3年生に育つ科学的な思考力-学び合いによって深まる力- 2013年2月
1.はじめに
3年生の担任をしていると、子どもたちは大人が思っているよりもよく学んでいて、知識が多いことに驚かされることがあります。また、大人が思っているより、意外と思考が未熟な部分があるとも感じられます。理由の一つは、知識を整理しないままでも覚えることができる能力が発揮される年頃だからなのかもしれません。そしてもう一つは、①条件と見通し、②全体と部分、③多面的な関係性、④論理性などの思考力、に関しては、これから育つ成長期にあるのだと思います。
ここでは、3年生の理科学習において、これらの思考力の中の①条件と見通しの思考、②全体と部分の思考が、学び合いによってどのように育っていくのかについて、考えてみたいと思います。
2.子どもの生活の中の「条件と見通し」の考え方
3年生は、クリスマスのプレゼントを、サンタさんから貰えると思っている子どもがたくさんいます。かみなりさまに、おへそを取られるとも思っています。また、自分の持ち物が見当たらなくなると、連鎖的にあれもこれも盗られたと言い張り、不安が重なり多くの子ども達が大騒ぎになることもあります。このような状況は、実は大人も一緒で、占いや困った時の神頼み、うわさと思いつつもパニックになって行動するというようなことと同じです。子どもとあまり変わらない思考の傾向を、ずっと大人まで持ち続けることもあります。
「ものと重さ」の学習時、「体重計を保健室から理科室へ借りてきているのですが、どのような実験をしてみたいですか」と問いかけました。そうすると、次のような実験をしてみたいと子ども達は考え、半数ぐらいの子どもたちは、次のような予想を持ちました。
・体重計の上で立っているより座るほうが重くなる
・体重計の上で力を入れると重くなる
・片足で立つと両足で立っているときより重くなる
・水を200g飲んでも、その分だけ体重は増えない
これらの予想は、日頃のいろいろな生活体験からきています。子どもたちは、予想の理由としてこれまでの生活体験を話しながら、自分の考えの根拠としていました。
わが校には遊具のブランコがあります。低学年の子どもたちはブランコが大好きです。ブランコに乗っていると、立って勢いをつけている時と、座って乗っている場合ではスピード感が違っている体験をしています。また、毎年二回、春と秋の運動会で行う団体競技の綱引きでも、相手に引かれないようにするには、腰を下ろして座りなさいと、いつも指導の先生から言われています。さらに、プール水泳の時、フワッと浮いているところに、体に力を入れると沈むなどの体験もしています。このような、体重計の上とは全く条件が違うのですが、状況の違う先行経験から、小さく座ると、また、ぐっと力を入れると体重は重くなるということを、考えの基にしているようです。
さらに、次のような経験もあります。プロレスごっこで上に乗りかかられた時、体全体で乗られた時より片足で乗られた方が痛い経験をしています。また、テレビ放送や大人の会話から、水は飲んでも栄養にならないと言われているので、飲んだ分だけ体重が増えないというような考えにつながっていると思っています。
体重計の実験では、「体重計の上では」という条件で、重さがどのように変化するのかが問われています。子どもたちが理由説明に引き出した体験は、さらに高学年に進んだ時に学ぶような、ふりこの動き、水中の浮力、重心とつり合い、単位面積当たりの重さなど、条件が違ったところでの重さの変化の考え方に関係します。
私たち教師は、自分の設定した問題の条件の中でものごとを考え、子どもの発想をよく聞きもしないで間違いとしてしまいがちです。実は、子どもたちの考えている状況と、教師が設定している状況が違うという見方をすることが、大切であることが分かりました。
サンタクロースやかみなりさまに関しても、子どもたちが幼いころから、親が真顔で信じるように言い聞かせてきたことです。子どもにとっては、体感や伝聞でのことで、真偽を問われても、実際に条件を決めて実験や調査をしたことがないというのが本心だと思います。
また、国語学習の時、たとえば「ごんぎつね」の学習など動物が出てくる作品で、心情を読み解いている時、「なぜ、きつねがしゃべるのですか」「きつねは、うなぎをつかまえるのですか」というようなおたずねをする子どもが低学年では時々います。「これは物語だから」と、お友達に意見されて、ハッと我に返るというようなことがあります。このような、子ども同士の対話による状況把握を何度も繰り返しながら物語という条件の中での学習であることを理解していく様子もみられます。
さて、以上のような生活体験、言い伝え、物語などの学習の中で、子ども自身が状況を把握し、条件はどのようなことがあるのか思考する習慣を身に付けさせたいものです。すべてを科学的に実証していく必要はありませんが、論理的に考える習慣、実証的に行動する力を、理科では大切にしたいと考えます。
3.「全体と部分」の考え方
現在担任をしている3年生は、先にも書きましたが知識をそのまま覚えることができるようです。引き出しに整理して入れていくのではなくて、並列に語彙を増やし、漢字を覚え、新しい言葉を増やすことができます。この能力は、3年生に特別あるのではなくて、幼い子どもたちが、言葉を獲得していく能力としてあるのでしょう。記憶力がとてもいい年頃です。知識が一気に増える年頃なので、3年生では、「全体と部分」を常に意識ながら学習を進めるようにしたいと考えます。
理科の学習の中でも、「全体と部分」を意識した取り組みを進めます。3年生の理科では、金属について学ぶ学習単元はありませんが、重さ、電気、磁石などの学習単元の中で、連続して取り上げる大切な素材としました。
金属は、金属という物の名前ではなくて、金属というグループの名前です。抽象的な言葉の習得にあたります。そのため、金属というグループの広がりと、グループに共通する特徴について学ばなければいけません。
金属は、鉄、銅、しんちゅう、アルミニウム、鉛、金、銀、すず、亜鉛、ニッケル、マグネシウム、水銀などを、理科室では準備できます。その中で、「ものと重さ」の単元の重さ比べに使える同体積の金属は、鉄、銅、アルミニウム、鉛、しんちゅう、などです。他の金属は、同体積当たりの比較には使えません。子どもたちの天秤を使った実験によって、鉛、銅、しんちゅう、鉄、アルミニウムの重さの違いを調べることができました。この実験によって、「物にはそれぞれ決まった重さがあること」を、初めて知ることになります。「金属」と「鉄」という言葉を同じ意味に扱っていた子どももいましたが、いろいろな金属の重さ比べにより、階層性の違いに気づくことができました。
さらに、金属のグループだけでなく、木材のグループも、6種類ほど準備できました。木も種類によって重さが違っていて、さらに、重い木は水に沈むことも分かり、重さの学習に広がりが出ました。
今回はまた、粉類や液体というグループの重さの比較もしました。粉類は、小麦粉、砂糖、食塩の3種類、液体は、醤油、水、油の3種類です。さらに、これらの学習時には、固体、液体、気体という、さらに上位のグループの名称も整理しながら使うようにしました。子どもたちにとって、金属や木材、固体や液体などの言葉は、初めて出合う概念でした。
このような「全体と部分」の学習は、春の植物の観察でも少し意識して取り組んできました。校内や学校周辺で植物を観察して、押し花を作るとき、名前調べのために、子どもたちは植物図鑑を使いました。その時、科名も調べている子どもがいたので、「押し花を科名ごとに整理してみるといいね」とは言ってきたのですが、3年生になった当初の学習だったので、科の広がりや共通点を取り上げた考察はできませんでした。
今回、子どもたちの金属や木材の物質感の深まりは、次のように、理科ノートの「学習のふりかえり」に書かれました。
A:物と重さをしました。僕は相互学習で比重のことを言いました。銅が比重7.8で、アルミニウムが2.7です。水は1.0です。YK君が金は比重が20.1と言ってくれました。金はそんなに重いんだと思いました。20.1ということは水の20.1倍の重さがあるということなのですごく重いんだと思いました。銀も銅より重くて、比重は10以上です。鉛は銀よりも比重が重いです。他にも聞いた事はないけど、金より比重が重い物はあることが分かったので良かったです。YRさんは密度について言ってくれました。密度とは中にある量のことです。密度は比重と同じで、銅は7.8で、金は20.1です。銅とアルミニウムだと体積が同じでも中に押しこまれる量が違うので銅の方が重いです。
B:重さの比かくをしました。YN君が水に沈む木を言ってくれました。水に沈む木は、黒たん、ローズウッド、ブラックアイアンウッド、びゃくだん、したんという木でした。ブラックアイアンウッドというのは、黒い鉄の木の意味なので、本当にしずみそうだなと思いました。銅よりも重い金ぞくがあるのかで、①イリジウム22.4②白金21.5③金20.1④水銀13.5⑤鉛11.3⑥銀10.5⑦銅7.8ということになって、銅より重い物はたくさんあることがわかりました。金ぞくのことは分かったのですが、スプーンはどんなものでできているのかわからないので調べてみたいです。
インターネットを直ぐに使って調べる子どもたちです。以前の子どもたちは、参考書や事典を使っても、ここまで金属の密度などを詳しく調べることは難しかったのですが、最近は子どもでも簡単に調べられる時代になってしまいました。学校で行う体感を通した実験と、インターネットを使って調べる独自学習がうまくつながっていくと、物質感も一気に広がりを見せることが分かります。
4.「全体と部分」の概念の深まり
さらに、粉類、液体の物質感の深まりは、次のような理科ノートの記述に見られます。
C:今日、液体と粉類の実験をしました。同じりょうなのに、なんで重さがちがうのかなと思いました。とくに液体は、油が2番だと思っていました。なのに一番軽かったです。そのことを考えてみたいです。
D:粉類の実験3ではなぜ塩が重たいのかを考えました。たぶんけっしょうの大きさで重さがかわったと思います。そして、液体の実験4ではたぶん、しょうゆは味がこいので、たくさん塩分や大豆などがはいっているから重くなっていると思います。でも、しょうゆの種類によってちがうと思います。
E:実験3のことになります。この結果になったのは、粉の中の水分や塩分はかんけいしていると思う。 KGさんが言っていた、粒の大きさもかんけいしていると思います。私は塩の粒が大きくてその中にたくさんの水分や塩分が入っていると思います。だから塩が一番重いと思います。さとうは、多分粒が小さくて、中にはあまり水分が入っていないと思います。YGさんが言っていた、油のなかみがスカスカというのは、水分などが入っていないからだと思います。だから、油の一つ一つの液が、中身がからっぽということだと思います。
子どもたちからの提案で、「その他の粉類も調べたい」、「水の温度を変えると重さが変わるかを調べたい」、「液体と粉類の重さの比較もしたい」という意見が出されました。教師の構想以上に、学習の広がりが見られました。
F:先生が、磁鉄こうや砂の重さを測ってくださいました。磁鉄こうは200g位で、磁石にくっつく力の分だけ重いのだと思います。
G:相互学習の中で一番面白いなと思ったのはNT君の発表です。発表した事は、70℃の湯と4℃の水では4℃の水の方が重いということです。その理由はわからないけれど、てんびんやデジタルはかりではかると本当に70℃の方が軽くて、4℃の方が重かったです。
H:今回のテーマは、粉類と液体のどちらが重いかをしました。ぼくは、醤油と塩でどちらが重いと聞かれたら、醤油となって、結果は塩の方が重かったです。液体の方が分子は小さいはずなのになぜ塩の方が重いのかを調べたいです。
I:塩とさとうで、塩の方が重いのは、中がつまっているからだと思います。中がつまっているということは、中に空どうがあるということです。ペンギンのほねを思い浮かべるとよく分かります。
5.おわりに
今回は、3年生と進める理科学習を、「条件と見通し」、「全体と部分」という観点で振り返ってみました。教師が、3年生の論理的な思考を意識し、子どもたちの体験を条件と関係させて理解したり、実験素材の分類の階層性を意識して提供したり、子どもたちの独自学習を条件や階層性で整理したりしていくことが、大切であることが分かりました。このことにより物質感は豊かになり、子どもたちの思考は、さらに上位概念である粒子概念を意識して、物質のあり方まで考えようとしていることも、見えてきました。