠然と思いながら、どう進めて行けばよいのかしばらく悩みました。しかし、これまでの小学校の教育の延長線上に大学の授業を置いて考え、さらに教職の大学であることを考えて、「お便りを書きながら進めることがよいのではないか」と考えました。自分の小学校での教育の方法を、大学でも実際に体験してもらいながら、これから教員になっていく皆さんの参考になるのではないかと思いました。「お便り」と「ノート作り(レポート)」と「理科の独自学習と相互学習」を中心に学習を進めました。内容について教えるということを極力控え、私は「お便り」を通して、学生は「ノート作り」を通して、自己学習力を高めるようにしました。
最初の頃、実験方法をもっときちんと知らせてほしい、まとめをきちんとしてくれないと分からないというような感想を書く学生さんがいましたが、自分で考えること、自分で学びを構成していくこと、分からないことが見つかると後で辞書や図鑑で調べることが大切であると、わかってきてくれていると信じています。「教師は環境を作り、学習は子どもが創る」ということが、15回の講義で伝えたい事です。子ども達は、教えると、覚えようとします。環境を与えて教えないと、考えようとします。極力教えないことが、究極の教育なのです。何を教えないか、どこまで教えないか、どのように教えないか、そこが教育の一番大切な所です。「国語の『ごんぎつね』の学習をどうしますか」「幼虫の観察のテーマをあなたはどうするの」について、一人ひとりが考えることから、学習を始めることが大切です。教えないと、保護者からクレームが来ます。校長からも、指導されます。それらをすべて凌駕する、「学ぶことが楽しい学級づくり」「学びの工房の学級」を確立してください。
次に、お便りを書くことについて考えてみましょう。
お便りは、教師の学習のふりかえりであり、目当てでもあり、学習計画に当たります。また、教師の独自学習であり、日記でもあるのです。さらに、これまでの「こぎつね理科」(こぎつね教育大学だより)を見れば分かるように、授業記録であり、指導の場であり、学び合う場でもあるといえます。教師が、お便りを家で書き続けていくことにより、教師自身が教育をふりかえりながら、目の前にはいない子ども達(学生たち)と文字を通して対話をしながら、さらなる学習を構想していきます。
先日、他の大学の学生が、授業(教職入門)のふりかえりで、とても嬉しいことを書いてくれました。「きつね先生が書いてくれるお便り(「こぎつねだより」)を、次の学習の前日に読みます。前回の学習のふりかえりができて、明日の学習の心づもりができます。学生のふりかえりも載せられていて、自分たちの学んでいることが心の中に広がります。」というような内容を書いてくれました。その男子学生は、「こぎつねだより」を、きちんと二つ穴のファイルに綴じてくれていて、インデックスもつけてお便りを大切に保管してくれています。また、かつて、学級担任の時の保護者が、「先生のおたよりを、いつもカバンに入れておいて、何度も取り出して読みます。子どもと共に、私も学習をしているようで、ワクワクします。」と、言ってくださったことを覚えています。私が書いたお便りが、数人でも学生や保護者の心に届いていると思うと、書き続ける励みになります。
これまで、私は小学校教師の新任の頃から、ずっとお便りを書き続けてきました。学級だより、学年だより、理科便り、学校だより(副校長)、大学の講義だよりなど、いろいろな立場で書き続けてきたお便りは、全て残しています。書いている内容が同じにならないようにするためには、その時期の出来事や、目の前の子どもの様子や学習活動、お出かけして見つけたことなど、現在進行形の出来事を文章に組み込むと、以前のお便りと一緒になることはありません。常に身の回りの新しい状況を取り込み、自分の頭と生活を更新しながら、週一回のお便りの文章に取り組むことで、子どもや保護者や学生に、「また同じことを書いているわ」と言われないようにします。お便りを書き続けるためには、常に本を買って読み、精力的にお出かけをし、子どもの日記や学習ノートから素敵な成長の姿を書き出すことが大切です。
このように考えると、「お便りを書く」ということは、木下竹次がいう「生活即学習、学習即生活」の精神、生活と学習の癒合を目指してきたのではないかと思います。
忙しい毎日ですので、教職を続けながら日記を書くことは難しいのですが、お便りは、その当時の子どもと過ごした立派な日記になっています。自分の生活、読んだ本、お出かけしたことも書き入れたお便りは、授業の進行状況、子ども達の学びの姿の記録であり、教師の貴重な財産となっています。日記を書く時間があれば、子ども達や保護者に読んでいただけるお便りを書くようにします。
学級便りは、子どもと保護者と、少なくとも百人ぐらいの人が読んでくれます。それらの人たちの顔を思い浮かべながら書きます。学年だよりは、クラス数にもよるのですが、4クラスもあれば数百人が読者です。さらに、副校長便り(学校だより)ともなると、もしかしたら千人以上もの人が読むことになります。興味を持って読んでもらえる文章、責任のある文章、教育者としての発信を書き続けることが大切です。この「こぎつね理科」は、現在読者は55人ですが、講義録としてまとめると今後読者が増えます。
お便りを書くことは、教師の大切な仕事ですが、そのお便りを書くことが出来るようになるには、どうすればよいのでしょう。私は、大学生時代の読書量だと思います。しっかり本を読んでおき、常に新しい文章を自分の頭の中に蓄積させていくことです。そして、もう一つは、機会あるごとに積極的に考えを文章に表現していくことです。子どもにとっても、保護者にとっても、価値のあるお便りが書けるように、何らかの努力を始めましょう。
本当に最近、「きつねTのこぎつねだより」というブログに、これまで書いたお便りを整理しながら掲載しています。今、30枚ほどいれました。全部入れると、800枚ほどになると思います。かなり時間はかかりそうなのですが、完成が楽しみです。ぜひ、見てくださいね。小学校の子ども達の学習の様子、先生と子どもとの学び合い、学級作り、いろいろな行事の在り方についてなど、参考になると思います。なお、以前より紹介していますが、現在勤めているこぎつね幼稚園の「自然担当の先生」としてのブログは、「こぎつねさんぽに出かけよう」です。幼稚園の子どもの姿が、すごいです。園児は実は賢いことに、日々驚かされています。全体でお遊戯や歌を歌っている時の姿はただの園児ですが、一人ひとりと話すと、物知りで、科学的で、記憶力がよくて、言葉や経験をどんどん習得しているのが怖い程です。日々、個性的に成長しています。この個性的、自立的成長力を、伸ばしてあげたいものです。
<前回の学習のふりかえり>大学こぎつね
▼KO・3年間、何かをやり続けるという事は本当にすごいなと思った。どうやってテーマを見付けていくのかなと、不思議に思った。教材研究で、オリジナルで児童が分かりやすく体験として実感できるものがすごいと思った。学校で、観察できる月の種類は少ないと思っていたが、意外とたくさんあって驚いた。日数をかけて、変化を観察できるといいなあと思った。
▼HR・・こぎつね理科を読んで、「アクティブラーニング」の構想を、個人の中で育むということが印象に残った。アクティブラーニングを通して、主体性を育むだけにとどまらず、アクティブラーニングを自らする力、つまり自分の主体性を自分で育む力をつけるということが新しい発想だと思った。月や星を使っての観察は、少し手間がかかるけれど、工作のような感じで楽しみながら行うことができ、どの時間帯でも観測できることがよいと思った。
▼FY・・先生が毎回くださるお便りは、今までの総数がものすごく多いことを知って驚きました。テーマを見ていると、子ども達が興味を持ちそうなものばかりだったので、子ども達に読んでもらえるような工夫が冒頭からなされているのだと思いました。理科のお便りは、理科好きに影響し、校長便りは、保護者の事も考えながら書かれていることが分かりました。実際に、カシオペア座がどういう位置で動いているのか、時間帯を設定して調べてみて、星座早見表がとても便利だったし、改めて実際にみたいなと思うきっかけになる授業でした。とても楽しかったです。(きつねT:大学のお便りも、まとめていきます。そのうち、ブログにアップしていけるようにします。)
▼KI・・今日の授業で、月や星の動きの観察の仕方やどのように動くかについて学ぶことができました。また、グループで調べて発表するという方法は、それぞれに役割ができてよいと思いました。南中高度の求め方も知ることができ、夏と冬は、23.4度の地軸の傾きが関係あることが分かりました。(きつねT:発表者を、「カードが一番上の人」としなくてよかったです。なんでも自分達で決めることが大切ですね。これも、自己学習力です。)
▼SM・・子ども達の興味を引きつつ、親御さんに興味を持ってもらえるお便りを書くのは大変だと思った。来週書いてみるのが楽しみです。月や星の観察は、私はだいたいでしかやったことがなかったので、こうやってきちんと高度を測って調べるやり方もあると分かってよかった。各班の発表を聞いて、実際に動かしてみることによって、文章を読むよりは分かりやすかった。
▼MT・・月の動きや星の動きを、実際に模型を造って学んでいくと、平面的に学ぶよりイメージしやすいと思いました。実際の月や星を見て観測することも大切だと思うのですが、私は家で観測することがとても苦手だったので、学校で昼間に観察したり、模型を使って立体的に学んだりすることができると、学びやすいと思いました。
▼YG・・全ての星座や月について調べたわけではないのですが、大きな地平線を使って発表することでとても分かりやすく理解することができた。空間を使って観測を表現することで、より深い学びにつながると改めて感じました。(きつねT:100円ショップのすだれをばらして作る、地平線は良かったでしょ。東西と南北につないだ天球の線も入れられるとさらに良かったのですが、準備に時間がありませんでした。ぜひ、現場でやってみてください。簡易プラネタリウムになりますね。)
▼ON・・小学生でやった記憶はあったが、難しくてよくわかっていなかったんだなと、今回、改めてやってみて思った。また、自分であんまり星を観察していなかったのもあると思う。月の種類や星によっては、昼間や朝、夕方に観察できるものがあるが、やっぱり夜になってしまうので、お便りを通して、親御さんの協力を促すようにすることが大切になる。(きつねT:担任の先生が、星座を見たり、月の動きを記録したりしているかが大切です。先生が理解していないと、指導ができない。どうしましょう。)
▼YH・・私は天体の分野がすごく苦手だが、自分で調べて表現することによって、少しは分かりやすくなったなと感じた。天体の世界は限りなく思えるほど広いので、少しの差が地球に届くまでの間に、大きな差をもたらしていることが分かった。自分の班でしらべたこと以外にも、他の班の発表を聞いて、かみ砕いて説明してくれていたので分かりやすかった。学習のめあてを踏まえた上で、調べることができたのがよかった。(きつねT:学習のめあては、大切ですね。教育実習の授業でも、必ずめあてを言わせるようにしましょう。テーマは先生、めあては子どもが言う。)
▼NH・・毎週続けておよたりを書いていると、いろんな話題を扱うことができると思いました。私は国語専攻なので、もし学級で担任をもつことになったら、言葉や本など、国語的なことにからめて、紹介していけたらいいなあと思います。(きつねT:国語や言葉をテーマに、おたよりを書くことも楽しい事だと思います。このまえ、東京に行ったとき、樋口一葉記念館や松尾芭蕉記念館に行きました。そんな紹介もできますね。私は、村上春樹さんの本は全て読んでいて、谷沢永一さん、高田宏さんの本も、古本を探して、買い続けています。読書は、年間100冊を目標ですよ。本は、数千冊持っています。)
▼KY・・幼いころから星や月を見たり、空を見たりするのが好きだったので、今回改めて勉強すると、もっと知りたくなりました。家で久しぶりに図鑑を開いてみようと思います。夏至、秋分、冬至の南中高度を具体的に計算しました。具体性があることによって、不思議と太陽が身近に感じました。
▼KH・・教室内に水平線を作り、模型を動かすのは大変だけど、とても分かりやすかった。実際に立体で見るのは興味もより惹かれるし、理解の促進につながる。自分達はオリオン座をやったが、高い角度を通っていることが改めて感じられた。
▼YZ・・大きな半球(みたて)を使って実際に自分が動いて観察を表現することで、太陽、月、星座の動きを空間的に学ぶことができた。太陽と月を同時に動かすことで、どうしてこの月の形になっているのかが分かりやすい。きつねTオリジナルの観測方法は、面白く、子どもと一緒にやってみたいと感じた。規模が大きすぎて全体を把握することが難しい単元なので、活動から学ぶことを重視する方が記憶に残りやすいと思った。(きつねT:次回は、大きな半球まで作り上げるようにしたいと思っています。100円ショップの素材でできるので、安上がりです。)