問題を見出し表現する学習 201751日(月)

 

 物事を見ていくとき、問題(おたずね)を見出すことから、見方や考え方の進歩が始まります。ただ、見ているだけ、認めているだけでは、それ以上の深まりはそこにはありません。なぜ、こんな形になっているのだろう、なぜこんな動きをするのだろう、この昆虫の色はどんなことに有効なのだろうかなど、疑問をもつことが探究的な学習の始まりです。

 こぎつね小学校の活動では、なかよし委員会(児童会)からのお伝え、自由研究発表、意見発表など、あらゆる発表の後、必ず、「何か、おたずねはありませんか?」と子ども達は言います。これは、とても大切な習慣だと思っています。先生が何か説明をしたり、連絡をしたりした後にも、先生も「何かおたずねはないですか」といいます。時には、あえて不親切な説明をして、おたずねを引き出すようにすることもあります。例えば、「来週の水曜日にやっと東大寺に行けることになりました」とだけ言います。そして、「何かおたずねはないですか」と言います。子ども達は一斉に、「どこに集合ですか」「持ち物は何ですか」「何時の電車に乗りますか」「東大寺ではおたずねができますか」など、あらゆる状況を考えておたずねをします。気持ちが走っています。自分一人で行くような勢いで、あらゆることを聞きます。それらのおたずねをつないでいくだけで、学級遠足のしおりができます。その話し合いの司会は日直がしているので、子どもの力で、ほぼ話し合いは進んでいきます。先生は、極力少なく話すことで、子ども達は自分で学習の状況を作ります。

 理科の学習でも一緒です。「植物の観察をします。何かおたずねはありませんか」とすると、植物が、自分の学びの対象になります。植物の作り、成長、増え方、環境との関係など、おたずねを整理していくことで、植物の全体像を明らかにしていこうとする探究のスタートができます。これから調べていく視点が定まります。また、観察を終えてから「植物の観察をしました。今日の活動のふりかえりを書きましょう。分かったことだけでなく、さらに、調べてみたいことも書きましょう」とすると、探究の問題が次へとつながり、さらに家庭学習も取り込み深まります。

 今回は、磁石の学習で、追究の問題を作ってみましょう。磁石は、理科実験の中では安全な素材ですので、自由に扱ってもけがをすることがありません。そこで、自由活動の時間を与えます。その活動の中で、不思議だなあと思うことを書き出すようにします。グループで話し合って整理し、その不思議の数を競わせるようにします。ちょっと競争心があると頑張る子どもがいます。大人からすると、教科書に書かれてあるので、それを見れば答えは殆ど分かると思いがちですが、教科書を読んでわかる子どもは、ほんの一部です。塾とかで先に習っていて、いろいろ先行知識を自慢する子どももいますが、実際の磁石でその現象を確認できている子どもは、ほぼゼロに等しいと思っていいでしょう。一部の子どもの知ったかぶりに動揺することはありません。レベルの高い子どもは、それなりの高い課題を持てばいいだけです。自然は、そう簡単に分かってしまうものではないのです。ここでも、「何かおたずねはないですか」は、学習の根本原理で、自律的学習のスタートラインです。魔法の言葉ですね。

 次に、「おたずね」を、どのように「探究の問題」にしていくかというのは、先生にとってとても大切なステップとなります。簡単なこと、子どもにとって難しいこと、的外れなことなど、いろいろ混じっています。「どれから、調べていきましょうか。できるだけ簡単なおたずねから、取り組みましょう。」と、指示します。ここがキーポイントです。

 また、「おたずねや疑問」は、なぜ~なのか、どうして~なのか、などの言葉で示されていることが多いと思います。「なぜ、どうして」ということは、案外、解決できないことが多いのです。そこで、それを、探究問題の書式にするには、比較の形に書き直すようにします。「なぜ」を調べるのに、〇と〇を比較しながら、そこからわかることを引き出すようにします。そうすると、少し、その「なぜ」に迫ることができます。状況の違いを理解するのです。子どもの「なぜ」は、子どもの知りえるレベルの探究では、到底理解できない現象が多いのです。

 「なぜ、磁石は鉄をひきつけるのだろう」という問題が子どもから出されます。これは、なかなか難しい問題で、インターネットや参考書などで調べて、答えてしまいたくなるのですが、それでは、子どもの問題解決になりません。理科では、素朴な疑問から、実験の課題にしていくには、「磁石につくものとつかないものを調べる」、「磁石についている鉄は、さらに鉄をひきつけるのだろうか」「いろいろな鉄を集めて比べる」など、解決ができる作業レベルの課題にしていくことが大切です。実験ができる課題にしていくのです。この、「素朴な疑問」と「実験で確かめることのできる実験の課題」の違いを理解しましょう。

例えば、理科の論文を書くときも、「なぜ水は0℃で凍らないのか」という疑問を見つけたとします。そのことを、いろいろな条件で実験をしていくことで確かめていきます。「水道水と純水とミネラルウォーターで比べる」「冷やし方の方法を変えてみる」「水を入れる容器を変えてみる」など、実験ができる方法を工夫します。小学校の理科でも一緒です。子どもは平気で、「なぜ太陽は熱いのか」「ゾウの鼻はなぜ長いのか」「種からなぜ芽がでるのか」などと言います。実験のできることに置き換えて、問題の解決に近づくようにしていくのが理科の問題解決です。

 

■磁石の学習

 なぜNS極があるのか、磁石には種類がどれぐらいあるのか、磁石の強さはどこまで強くなるのか、電磁石と磁石の違いは、電気と磁石は関係があるのか、鉄以外に磁石につく金属はあるのか、方位磁針は磁石なのか、なぜ方位磁針は北南を向くのか、地球が磁石になっている理由は、地球の地磁気はなぜ時々入れ替わるのか、などなど、いろいろな「なぜ」があります。できることを、限られた時間で、子どもの発達段階に合わせて、問題解決することになります。どのような、実験の課題に置き換えて、問題解決ができるでしょうか。

 

 <新学習指導要領>

(4)磁石の性質について,磁石を身の回りの物に近付けたときの様子に着目して,それらを比較しながら調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

ア 次のことを理解するとともに,観察,実験などに関する技能を身に付けること。

 () 磁石に引き付けられる物と引き付けられない物があること。また,磁石に近付けると磁石になる物があること。

() 磁石の異極は引き合い,同極は退け合うこと。

イ 磁石を身の回りの物に近付けたときの様子について追究する中で,差異点や共通点を基に,磁石の性質についての問題を見いだし,表現すること。

 

<前回の学習のふりかえり> 大学こぎつね

NK・・先週植物を観察したときよりも、さらに細かく観察し、花びらの付き方や枚数を数えたり、おしべとめしべを発見したりすることで、花のつくりを知ることができました。また、授業の初めに、学習のテーマを確認し、学習のめあてを考えたり、前回のおさらいをしたりすることで、より自主的になる授業をスタートさせられることに気付きました。おたずねをすることで、内容の把握を主体に行うことができ、効果的です。「こぎつね理科」からは、散歩コースを複数用意しておくなど、臨機応変に授業を進める力や計画性が必要だと感じました。(きつねT:学習のテーマ、学習のめあて、学習のふりかえり、が必ずノートに書かれてある学習をしてください。国語算数は当たり前、音楽、体育、特活、全ての学習で必ず書かれてあることが大切です。)

HT・・植物を実際に自分で解剖してみて、花のつくり、名称、形、特徴など、教科書で見るだけより鮮明に記憶に残ったと思います。しかし、タンポポのめしべとおしべを区別することができなかった。ここは専門の知識が必要だと思った。資料を読んで、小学校低、中、高学年で、目指している理科のレベルが分かった。それぞれの学年に合わせた授業を組み立てる必要があると、より一層感じた。他の人の意見を見るのも大切だと思った。自分の感想と異なった視点を持っている人がほとんどだったので、自分のものとして取り込みたいと思う。「こぎつねだより」を見て、最初の導入部分が上手だなあと思いました。学んでいて、引き込まれていきました。(きつねT:おたよりの中に、児童の日記や、ふりかえりを転記して、一緒に学習、学級を創っていくようにしていきましょう。とても手間ですが、子どもの意見を取り込んで初めて、教師との双方向、子ども同士の双方向の学習が始まります。)

KW・・今日の授業で花のつくりを詳しく見ていって、つつじはめしべ、おしべが分かりやすかったけれど、タンポポは花びらが多くて難しかったです。花のつくりは、小、中学校で習ったけれど実際に見て気づくことがたくさんあったので、児童たちにも経験してもらいたいと思いました。児童たちが主体となる授業が大切だと改めて分かりました。(きつねT:今回、実物を全員がさわれる適当な植物は、この三種類でした。ツツジは、咲いているかどうか、当日まで分かりませんでした。よかったです。本当は、アブラナが一番わかりやすいのですが、構内になかったので残念でした。まったく違った三種は、面白かったですね。適度に困難があって、よかったです。)

IH・・メスを使用しているので、子ども達が使うときには、十分に注意しなければけがにつながるので、気を付けなければならないと思いました。ツツジのおしべとおしべは、分かりやすかったのですが、カラスノエンドウやタンポポは見つけづらく、こういう時には、教科書なども使用するべきだと思いました。スケッチや採集など、自ら学ぶことで、興味や好奇心をかりたて、よりよい学びができる学習は大切だと思いました。新しい指導要領で、3~5年で、学年があがるにつれて、より具体的で、深い学びが進められていることを改めて感じました。(きつねT:3年生からメス、ピンセットを使わせます。今回、ツツジとタンポポの図をとりあえず示しましたが、興味や好奇心を持ってもらったと思います。教育は、教えない説明しないというのが基本です。もやもやを持ち続ける力が、追究力になっていきます。)

YZ・・花を実際に分解することで、それぞれに特徴がみられました。ツツジは、花弁がつながっていて、おしべとめしべが見分けやすいが、タンポポは多くの花弁が一枚ずつ付いていて、おしべとめしべの見分けがしにくかった。カラスノエンドウでは、種子の成長も観察できた。外見の観察だけで終わらず、学習をつなげられることはよい学びになると思う。学校外に「さんぽコース」を作るということは、参考にしたいと思う。季節ごとに散歩すれば、発見できるものも増えて楽しく学習できそうだと感じた。(きつねT:さんぽはとても大切にしています。私はいつも機会を作って、あちこちをフィールドワークしています。先週は、京都教育大学から京都三条まで歩きました。8キロほどのさんぽでした。常に、自然の中、その地の風土の中に身を置くこと、大切です。)

OM・・今回は、ツツジ、カラスノエンドウ、タンポポの分解をしてみたが、どれも作りが複雑で、どれがどれなのか、よくわからなかったので、もう一度、教科書や図鑑で振り返ってみようと思う。本来ならば、この分解から何を学んだかということが大切になってくるのだと思うが、今回は分解して、少しスケッチするだけで精いっぱいだった。そう考えると、学習指導要領では、とても高度なことが求められているのだと思った。また、前回の振り返りで、何人分かプリントで紹介してもらうことで、他の人の考えや感じ方を知ることができてよいと思った。(きつねT:「もう一度、ふりかえってみようと思う」ということから、学びが始まります。何かわからないことが見つかると、独自の学習が始まります。わからないことを開発していくのが先生の仕事で、自ら学習する子どもを育てることになります。「おたより」については、先生と子どもの宝として、ずっと残ります。私は、教職2年目からのおたよりを、全て残しています。今回の、こぎつね大学のおたよりも、たぶん財産としてずっと残っていきます。)

US・・花のつくりを確かめるための分解は、細かい作業で難しく感じました。私が小、中学生の頃も難しいと感じたと思い出しました。けれど、自分で分解して花を構成する部分を知るのは、教科書を読んだだけでは得られない新鮮な感情や発見という体験ができる上でも、生徒たちにとって良いものではないかと感じました。また、分解した時、うまくパーツが見つけられない子がいたときに、自分の方でもあらかじめ採集しておき、準備したものをその生徒に見せて、実物はどのようなものかを見せられるような配慮をするのもよいのではないかと、この授業を通して感じました。(きつねT:あまり、親切にするよりも、不親切な教育、教えない教育を積み重ね、独自学習を引き出す教育を創っていきます。簡単に分からせないことです。いじわる狐です。)

KD・・今日は、自分たちで、花を採集して解剖しましたが、おしべやめしべを見つけるのは、なかなか難しかったです。でも、逆に、それを調べるために、先生に質問したり、友達と相談したりして、コミュニケーションが取れたので、よかったなと思いました。また、自分自身で調べることによって、より理解が深まったように思います。また、幼稚園の子ども達は、植物より動き回る動物の方が興味を示すとあったので、個人的に意外だなと思いました。なので、植物を利用して、何か子ども達に親しんでもらえる方法はないかなと思いました。(きつねT:今回、この学習環境を作るために、授業のサポートの方が、ピンセットやメスを、あちこちの研究室から借りてきて、人数分集めています。学習環境を作る努力があって、学習は成立しています。青い画用紙は、きつねTが自費で買ってきたものです。授業って、環境を作るのは難しいのです。教えるのは簡単です。どのようにして、環境を作り、いかに教えないか。いかに自ら疑問をもたせるかですね。)