さんぽから広がる新たな世界-1年、コンピュータで絵本を作ろう-  2000年2月

                       

1.はじめに

 1年生の1学期から、さんぽの学習に週1回出かけるようにしています。2学期にもさんぽを続け、学校近くの田んぼ脇、ドングリ公園、じぞう山、イチョウ葉拾い、奈良公園などへ出かけてきました。当初のねらい以上に、さんぽは、自然に触れる体験と共に、あらゆる学びの窓となってきています。虫マニアを育て、自然のたくみさや多様さを感じさせるのはもちろん、文章を磨き、絵の世界を広げ、歌を作り上げさせてきました。さんぽで育った心が、観察の世界から、新しい創作の領域へと発展してきているのです。

 ここでは、1学期の「むしむしどうぶつランド」(学習研究1999年12月号)に続く、2学期の絵本作りの実践について、さんぽから発展した新たな子ども文化の創造を、紹介していきたいと思います。

 

2.コンピュータで絵を描こう

 我が校に、コンピュータルームを設置して4年近くなります。しかし、1年生にコンピュータを使わせるのは、我が校では今回が初めてです。どのように使っていくのがいいのかを悩みましたが、毎週出かけているさんぽをテーマに、虫や自然の様子をまず描いてみることにしました。コンピュータはマッキントッシュが40台。ソフトはキッドピクスを活用します。

 初めてのコンピュータの学習は、5月の末日です。しっかり先生のお話を聞くのですよと言い聞かせて行きましたが、コンピュータの前に座った子どもたちは興奮状態で静かになりません。しばらく騒がせてから、コンピュータの起動の仕方、キッドピクスの開き方を教えます。男女別に集めて指導している時は、こんなに真剣に1年生が話を聞くんだと思えるぐらい、集中して聞きました。1回の始動で、ほぼ全員のコンピュータが起動しました。次はキッドピクスを開くのですが、ここでは全員のキッドピクスが開くまでに、約10分かかりました。その後、キッドピクスの終了の仕方と、機械の終了の仕方を教えて、1時間目の学習が終わりました。初回は、スイッチを入れて、マウスをさわったというだけで、子どもたちは大喜びです。

 2回目は、起動の仕方の復習をしてから、キッドピクスを開くところまで10分位でできました。その後、20分間ほどキッドピクスでお絵かきを練習させることにしました。マウスが思うように動かなくて、「僕はできない」と泣き出す男の子が3人ほどいます。女の子はできなくても、手を挙げて先生が来るのを待っています。2回目は、絵を保存しないで終了しました。

 3回目は、フロッピーに絵をしまうことを教えました。起動後、キッドピクスを開いて、好きな絵を描いて、絵の名前を付けてフロッピーにしまう作業です。1年生の40人全員に、新しい操作を教えることは、並大抵のことではありません。数人の親が自主的にお手伝いをしてくださって、なんとかコンピュータ初体験を乗り越えられました。3回で、コンピュータの起動と終了、そして描いた絵をフロッピーにしまえるようになりました。後はもう、子ども同士の交流の中での習熟だけです。

 4回目以降は、2学期になりました。できるかぎり週に1回コンピュータルームに出かけて、絵を描く取り組みを続けました。コンピュータの時間が行事等でできないと、文句をいうようなほど、大好きな時間となりました。

 

3.さんぽを絵本にしよう

 コンピュータの絵をどうするか考えているときに、KGさんが、夏休みの作品として絵本を作ってきました。読んでいくうちに、みんなも絵本を作ってみたい気持ちになり、さんぽをテーマにした絵本を作ることにしました。虫や動物たちの登場人物を工夫して、さんぽの時に書いている記録、実物の落ち葉や花や実、折り紙などを活用して、絵本作りに取り組むことにしました。

 本の台紙は、片面A4版、四面開きの絵本制作用の既製品を使いました。コンピュータの絵は、9月から週1回コンピュータルームで描いている絵を、プリントして使います。10月初めに台紙を配り、11月の末に仕上げるという、さんぽとコンピュータの学習ペースに合わせて、ゆっくり絵本制作を進めました。最初の見開きができるとみんなに発表をして、また次の見開きができると発表するというように、互いに学び合いながらの制作でした。

 学び合いの様子は、次のようです。絵本の途中経過の発表風景で、発表者は前に出て、本をCCDカメラでテレビに映しながら話しています。(11月12日)

T ‥今日は、絵本の紹介をしようかなと思います。

司会‥絵本の発表をしたい人は手を挙げてください。AIさん。

AI‥わたしは、ルビーちゃんともっくんのお話を作っています。作るときは、学校で描いたコンピュータの絵をはって、ファイルに入っている絵を描いたりしています。何かおたずねはありませんか。STさん。

ST‥このトンボはどうやって作ったんですか。

AI‥これは、コンピュータで絵を描いて作りました。IW君。

IW‥どうしてトンボはコンピュータで作ったんですか。

AI‥それで使えるからです。MSさん。

MS‥どういうところを工夫したんですか。

AI‥はねを切ったりするところです。MIさん。

MI‥どんな花で体を作ったんですか。

AI‥サルビアの花で作りました。YNさん。

YN‥サルビアの花はどれに使ったのですか。

AI‥もう一度言ってください。

YN‥サルビアの花は、どんな木やトンボに使われているのですか。

AI‥サルビアは先はとがっているからトンボに使いました。これで終わります。

司会‥発表したい人は手を挙げてください。UO君。

UO‥表紙でもいいですか。

T ‥どっちでもいいですよ。

UO‥ぼくは、「こうじとりさの大ぼうけん」という本を作っています。工夫したところは、大きくくじらを描いたところです。ぼくがこれで、りさがこれです。何かおたずねはありませんか、YNさん。

YN‥どんなところを工夫したんですか。

UO‥うーんと大きくくじらを描いたところと、すいかとももを描いているところです。TMさん。

TMUO君はどうしてくじらを描いたり、UO君とかが乗っているんですか。

UO‥それは、なんか二人だったらさみしいからです。FH君。

FH‥それはどういう物語なんですか。

UO‥ぼくとりさが冒険をするんです。MIさん。

MI‥どこがむずかしかったですか。

UO‥くじらを描くことです。IW君。

IW‥りさとUO君は、自分で描いたんですか。

UO‥いいえ、スタンプです。GR君。

GR‥どうして今のところの絵は反対なんですか。

UO‥反対の国というからです。OTさん。

OT‥どうしてそういう物語にしようと思ったんですか。

UO‥ちょっと、ぼくにしてはおもしろそうだなと思ったからです。これで終わります。

司会‥発表したい人は手を挙げてください。YNさん。・・・・

 というように、YNさんの発表から10分ほど続き、その後、絵本作りの活動に入りました。

 

4.絵本作りの日記から

 絵本作りの経過は、子どもの日記から見てみましょう。考えながら物語を創作していく様子、コンピュータの習熟の様子、母の支え、友達から影響されて学んでいく様子などが読みとれると思います。また、さんぽやむしむしどうぶつランドの実践の上に、この絵本作りがあることも分かります。

 

NM 十月から、さんぽやコンピュータをして、絵本づくりをしました。その中で、ぼくは、コンピュータがすきだから、おうちでもすることがおおかったです。一回目の絵本づくりは、時間がかかりました。二回目の絵本づくりは、早くかけました。カブトムシはなつにしかいないから、そのうえからコオロギをはりました。それは、もうぜんぶおわったときにはりました。三回目の絵本づくりはけんきゅう会で、三人の先生にはなしかけられました。一人は「見せて」といって、二人の先生は「上手」といってくださいました。四回目は、絵はかけたけれど、字はかけませんでしたが、つぎのけんきゅう会のときにできました。よかったです。くふうしたところは、絵をぺらぺらとできるようにして、たくさんコンピュータの絵をはったことです。また、ふゆの絵本もつくりたいです。それは、とうみんするクワガタくんとリスがであう話です。

MI きょうは、このまえ作った絵本をていしゅつしました。お父さんやお母さんにちょっとだけ、手伝ってもらったけど、文やえは、わたしがつくりました。おうちのパソコンのキッドピクスでたくさんかいたので、だいぶじょうずになりました。さいしょは、せんから色がはみだしてばかりいましたが、たくさんかいているうちに、色がはみださなくなりました。カマキリがしゅやくの、かわいい絵本ができてうれしかった。なぜ、カマキリがしゅやくかというと、まえ、むしむしどうぶつランドの時、カマキリをかっていてカマキリがすきになったからです。

KM 「やったー。すごい絵本ができたぞ。」1年星組は、絵本を作っています。ぼくの絵本の題は、エンマコオロギの一生です。でてくるものは、エンマコオロギ、ぼくのかっているカブトムシです。くふうしたところは、エンマコオロギをかくところです。しかけは、2個あります。しかけ第一は、エンマコオロギに羽が生えている。しかけ第二、草むらから飛び出る。しかけ第三は、かごから豆電球が飛び出る。このようなしかけを作って、面白い本が作れています。

FN コンピュータの本を作りました。むずかしかった所は、くり、木の実、ドングリなどを半分に切るところと、ドングリ公園の秋を細かく表現しているところです。工夫したところは、クリ、木の実、ドングリなど、本物をつけたところと、表紙とうら表紙を同じ柄の夕方と夜にしたところです。ページもドングリの絵の中に書きました。大変だったり、むつかしかったけれど、出来上がった時は、とてもうれしかったです。世界でたった一つしかない、ぼくだけの本です。

TG 僕は、キツネのコンタロウという本をつくっています。僕は、キツネになっています。出てくる人ぶつは、ウサギとバッタとカブトムシとクワガタムシとかです。なぜ、キツネがでてくる本になったかというと、星組の先生がキツネだからです。このはなしは、キツネの僕が、みんなをよんで、月をとるはなしです。僕がよいとおもったところは、ちゃんとできたことと、キツネをぼくにしたことと、うまくコンピュータをつかいこなすことです。絵本をつくるのは、すっごく楽しいです。

(母‥最初はたしかに私が手伝ってパソコンの絵をかきましたが、回数を重ねるうちに見事につかいこなしていました。正直ここまでできるようになっているとは思いませんでした。日々の日記やさんぽの記録が、徐々に身についてきているのでしょうか。)

TD 絵本をつくってたのしかったことは、色ぬりです。カラーペンをつかうと、きれいな色がでました。くふうしたところは、ほんとうの葉っぱをはったところです。お話をかんがえるのがむつかしかった。コンピュータのときも、おはなしをかんがえていました。

HM 今日、やっと、虫たちのこしょこしょ話という本ができました。ぼくのくふうしたところは、一番さいごのページととびだす絵本にしたところです。お父さんは、「こんなのつくれんねんやったら、もう一さつつくり」と言っていました。なぜかというと、たのしいおはなしを作ったからとおもいます。ほんとうは、ぼくも、また作りたいと思います。

MS 私は、「お月見山のおとまり会」の絵本を作りました。とうじょうするのは、ハムスターのミナリンとウサギのサァちゃんとリスのマイミーとキツネのコンコちゃんです。みんなで、お月見をしたり、運動会や音楽会をします。秋の虫たちも出てきます。終わりのページは、ミナリンがまどをあけると外は雪がふっていて、ねていた三人もおきました。次の日、みんな家にかえっていくおはなしです。絵は、お母さんにてつだってもらったところがありますが、おはなしは、私がかんがえました。とてもかわいい絵本ができてよかったです。また、作りたいです。(母‥絵本の中の出来事や登場人物の名前など、学校での生活がそのまま絵本になっている様に思いました。)

IM ぼくの絵本のくふうしたところは、クイズをかいたところです。かんがえたところは、いちばんさいごのわたぼうとわかれるところです。ぼくは、さいしょのページにハンバーグとアイスをたべることを書きました。ぼくは、さいしょかいていたものがたりとかわったけど、秋さがしで、森の中や、宇宙にたんけんできました。とってもいい絵本ができたと思います。お母さんにてつだってもらったところはあるけど、ほとんどが学校でできたのでよかったです。おじいちゃんおばあちゃんに見せたいです。

ON 今日まで、絵本作りを二ページずつしてきて、やっと絵本作りがおわった。絵本作りのはじめは、しかけを作ることなんか思っていなかったけど、友達のを見て、とてもいいなあと思い、僕もやってみようと思いました。それで、僕は、月からはしごがおりてくるところで、はしごが出たりひっこんだりするようにしようと思いました。でも、うまくできませんでした。のぼっていくはしごが、月からはみでるのでこまりました。くるくるまけるといいのになあと思いましたが、できませんでした。ほんとうは、はしごにタヌキをのせてのぼっていくようにしたかったです。僕もこんど絵本を作るとき、もっとくふうをしてやってみたいと思いました。

 

5.おわりに

 絵本作りは、親の感想にもあるように、私も最初はどうなることかというような、終わりの予測が全くつかない手探りのところからの出発でした。長い時間をかけて、絵本作り自体を互いに学び合いながらの取り組みでした。完成後、次はどんな本を作るの、と子どもたちがたたみかけてくるので、きっと満足のいく物ができたのでしょう。私自身も、親の助けを多く受けながらも、子どもが確実に育っている姿が読み取れるので、大変嬉しい気持ちでいっぱいです。さんぽの中で出会った虫たちが、このように子どものイメージの中で再構成されて、動き出し、話し出しているのです。とても素敵な創造の世界が広がったと思います。絵本作りは、豊かな体験の上にあることが大切なのだと分かりました。

 さらに、2学期には、俳句作りから、さんぽの歌「こぎつねのさんぽ」の作詞作曲にも取り組みました。そしてその自作の歌を中心にした劇作りへと発展してきています。機会があれば、これらの実践も紹介したいと思います。「さんぽ」が、あらゆる学習のベースとして、子どもたちの心の底深くに入り込み、学びの大地を作ってきています。