理科における「深い学び」を育む指導法 2017年5月22日(月)
今回のテーマは、「深い学び」という、現代的な教育のテーマに取り組みます。アクティブラーニングを踏まえた能動的、自立的、探究的な学習と関係します。そこで、ここで取り上げるノート指導は、自ら書き進めるノート指導を意味します。黒板をきれいに写すというようなノート指導ではありません。ノートは、自分の書式を求めて書き進め、常にバージョンアップを繰り返しながらより良いものにしていくように指導します。頭の中の構造、考え方が、そのままノートに現れます。理科のノートは、理科の追究を踏まえて書き進めることが大切です。それには、他の教科と違った書式、思考方法があります。基本的な形を身に付けながら、それを改革、改変していきながら、より分かりやすい、深まりのある学習が進められるようなノート作りを創造させましょう。
1.理科の学習ノートと関連する学習活動
こぎつね小学校では、中学年ぐらいから、板書を子どもにさせるようにします。板書は、話し合いを進める時のメモ(記録)としての役割を果たします。自分達で、話し合いの記録を黒板に書きながら、議論、討論を進められる子どもに育てたいからです。黒板を、教師の教える教具から、子ども達が使う道具へと位置付けていきます。先生と子どもが、協働して書き進める板書にします。
子どもが板書できるようになるためには、低学年よりメモを取る習慣を身に付けさせることが大切です。「朝の元気調べ」①や「自由研究発表」②など、お友達が話している内容を聞き取ってメモをさせます。最初なかなか聞き取れない、時間がかかって書けない子どもも、毎日の活動なので、次第に書き取れる内容が増えてきて、一年もすると、殆どの子どもがそれなりに記録を取れるようになってきます。さらに、二年、三年と続けると、話しながら記録が書ける子どもに育ちます。そして、子どもの手元には、すごい量の情報が残っていきます。教養としての生活の中の出来事や知識がつながり、さらなる学びを支える基盤ネットワークも出来上がっていきます。
このように、聞き取って書く技能が身に付いてくると、板書が書けるようになり、さらに、ノートも聞き取って書けるようになります。ここで初めて、自分で書き進める理科学習ノートになってきます。理科の追究の書式、友達や先生の話したこと、自分の考え、参考書教科書の知識が合わさった、探究のための深い学びを進めるノート作りができるようになります。
① 朝の元気調べ
1年生の最初の日から、「今日小学校に来て、見つけたことや、思ったことを言いましょう」と、一人ひとり名前を呼びながら、何か一言、話をさせます。自分から話が難しい子どもには、好きな遊び、好きな食べ物、飼っている生き物など、こちらからおたずねをする場合もありますが、殆ど、何か話すことができます。新1年は思っている以上にしっかりしています。一言の発表の中に、「子どもって、そんなところに興味がいっているんだ。」「よくみているなあ。」などと感心させられながら、子どもの賢さ、すごさ、侮れない能力に、教師が打ちのめされます。今年の1年生もすごいと、教師が身を引き締めます。教育のスタートは、ここにあると考えます。朝の元気調べは、それから毎日、進められることになります。
②自由研究発表
自由研究は、朝の元気調べの時に、「今日、私は、カエルを持ってきました。後で発表します。」と言う子どもから始まりました。物を持ち込んで、それをモニターに映しながら学級のお友達に発表し、おたずねをしてもらう活動です。あまり詳しく話をすると、おたずねが出ないことを体験すると、あえて不親切に「私はつくしを持ってきました。おたずねしてください。」といい、「どこで取ったのですか。」「誰と取りにいきましたか。」「私は、食べたことがあるのですが、食べますか。」など、対話的な活動を楽しむようになります。物を持ち込む発表から、模造紙に絵を描いたり、調べたことをまとめたりしてきて、発表をする子どもも現れます。自分の身の回りの興味を、聞いてもらい、おたずねをしてもらうという、まさにアクティブラーニングの活動が始まります。
2.独自学習とアクティブラーニング
独自学習する時間は大切です。自分の考えを持ったり、まとめたり、発信する準備をしたりするための時間です。新しい単元に入る時、先ず、自分で考えます。すぐに参考書、インターネット、辞書事典に頼らないで、自分で考える時間を持たせます。例えば、国語の「ごんぎつね」の単元でも、最初に子どもが文章に向かい合い、自分なりに読み込ませて、考えや感想、そして、おたずねを持たせるようにします。もちろん、理科でも同じです。教師の面白実験、導入実験で、興味付けしなければ学習が成立しない子どもに育ててしまってはいけないのです。じっくり物を見たり、静かに考えたりする、独自学習の時間を取るようにします。「深い学び」はここから始まります。自分なりの読み方、深め方、考え方を持たせて、次に、相互学習に向かうと、他の友達のすごさや違いがわかり、独自学習の質が問われてくるのです。
3.新学習指導要領における電気の単元のつながり
新しい指導要領が文科省より提案されて、教科書もその内容に沿って、作り始められています。今回の理科の指導要領では、各学年での目指す力が明確にしめされ、各学年で習得された力の積み上げによって、理科の問題解決のステップを高めていくように構成されています。
3年 差異点や共通点を基に,問題を見いだし,表現すること。
4年 根拠のある予想や仮説を発想し,表現すること。
5年 関係する条件についての予想や仮説を基に,解決の方法を発想し,表現すること。
6年 より妥当な考えをつくりだし,表現すること。
3年生では、問題を見つけること、4年生では、見つけた問題について根拠ある予想や仮説を発想すること、5年生では、条件を整理して予想や仮説を解決する実験方法を発想すること、6年生では、実験の結果から考察をして結論を導き出すことに、なっています。
以下、電気関連の指導要領は次のようです。
<3年>
(5) 電気の回路について,乾電池と豆電球などのつなぎ方と乾電池につないだ物の様子に着目し,電気を通すときと通さないときのつなぎ方を比較しながら調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 電気を通すつなぎ方と通さないつなぎ方があること。
(イ) 電気を通す物と通さない物があること。
イ 乾電池と豆電球などのつなぎ方と乾電池につないだ物の様子について追究する中で,差異点や共通点を基に,電気の回路についての問題を見いだし,表現すること。
<4年>
(3) 電流の働きについて,電流の大きさや向きと乾電池につないだ物の様子に着目して,それらを関係付けて調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付 けること。
(ア) 乾電池の数やつなぎ方を変えると,電流の大きさや向きが変わり, 豆電球の明るさやモーターの回り方が変わること。
イ 電流の働きについて追究する中で,既習の内容や生活経験を基に,電流の大きさや向きと乾電池につないだ物の様子との関係について,根拠のある予想や仮説を発想し,表現すること。
<5年>
(3) 電流がつくる磁力について,電流の大きさや向き,コイルの巻数などに着目して,それらの条件を制御しながら調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 電流の流れているコイルは,鉄心を磁化する働きがあり,電流の向きが変わると,電磁石の極も変わること。
(イ) 電磁石の強さは,電流の大きさや導線の巻数によって変わること。
イ 電流がつくる磁力について追究する中で,電流がつくる磁力の強さに関係する条件についての予想や仮説を基に,解決の方法を発想し,表現すること。
<6年>
(4) 発電や蓄電,電気の変換について,電気の量や働きに着目して,それらを多面的に調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。
(ア) 電気は,つくりだしたり蓄えたりすることができること。
(イ) 電気は,光,音,熱,運動などに変換することができること。
(ウ) 身の回りには,電気の性質や働きを利用した道具があること。
イ 電気の性質や働きについて追究する中で,電気の量と働きとの関係, 発電や蓄電,電気の変換について,より妥当な考えをつくりだし,表現すること。
4.ノートとレポート
理科では、学期に一度程度、レポートを書かせるようにしています。レポートは、日ごろのノート表現の集大成で、理科のノートがしっかり書けている子どもが、レポートも問題解決の過程に沿って上手に書き進めることができます。また、理科室前廊下に掲示されたレポートを相互に見ることによって、理科ノートの書き方も高まっていきます。今、教えに行っている大学生にも、実験をしながらレポートを書かせています。それは、板書を書く練習にもなるからです。
レポートは、新学習指導要領にもあるように、問題解決の過程にそって書き進めます。
⑴課題と、その問題点、疑問点を持つところから書く。
⑵問題点や疑問点に対する、根拠のある予想や仮説を書く。
⑶条件をそろえて、実験の方法を考え、実験を行い、結果を書く。
⑷結果から、考察を考え、結論を導き出す。
⑸ふりかえりの感想を書く。
おわりに
子どもが学習力をつけるということは、教えて学ばせることではなくて、自ら行動し始める子どもを育てることにあります。子ども自身が試行錯誤して初めて、自分の力になっていくと思います。そのためには、「教えない」「教師が先頭に出ない」ことが大切です。
「これから〇〇の学習をするんだけど、どうする?」「こまったね」「何からしていけばよいのかなあ」「次はどうしよう」「それはいいね」「すごいね」「先生にも教えてね」と、いうような言葉を、子どもと共に進める学習の中で、私は見つけました。今、幼稚園の自然担当の先生をしていますが、そこでも同じです。中学校、高校でも使える言葉なのですが、これまで教え込まれてきている子ども達には、このような言葉を使うと、先生として認めてもらうまでに時間がかかります。今、大学生を数校で教えていますが、同じです。
そこで、教え込まれることに慣れてしまっている子ども達が自ら動き始めるためには、最初は、動いて学ぶ環境を教師がしっかり整えてあげて、そこで、試行錯誤できるようにします。自ら動いて学ぶ喜びを感じられてきたら、次は、自分達で、環境から創っていくように育てていきます。資料を集めたり、聞き取りをしたり、実験をしたり、参考書を読んだりするようになります。そうすることによって、だんだん不親切にしても、学びを自分で立ち上げることができるようにします。最初から不親切にすると、戸惑い、教師に対して反感を持つようになるので、自立に向けての手順が必要なのです。長く教え込まれてきている子どもほど、時間と手間がかかります。さらに、学習の進行(理科係)、板書、実験計画なども、子ども達が進めていくようになります。先生は、備品、消耗品の確保、安全管理、時間的な見通しなどの担当になり、学習の中身は子どもの発想をつないでいくことで、深めるようになってきます。今回のテーマ、「深い学び」のスタートをここに置きたいものです。
子どもの自律した学びを、さらに深めるには、どうすればよいか。これは、先ず子ども主体の学習が動き始め、その時の子ども達に聞くようにするとよいでしょう。子どもに学ぶのですね。先生には、論理力と哲学が必要です。先生が、常に本を読んで学び続けると、子どもも学び続けます。
若い先生方、頑張りましょう。
<前回の学習のふりかえり> 大学こぎつね
▼IH・・ことごとく予想が外れてしまいました。小学校で習ったはずのことが分からないことにショックを受けました。今回はかなり時間との闘いだったのですが、結果が出てよかったです。本来は、課題を見付けて独自学習を深めることで、より深い学びができるように思えます。こぎつね理科のおたよりについて、前の授業で見たビデオの中でも、児童が黒板にすらすらメモを書いていて、私はあれほどまで書く事ができないので、毎回の積み重ねであそこまで書けるようになるとはすごいと思いました。他の授業でも応用できる技術は必要であると思いました。
▼KM・・予想と同じように、ひもの長さが変わると一回の振れる速さも変わることが分かった。ここまで本格的に実験を行ったのは高校の時の物理以来だったので、班の人と協力し、スムーズに進行することができた。また、自分が小学生の時に、このような実験をしていた記憶がなかったため、今の子どもはこんなことをするのかとびっくりした。
▼IT・・自分の予想と大きく外れて、正直とても驚いた。少数第一位という数値が、小学生にとても分かりやすい値となって表れたのでよいなと思った。今回は、結果が非常に分かりやすく、上手に出たのでよかった。このレポートの書き方は、一枚でとても見やすく出来上がるし、小学生にもきちんと理論立てて書く事ができる体裁なので、私が教師になった時も、ぜひ使いたいと思った。
▼US・・予想とあっている所もあれば、外れているところもあって楽しかったです。データが正確でなかったので、少し悔しいですが、またこのような機会があった時は挑戦してみたいと思いました。グループで協力しながらの実験は、小学校や中学校ほど大切だと感じました。
▼KI・・長さを変えると、振り回数が増えるのは予想通りだったけれど、重りの重さと振れ幅を変えても振り回数は一緒だったということは予想外でした。たしかに、よく公園でもブランコで遊ぶ子ども達を見ますが、大きな子も小さな子も同じスピードで揺れているなと思いました。
▼OM・・実際に実験をするまでは、重さや長さについても違いが出ると思っていたが、予想とは違って、長さだけが影響するのだと分かった。このように、簡単に行える実験だと小学校にも取り入れやすく子ども達も難しすぎずに行えるのではと思う。ただその際に出したごみは、捨てて帰るなど、理科室のお作法についても教えていきたいと思います。
▼IS・・今回の条件を設定して、一つずつ変えていくことで、こんなにも分かりやすい結果が出るということに気付きました。最初は、どれも条件を変えると、結果も変わるのと考えていたので、驚きが大きかったです。また、最後に表に記入した結果をグラフに書き表すことで、長さで変化があることに加えて、変化の度合いも紐の長さを長くしていくと、緩やかになるということにまで気づくことができました。このように、出た結果を目に見える形で、いろいろな方法によって表すことで、分かることがあるということを知ることは、学習をしていく上で深い学びにつながると思いました。
▼KY・・予想と結果が違うことがとても面白かったです。今までは、予想が外れることが怖かったけれど、今はワクワクします。こぎつね理科でもありましたが、レポート、板書、ノートの取り方を学んでおく必要性を改めて感じました。
▼SM・・予想の段階では、重さと振れる幅も、ブランコの速度と関係があると考えていたが、実験してみて、そうではないと分かった。長さは三段階しかできなかったので、もっといろいろな長さで実験して、比例しているのかも実験してみたいと思った。グラフにすると、どんな実験結果だと目に見えて分かりやすいと思った。
▼NN・・今回は予想に反する結果が出た。実験を自分の手で行うと、例えば予想に裏切られても、真実を受け入れることが容易にできるので面白いなと思います。この実験のように、テータを多く扱う場合、頭が混乱してしまうので、表の作り方、グラフの作り方を、実験を始める前に児童を考え、意見を出し合っておくとよいなと思いました。この単元の終わりの方で、ビー玉をはじめ、コインやボールなど、身近なもので形が変わっても糸の長さを変えなければ振れる回数は変わらないという実験もやってみたいです。「こぎつね理科」からは、人の話しをメモすることが、人の話しを聞く力を付けるのに役立つことを知りました。
▼FH・・10分の1秒単にで、同じになるのが不思議で楽しかったです。高校物理をやっていた時は、振幅を変えても振れる速さが変わらないことを理由も知って納得していましたが、完全に忘れてしまいました。また、調べて思い出してみようと思います。このように実験をすると、改めて知的好奇心が書きたてられることが、素晴らしい意義の一つであると思います。
▼AY・・高校の時の物理学基礎の授業でやったことを思い出した。ふりこを、ブランコに絡めて学習の導入とすることで、子どもも取っつきやすいと思った。
▼MR・・重さや振れ幅を変えたときも、振れる速さは変化すると予想していたが、実際は長さを変えたときだけ振れる速さに変化があった。ということは、ブランコは短い程、早く動くということである。昔、ブランコを回して鎖を短くしていたが、あれは高さが上がるだけでなく、速さも変わっていたのだと感動した。また、こぎつね理科の教育の目的(形から入るべきでない〜)の内容を読んで、どの教科でもいえることだし、大切にしていきたいと思った。
▼NI・・たくさんの実験をしたり、記録をしたりしなければならなかったけれど、協力してやれば、思ったより早く終わったし、よい結果が得られました。また、子ども達が普段よく使っているブランコを題材にしてあったので、子ども達も予想を立てやすいだろうし、結果が出るだろうと思いました。改めて題材選びの重要性を感じました。
▼OH・・自分の予想とは違っていた。重さを増すと、振れる速さが早くなると思っていたのに、実際はそうではなかった。数式などで説明されるより、実際にやった方が、何倍も楽しく分かりやすいと思った。
▼MI・・子どもの頃、ブランコに乗る時、くさりの部分をくくったり上の棒に巻き付けたりして乗っていた。当時はこのような法則を知らなかったけれど、子どもは自分の中で見つけていくんだなあと思った。
▼SM・・物理を高校で選択しておらず、今日の結果も知らなかったが、予想がまさか外れるとは思っていなかったので、実験してみて驚いた。もし、小学生の時に、同じことをしていたら、理科ってすごい。面白い。と思っていただろうと思った。
▼YM・・実験する途中で、工夫をして、どうすれば測定しやすいか、正確な結果になるかということを考えるのが大切だと思いました。今回の実験であれば、机に定規を貼って振れ幅を測りやすくするなどの工夫ができました。このように、工夫するということは、子ども達の考える力を伸ばすものにつながると思います。
▼TN・・今週は先週よりも、グラフと表を書くのが難しかったです。どんなふうに表を書いていいのか全く分からず、ただ単に時間を書き込むだけになってしまいました。もっと、書き慣れて、早く対応したいです。