理科学習の始まる時に 2001年10月
1.はじめに
久しぶりに理科学習に取り組める学年となりました。これまでは、1年生の時のしごと学習時に、一年間「さんぽ」をしながら、劇や歌や絵本やカルタなどで自然の記録を残してきました。今回は、その実践の延長線上に理科を置いて、「理科さんぽ」をしながら自然をとらえ、そこで見つけた生物を飼育観察し、分かったこと、発見したことを記録に書いていくようにしました。また、「ファーブル昆虫記」(青い鳥文庫版)を、9時間かけてクラスで輪読する取り組みを並行して進めました。
ここではまず、実践を書く前に、3年生から理科を進めていく上で、これから取り組みたい理科の構想を、まとめておくことにします。今後4年間かけて、この理科学習の構想が実現できるようにゆっくりと進めていきたいです。
2.これからの理科学習への思い
①個人を育てる理科学習
集団的な学習ではなく、個人の追究力を高めるような理科学習を進めたいと思います。学習は基本的には個人的なものです。一人ひとりに計画書を書かせ、それを提出させて、自分の学習、個人の観察をつくらせることを大切にしたいと思います。目的意識、問題意識を、しっかり個人にもたせることを心がけます。
②問題意識の継続
問題意識を持ち続けることは、子どもにとっては難しいことです。特に、個人のテーマになると、根気をなくしたり、揺らいだりします。そこで、数人ずつ集めて進行状態のヒヤリングをしようと思います、小さなグループでの交流会や、子ども同士の意見交流を持たせたり教師の意見を与えたりしたいと思います。また、学級全体で、取り組み途中の交流会をしたり、観察途中の展示会やポスターセッションなどを企画したりして、自分のやっている方向性や意義を確認させるようにしたいと思います。
③実験観察の指導
実験や観察を安全に、そして個別に継続させるためには、子どもに任せきりではなく、本や資料を個別に提示してあげたり、調べる方法を指導してあげたりする必要があります。環境は教師が整えて、行動するのは子どもです。安全指導は勿論のこと、後片付けについても、きちんと教えていきたいものです。記録のさせ方は、子ども任せではうまくいかないので、適当な記録用紙、記録方法の指示が必要です。さらに、惰性にならないように、定性的な活動を定量的な活動へと向けていき、より詳しく、具体的に記録していけるように指導します。写真やビデオでのデータのとり方も、身につけさせるようにします。
④野外調査の指導
学校の近くで、野外観察のできる「私のフィールド」を持つようにします。手軽に行けて、年間通した観察ができることが大切です。また、臨海合宿の磯観察、林間学校の山の生き物の観察を、調査レベルに引き上げるように準備していきたいと思います。全体の調査テーマを決め、それに向けて、個人やグループが分担して、団体研究していくように計画したいと考えます。そして、それぞれに、フィールドノートを持たせ、見つけたことを常に書くようにさせます。観察記録のまとめは、フィールドノートをもとに、日記のように書きためておくようにします。
⑤準備、環境の充実
理科学習は環境で育つと思われます。子どもたちが個人で持つ観察道具(ルーペ、ピンセット、温度計、メジャー、ビニル袋、虫網、飼育ケース、フィルムケース、解剖セットなど)の準備、実験観察がいつでもできるような理科実験室の準備、栽培や飼育や観測が継続的に続けられるゆとりのある場所などの環境整備が大切なのです。顕微鏡、双眼実体顕微鏡、いろいろな図鑑類が手軽に活用できる状況も必要です。標本箱、押し花を作る材料、毎日の気温グラフ、観察記録用紙、記録のためのデジタルカメラ、ビデオカメラ、コンピュータなども、子どもの手の届く所に、いつでも使えるように準備していくようにします。
⑥発表会の企画
個人の取り組みについてプレゼンテーションする方法をいくつか準備しておきます。例えば、模造紙や画用紙にまとめたり、コンピュータや実物投影機の活用をさせたり、演示実験などをしながら自分の取り組みを紹介させたりしていきます。また、子ども同士の相互お手伝いという、協力体制を取らせながら、互いの実験観察の交流を図るということも出来そうです。いろいろな物を集めたり、飼育観察をしたりしているときは、博物館のような展示活動に取り組み、見に来てもらう発表にします。
⑦まとめを作る
報告書の提出も、いろいろな方法でさせたいと思います、レポートにまとめたり、絵本や冊子に作ったり、小論文にして研究報告をさせるなど、多様な方法を子どもに経験させていくようにします。また、記録にはスケッチを入れたり、デジタルカメラなどの写真を活用したりする方法も身につけさせて、ビジュアルなまとめを作らせるように指導していきたいと思います。コンピュータでまとめて、インターネットで発信したり、投影してプレゼンテーションしたりするように情報機器を活用させたいと考えます。
⑧子どものタイプによる取り組みの違いを尊重
自分のオリジナルにこだわる子どもを育てるようにしたいと思います。本の知識だけでなく、自分で実験観察をしたり、物集めをしたりできるように、それぞれの個性に合わせた取り組みをさせるようにします。また、一緒にやらないと出来ない子どもには援助をして、何もしないで見て歩くだけの子どもには、先生のお手伝いをさせるなど、支える教育も大切にしたいと思います。
⑨開かれた理科学習
担任だけで教えるのは、なかなか難しい教科です。ちょっと真剣に取り組み始めると、植物、昆虫の名前などをはじめ、まったくお手上げ状態になります、そこで、博物館、大学などの先生の指導をうけられるように、つながりを作っておくことが大切だと考えます。また、最近では、インターネットを活用しておたずねができる方法もあるので、そのような方法も調べておくようにします。
⑩教える理科と取り組む理科
子どもが考えた個人観察、個人実験だけの連続では、理科学習は成り立たないと考えます。基本的に教える所と、自分で取り組ませる所の時間配分が大切になってきます。しっかり知識として学ぶべき所は教えて、自分で取り組むべき所は創造性、個性、独自性を発揮させたいものです。大学の授業でも、基礎実験、講義、演習などがあって、さらに独自の論文作成や課題追究があると思います。いかに子どもが独自で考えたようにしむけて、実は教え込んでいる指導があります。教える事と、子ども自ら追究する時間をバランス良く進めたいと思います。
3.さんぽを発展させた3年「理科」のはじまり
3年生では、1年生、2年生と、しごと学習で取り組んできたさんぽ学習を発展させて、「野原の虫や花の世界をさぐろう」の学習を始めました。さんぽによる野外観察から始めて、次第に昆虫が増えてきた5月頃、生き物の飼育観察に取り組み、身近な植物や動物の生態と成長を捉えていくことにしました。また、並行して、国語の時間を活用して、「ファーブル昆虫記」を輪読していき、最終的には、理科の観察を「子どもファーブル昆虫記」にまとめようと考えました。
■第1回目理科さんぽ 3月16日(金)
第1回目の理科を、2年生の3月から始めました。とても春らしい温かな日差しの日です。今日は、コートがなくても歩けます。持ち物の支持をしていないのに、多くの子が、首から虫眼鏡をぶら下げています。その意気込みが嬉しいです。学校の西門から出て、田んぼのふちを回り、南向きの土手のある所までの、300メートル程のさんぽ道です。ここが一年間の「私たちのフィールド」です。
1年生の時に、何度も訪れた元星組の子どもたちは懐かしそうです。また、元月組の女の子たちは、虫や花をあまり触りたくないようです。気持ち悪い、くさい、などの声が聞こえてきます。自然さんぽにはルールがあります。車が時々通るので広がらないで行動すること、集合と言うと素早く集まること、先生の見える範囲にいることなどを約束します。また、田んぼや畑の周りでは、道路からとれる雑草だけを採集し、栽培植物を採らない、絶対にあぜ道へ入らないように注意します。
今回、最初に出会った昆虫は、ヨモギの葉に止まるテントウムシです。IM君は早速見つけています。それ以外の昆虫はまだ目に付きません。植物は、花をつけているものがいくつかあります。ハコベ、オオイヌノフグリが学校のすぐ横で見られました。すこし歩くと、ホトケノザ、ハルノノゲシ、タネツケバナ、ナズナが見つかりました。慣れてきたのか、元月組の子どもたちが、初めて見るめずらしさから、生き生きして列の前の方に集まってきます。KJ君が、手をつないできます。嬉しさの表現なのでしょう。やはり、春のさんぽはいいものです。春の野に放たれた子どもたちは、生き生き行動をしています。
▼IM ナナホシテントウを見つけたところに、ナミテントウはいませんでした。僕は、なぜだろうと思いました。このテントウムシのえさは、アブラムシだけど、そこには、アブラムシがぜんぜんいませんでした。僕は、1年の時のさんぽは、よく虫をとりに行っていたけど、2年生ではあまり行かなかった。さいごに行けてうれしかったです。今の僕のクラスでは石がはやっているので、3年生には、石とりさんぽも行きたいです。
▼ST タンポポの花は、つぼみでした。花びらは小さくて、がくが大きい。むりに花びらをあけると、ぬれたかんじがする。花びらをぬくと、たね?がついている。花びらは、小さな小さな花です。くきの切り口は、ねとねとしたえきが出ている。色は、白っぽい、においはなかった。ヨモギの葉は、表に白い毛がびっちりと生えている。緑の葉なのに、白く見える。三つのわきに生えていた。土がやわらかいところに生えているように思った。
■第2回目理科さんぽ 4月11日(水)
3年生になって初めての理科学習です。今日は、さんぽの2回目ですので、子どもたちには、「午後1時20分、裏門のところに集合」で分かります。
3年生の理科は、月曜日の5時間目と、火曜日の2時間目です。5時間目の理科の場合、昼休みを取り込んださんぽ学習の時間配分はどうなるかを確かめてみたいと思いました。その結果、1時20分出発、教室に帰ってきたのが2時、それから記録と発表で2時30分となりました。約40分間のさんぽで、学校裏の観察は何とか可能であることが分かりました。記録に30分かかりました。
▼TO 私は、あんまり名前の知らないものを半分とっていたので、もっとずかんで草花のことを知りたいです。KNさんといっしょにしました。理科はむつかしいと思ったら、そんなにむつかしくなかったので、また、明日したいです。楽しかったです。おもしろかったです。今度は、この前見つけていないものをとりたいです。
▼NB リュウノヒゲは、青色のような紫色のような色。草むらの草をすこしよけた所にたくさんあった。草むらの中にあったら分からないけれど、たくさんきずがついていた。一番上と下にくぼみがある。まんまるでないので、ころがして回っても、少しで止まる。ナズナ(ペンペン草)は大きいつるの所にたくさんのハートマークのような葉っぱがたくさんある。一つの草に、一つの花がさいたように見えるが、本当は、たくさんのとても小さな花が集まって、花ができているようです。小さい花は、一つの大きな花の中に、10個以上あります。ハートマークににたたくさんある葉っぱは、80個以上あって、数えてみてびっくりしました。ハートマークの葉っぱのほかに、長ほそい葉っぱが、下のほうにありました。長ほそい葉っぱは、上の方は緑色ですが、一番下のほうを見ると、黄色になっていました。私はどうしてかなあと思いました。
■第3回目理科さんぽ 4月16日(月)
今年の春は、暑い。夏のような日差しが続きます。
前回のさんぽは、何をとったというような記録が多かったので、今回は、よく見る、考えを持つことをテーマに、カラスノエンドウとナズナを必ず採集することにしました。ナズナは、葉と実の混同があったのと、カラスノエンドウの実に興味がいっていたからです。
▼IU 「カラスノエンドウ」むらさきの色で、とってもきれい。花びらは二つで、とってもかわっている。花びらは中だけうすむらさき。外がわは、あかむらさき。茎から緑色の茎が少し出てきて、そこからお花がさいていました。「ナズナ」ナズナは七草です。葉っぱが二つあって、はたらきがちがいます。一つは、土についていて、平べったい葉。もう一つは、とんがっていて、すっと出ている葉です。白い毛があります。虫メガネで見ないと見えません。外がわには、むらさきの線が入っています。とんがっているところから、花の茎が出てきています。どうしてかなと私は思いました。ハートの実ができています。とっても小さい種が入っています。5個ぐらい入っています。
4.おわりに
3年生の「野原の虫や花の世界をさぐろう」の実践報告は、次回に続けたいと思います。子どもたちの小さな観察を、より具体的に、詳しく記録させていき、自然のメッセージを読み取れる人に育ってほしいと思っています。