4年 季節日記を読む 2008年6月
1. 季節日記の魅力
昨年度の専科理科の4年生は、季節日記を一年間に渡って書いていきました。頑張った子どもは、週に3~4日も書きました。4年生と言っても子どもたちはとても忙しい生活をしています。各学級には毎日の日記の宿題があり、また漢字や計算などの宿題、自由研究の記録、塾、習い事があり、そんな中、よく頑張ってくれたと思います。季節日記には、何か子どもをひきつけるものがあるのだと思いました。
「森の生活」ソロー、「ビーグル号航海記」ダーウィン、「セルボーンの博物誌」ホワイトなど、日記記録を読むのが私は好きです。また、植物図鑑を著した牧野富太郎の日記や、鶴見良行のフィールドノートも、とても素晴らしい研究日記です。完成された研究論文ではなく、日々の研究生活の中で、その人がどのように対象に関わって、どのように感じて、それらを記録していくのかを学べます。同じように、子どもたちの季節日記からは、子どもが自然に出会い、その時、何を考え、いかに行動しているのかが読み取れて、とても興味のあるところです。
今回は、その書き続けてきた季節日記を、まず子ども自身で読み返し、そして一年間の季節日記から何が分かるのか、考えてみることにしました。また、書き続けることで、どんな力がついてきているのか考えました。
2.季節日記を書く
一昨年度の4年生は、週一回、2時間授業の最初の15分ぐらいを季節日記の記録の時間に当てて、一年間書き続けました。昨年度は、週一回授業中に書くことと、さらに、週に一、二回、家庭でも書くようにしました。無理をしないで、自分の興味の内容で書くように伝えました。
▼K(4・27) 今日はとても天気がいいです。1.2年生の教室前の花だんには、美しいチューリップやパンジーが咲いています。家の桃の花は咲いています。八重桜は少し散って、葉がまざってきています。最近、テントウムシやバッタ(幼虫)が出てきます。とても「春」だなあと感じられます。奈良公園にも、オオイヌノフグリやタチイヌノフグリやハルノノゲシが咲いています。家の所に巣をつくっているツバメはちょこちょこ砂のような物をもってきてじゅんちょうに巣づくりを進めています。
Kさんは、短い文章の中に、学校の花壇、家の木々、奈良公園の野草と、三箇所の自然を表現し、植物は、チューリップ、パンジー、桃、八重桜、オオイヌノフグリ、タチイヌノフグリ、ハルノノゲシの七種の状況を記載しています。特に、タチイヌノフグリを取り上げていることで、押し花をしながら詳しく自然観察をしている取り組みが分かります。昆虫では、テントウムシとバッタ(幼虫)を見つけ、ツバメが順調に巣作りをしている様子を書いています。10分ほどで、これだけ的確な春の自然表現ができるのです。
▼T(4・27) このあいだ、駅でツバメを見ました。木のえだなどを運んで、巣を作っていました。まだ完成はしていないけれど、一部はできていて、かべにくっついていました。毎年同じ場所に巣を作るらしく、かたが残っているところに巣を作っていました。カッコウの鳴き声は、毎日のように聞いています。街中でも、木がたくさんはえていれば、その中にかくれて鳴いています。でも、一度も見た事がありません。一週間前まではとても寒かったのに、今週の水曜日くらいから急に暖かくなってきて、半そででもいられるようになりました。どんどん暖かくなっているなあと思いました。
Tさんも、同じ日の授業の10分間で書いています。ツバメの巣作りの様子を、「枝を運ぶ、完成、一部、壁」と的確に言葉を使い観察を表現しています。昨年からの経過も見つけています。また、ツバメに合わせて、カッコウを取り上げ、「声は聞くけれどまだ一度も見たことがない」と書きます。さらに「半そででもいられるようになる」という、自分の体感から季節を表現し、ツバメの巣作り、カッコウの鳴き声と、つないで季節日記にまとめていきます。一人ひとりの文章の中に、その子の「自然の宇宙」が広がります。
3. 季節日記を一行日記に表現する
どの子の、どんな一日の季節日記を読んでいても、深く読み解くと、その子の生活、ものの見方、興味の深まりが表現されています。80人近くの子どもから毎週提出される季節日記は、教師にとってとても楽しみです。真剣に読めば読むほど、その子の背景に広がる世界が見えていて、引き込まれてしまいます。
次に、3年生の3月から一年間書き続けた季節日記を、2月に、年間を通して読み返しました。読み返しながら「一行日記」という、トピックを一行に書き表す活動をしました。自分の季節日記に、目次を付けるような活動です。
▼Mさん 6月29日~7月25日の一行日記
6月29日 晴 28.1℃ 祖父のベランダに小さなスイカ、小さいのに黒と緑のしまがある。
7月4日 晴 26℃ 淀川の汽水域観察会で、ハゼやシジミ、クロベンケイガニを見た。
7月6日 曇 25℃ 学級花壇、ダイズ、オモチャカボチャの実があった。
7月7日 晴 26℃ 機物神社の七夕祭り。腰のあたり白いトンボ。コシアキトンボを見た。
7月8日 晴 26.5℃ アゲハとキアゲハの幼虫もらう。アゲハは春型よりも大きい。
7月9日 曇 26℃ 起きるとキアゲハの幼虫が1匹死んでいた。
7月10日 雨 24℃ キアゲハの幼虫の1匹がさなぎに。一回背立ちするのは確かめる。
7月13日 雨 23.6℃ 梅雨で雨ばかり。プールがない。「梅雨前線」という言葉を聞く。
7月17日 雨 23℃ 16日に新潟県で地震。蒸し暑く夜はねむれない。発電所問題も大変。
7月18日 晴 26℃ アゲハが羽化。羽のりん粉を顕微鏡で観察。形が決まっている。
7月22日 晴 24℃ 沖縄旅行。思ったよりも蒸し暑かった。太陽高度は午後1時、71度
7月25日 曇 26℃ ツバメのヒナが誕生したらしい。巣から黄色い口ばしが見える。
Mさんの7月は、アゲハの観察を中心に、淀川の汽水域観察会や沖縄へ自然観察に出かけています。また、ツバメの観察も4月から続けていて、そのことも気になるようです。さらに、祖父の家のスイカ、学校のオモチャカボチャやダイズの観察にも目が向いています。一行日記に表現されている7月のMさんの、自然観察の日記には、理科教師の私にはとてもうれしい反面、私はここまで集中して、自然を見ていたか反省させられる指摘がいっぱいです。
▼R君 8月9日~8月28日の一行日記
8月9日 晴 37℃ メダカの赤ちゃんをもらった。生まれて二週間しかたっていない。
8月10日 雨 キャンプです。途中から大雨がふってきた。雨水が黄色い。
8月11日 曇 キャンプ二日目。山登りの後、木でつえを作った。20才の木。
8月12日 晴 31℃ アサガオとシソの種を切って中身の違いを調べてみた。
8月13日 晴 30℃ アサガオの種の中を顕微鏡で見てみると黄色かった。
8月14日 曇 28℃ 藻を入れた水そうとホテイアオイを入れた水そうを比かく。
8月15日 晴 29℃ クマゼミとヒグラシのぬけがらの比かく。
8月16日 雨 28℃ ホテイアオイがどんどん成長していて芽が出た。
8月19日 晴 球を平面にするのに無理がある、すきまが出来る。
8月21日 晴 37℃ カーテンの変な動きは風により、すいつくように見える。
8月24日 晴 割箸を焼いて実験。炭になった。
8月28日 曇 30℃ 皆既月食だけれども、雲にかくれてよく分からなかった。
R君の8月は、ほぼ毎日季節日記を書き、毎日何らかの観察をしているところに感心させられます。「比較」という観察方法が幾度となく出てきて、比較しながら自然を見る方法を身につけてきているようです。また、球を平面にする、カーテンの動き、などのテーマは、寺田寅彦の随筆のテーマを思わせるような、科学の芽を感じることができます。メダカの飼育、木の年輪、種の研究、セミの研究、水草の観察、割り箸を焼く実験、皆既月食の観察など、毎日が理科実験の日々であることが分かります。週一回の学校の理科の時間をずっと乗り越えて、毎日あらゆるところに興味の触手を伸ばしている夏休みの理科的生活が見えてきます。
一行日記に合わせて、自分の気温データから、一年間の気温変化のグラフを作る活動もしました。
4.季節日記から自然の変化を考える
次に、2月8日の授業記録より相互学習を見てみます。
きつねT 自分の日記からの考察と、お友達の発表(6,7,8月の生き物の様子)を聞いたことを考え合わせて、自然の変化について発表してください。
A 僕はセミのことに関連して言います。今年は少しセミが少ないそうで、本で見ていたら、戦争のときの子孫で少ないそうです。セミは7年後、7年後に生まれるから、2007年を見ると、昭和19年になって、太平洋戦争の真っ最中だったから、少ないんだと思いました。
B 7年後をたどるということについてなんだけど、7年というのは、他の虫たちがちょうど出て、セミは7年周期でほかの虫とちょっとずれていて、セミが出てきたとき、他の虫に食べられないようにしているようです。
A 今の周期についてなんだけど、テレビで、セミが天敵と合った時、次にその天敵に合うのは256年後だと言っていました。なぜ256年後になるのかわかりません。
C だいたい昆虫は、小さい虫から大きい虫と出てきます。小さい虫は植物を食べて、大きい虫はその虫を食べて、順番に連鎖で食べているからそうなっています。
D 大きい虫は主に卵を残して死んじゃうけど、小さい虫は、テントウムシのように、生き残ったりしています。
E 小さい虫は成虫で冬越しして、テントウムシは集団で冬越しします。カマキリは10月ごろに動きがにぶくなって、卵を産んで死んでしまいます。
F テントウムシがなぜ集団で冬越しするかというと、おしくらまんじゅうみたいにして、体をよせあっていると暖かいからです。
G おしくらまんじゅうみたいにしていると暖かくなるし、虫が少ないけど、体が小さいからエサも少しでいいけれど、動物は体が大きいから獲物がたくさんいるから、冬眠したりすると思います。
H 冬越しする虫は、アカタテハ、ヒオドシチョウなどがいます。小さい虫は集団で冬越しします。
I Cさんに付け足しで、6月から8月に虫が多いわけは、たぶん、日が一番長い夏至があるので、植物がよく育って、それを食べる草食の虫が出てきて、草食を食べる大きい虫の肉食が出てくると思います。
きつねT 虫に、これら(板書指す)の鳥が関わってくるんだね。
J 小さい虫を食べる虫が出てきたら大型の虫を食べる鳥が出てきて、子育てしています。
K 鳥が子育てするためにえさを取って、帰ってくるとき、例えばスズメが大型のカラスに食べられてということもあります。
きつねT 時間になりました。学習のふりかえりを書きましょう。
この一連の話し合いは、季節日記を読もうの二回目の学習です。6月から8月の自然の様子を出し合
って、その後、それらを見ながら気になるところを話し合っている場面です。独自学習の時に自分のノートに書いた意見発表だけでなく、その場に出されてきた友だちの意見について、考えをつないでいくことにより、生き物のつながりについて構造化していこうとしています。相互学習では、独自学習である毎日の季節日記では見えてこなかった、生物の「食物連鎖」や「環境適応」の見方、広がりのある学習へと話し合いが進みました。
また、ここでのA君は、先の一行日記のR君です。夏の日記に、セミの研究があり、また、数学的な興味を感じさせる8月の記述が、セミの周期の話につながっています。
5.子どもと自然
子どもたちは、日記というスタイルで、一年間自然と向き合い続けてきました。よく理科教育で言われる、一つの自然を一年間追いかけるというのはできていないけれど、日本の恵まれた自然の四季変化を、日々自分の言葉で表現してきたことは、単なる自然の理解を超えた、自分の生きている世界を理解することにつながっているのだと思いました。
また、子どもそれぞれの興味の違いが浮き彫りになり、虫を中心に書き続けた子ども、植物を一年間、写真と文章で追いかけた子どもなど、追究の過程に、教師が学ばされることばかりでした。先にも書きましたが、私達大人は、子どもほど自然を見ていないと、つくづく思い知らされました。大人の生活圏、理科教科書の世界とは違う空間で、子どもたちの活動が広がっているのが分かりました。子どもは、目がいいので、小さなところまで見ることができます。子どもは視界が低いので虫の空間に近い所で自然を見ていました。小さなファーブルであり、未知の世界を旅するダーウィンであると思いました。ファーブルやダーウィンのように、十分に思索をさせられなかったのが悔やまれます。