奈良研究から京都大阪研究へ ~しごと学習の低学年から高学年への広がり 2003年

                                                                              

1.はじめに

 わが校のしごと学習について、私は先輩をさかのぼって深く研究をしたことがありません。しかし、子ども達と一緒に1年生から5年生までにこだわってやってきた取り組みを振り返ると、自分なりに、おぼろげに見えてきたことがあります。ここでは、低学年から高学年に続く、しごと学習のつながりについて、私なりに振り返ってみたいと思います。

 

2.低学年のしごと

 1年生は、毎週1時間、学校の周囲を「こぎつねさんぽ」をしながら、自然にかかわる情報を得て、むしむし動物園、俳句、絵本、カルタ、学級の歌、劇、こぎつね村作りをしてきました。

 2年生は、月に1回程度の「奈良お寺さんぽ」をしながら、劇、詩集、学級の歌、絵本作り、アメリカとの交流などに取り組みました。出かけたところは、大仏殿、元興寺、興福寺、春日大社、奈良公園、奈良町などの、近鉄奈良駅から歩いていける範囲でさんぽをしました。

 3年生は、月に1回程度の「奈良さんぽ」をしながら、劇、調べたことの報告、学級の歌、昔の道具調べなどに取り組みました。出かけたところは、薬師寺、平城京、法隆寺、市役所、春日山原生林、柿の葉ずし、奈良漬、三輪素麺、赤膚焼きなどの、近鉄西大寺駅から電車に乗って出かける範囲のさんぽをしました。

 低学年のしごと学習は、みんなで行ってお尋ねをして、学校へ帰って、自分達なりの表現、例えは劇、歌、詩、俳句、カルタ作りなどに取り組んでいました。特に劇は、総合的な表現なので、力を入れてきたと思います。背景を描く、せりふを作る、動きを考える、歌を作る、小道具を作るなど、さんぽで体験したことを、子どもの感性で表現していく取り組みです。低学年集会発表は、月に一度回ってきて、年間八回ほどの出番があるので大変でしたが、書き言葉(模造紙書き)でない表現、子ども文化を作る活動ができたのではないかと思います。

 さらに低学年さんぽでは、楽しみの中にも、人にお尋ねをする時の作法、集団行動のルール、記録の取り方などを身につけてきました。何度も出かけたので、人から学ぶ時の所作が、しっかり身についたと思います。

 

3.低学年の自由研究

 自由研究は、1年生の時から取り組んできたもので、私の学級では、二つの流れがあります。一つは、日々の朝の会で発表されてきた、主に物を持ち込んでお話をする自由研究と、もう一つは夏休み、冬休み、春休みなどの長期休みに家庭で取り組んでもらってきた自由研究です。

 毎日のお話の自由研究発表は、模造紙に書かれたものもありますが、主に虫や花、珍しい物を持ち込んで、CCDカメラで大きく写しながらお話をするのが主体でした。口頭による研究発表です。低学年は、朝の会の時間をしっかり確保していたので、毎日10人ほどが発表していました。

 長期休みの自由研究は、主に模造紙に書いたものを使っての発表でした。お出かけをして調べたこと、旅行報告、博物館紹介、文学、絵などの発表もありました。家庭の興味による課題設定で、学級としての子ども同士の課題のつながりはありませんでした。休み明けに、1ヶ月ほどかけて全員が発表しました。

 これらの自由研究は、しごと学習に含まれるかが、議論されるところですが、自由研究は、しごと学習の大切な要素だと私は考えています。低学年では、家庭に負うところが大きいのですが、そのことにより、家庭らしさ、その子らしさが育つのです。親の願いを学校が受けて、親子で取り組んだ研究を、子どもが堂々と学級全員の前で発表をするのです。親子共々育つ取り組みになってきたと思っています。親任せという非難をする人もいますが、それはまったく当たっていません。

 

4.高学年しごと学習の始まり

 高学年のしごと学習は、低学年の「さんぽ」と「二つの自由研究」の上に発展していきます。

 

 3年生の3学期に取り組んだ「昔の道具調べ」から、自由研究を、学級でテーマの持った研究に変化させていきました。奈良町資料館や奈良町の藤岡家などへ出かけたことをきっかけに、昔の道具、例えは、火鉢、物差し、天秤、蔵、火縄銃、蚕、林業の道具、井戸の滑車、ちょぼ焼き、升、鰹削り器、古銭、湯たんぽ、洗濯板、臼、水車、福助人形、ラジオ、テレビ、そろばん、和傘、和式トイレ、燈火器、唐蓑、ワイン、釜、炭、提灯、能面、銅鏡、尺八などの研究を個々に分担して取り組みました。

 

 このような自由研究の方法に変えていったきっかけは二つありました。ひとつは、各家庭で決めて進めてきた低学年からの自由研究が、高学年になりテーマの行き詰まりが感じられ、内容の這い回りから本の丸写しになりつつある家庭が出てきたことでした。さらにもう一つは、それぞれが専門的になり、子ども同士の学びに接点が少なく、関連したところで育ち合う場面が見えなくなってきていると感じられたからでした。

 

 4年生の自由研究は、これまで「さんぽ」で訪ねてきた所を今一度研究として訪ね直し、「奈良研究」としてみんなで取り組んでいくことにしました。これまでの低学年の各自の自由研究の中でも、そしてさんぽの中でも、度々出会って来た奈良の各地を、学級全員で分担して調べ直すのです。奈良研究の各自のテーマは、行基、大仏、東大寺、二月堂、朗(良)弁、運慶、正倉院、秋篠寺、西大寺、天皇、黒塚古墳、唐子遺跡、平城京、薬師寺、唐招提寺、春日大社、筆、炭、興福寺、飛鳥、法隆寺、藤原京、吉野、柳生、金魚、柿の葉ずし、茶、茶筅、今井町、天理、二上山、街道、新薬師寺、赤膚焼などでした。学校での取り組みは、グループを作って2日間、お出かけをしました。1日は奈良公園周辺のお寺やお店や史跡を訪ね、もう1日は、飛鳥地方の飛鳥博物館と橿原考古資料館へ行きました。必ず、複数になり、助け合って子ども達の力で、聞き取り調べ学習を行いました。また、各家庭でもお休みの時に出かけて、さらに資料の補充をしてもらいまとめて学び合いました。飛鳥時代、奈良時代のものが多く、それぞれの発表の全てがつながっていき、時間軸の上に立体的に人物や出来事が関連していく素晴らしい学びとなりました。

 奈良を熟知した子ども達は、新しい「さんぽ」場所を求めました。そこで新たに企画したのが、奈良県から外に眼を広げた地域研究に取り組む「しごと合宿」です。詳しくは前回書きましたので、ここでは深く触れませんが、4年生では「滋賀研究」とテーマを掲げ、琵琶湖博物館研究、比叡山研究、城・街道研究に、1泊2日で取り組みました。これまでの研究のノウハウを、全て2日間に集中して、素晴らしい研究成果をあげたと思います。

 

5.高学年のしごと学習の展開

 5年生では、奈良研究を京都研究へと、子ども達は発展させました。私自身は、4年生で、「奈良歴史研究」をしていたので、5年生では、「奈良自然研究」をする計画を立てていたのですが、子ども達は、奈良、滋賀の次は京都研究をすると言い出しました。そこで、複線的に、「京都研究」と「奈良自然研究」を行っているのが、現在(5年生2学期)の状況です。

 京都研究と言いながらも、京都、大阪にまでフィールドを広げています。

 

 5年生1学期のテーマは、銀閣寺、関が原、広隆寺、胎蔵金剛曼荼羅、船場と運河、平安京の街道、清水寺、京都の市電、難波宮、適塾、百舌鳥古墳群、京都御所、平等院、平安京、竜安寺と石庭、金閣寺、南禅寺、応仁の乱、足利義満、錦市場、森之宮遺跡、京友禅、五条大橋、堺、安土城、寺田屋、西陣織、本能寺、鞍馬山、東寺、北山文化、大阪城、四天王寺、源義経、高野山、知恩院、東山文化、二条城などでした。

 

 5年生2学期のテーマは、さらに広がって、妻籠宿、坂本竜馬、多聞城、三国志、織田信長の一生、緒方洪庵、頼朝と東大寺、ゾロアスター教、後期難波宮、大阪城、東寺の立体曼荼羅、豊臣家最後の戦い、長岡京、平清盛、江戸文化、高野山奥の院、菱垣廻船、浄土宗とお寺、堺の打ち包丁、日蓮聖人の一生、金閣寺の内部、シルクロード、明治天皇、禅の始まり、古墳、大阪の市電、能面狂言、雪舟の水墨画、信貴山と朝護孫子寺、武蔵坊弁慶と義経が出会ってから、京都の路、平安文化、法然上人の一生、山崎の合戦(秀吉)、一休禅師の一生と一休寺、茶道の歴史、秦河勝と秦氏について、などと難しくなり、教師が発表についていけない苦しみと喜びの毎日になってきています。妻籠は行った事があった、三国志はかつて読んでいてよかった、多聞城は前回の卒業生が研究していたなどと、なんとかぎりぎりの対応でこなしているのが現状ですが、なんと言っても毎日の発表が楽しいのです。「へえ、そうだったの。」の連続です。

 

 「奈良自然研究」は、次のようなテーマで進んでいます。

 1学期は、奈良の活断層、奈良の鍾乳洞、奈良の巨樹、蛍、オハツキイチョウ、春日山原始林、プランクトン、琵琶湖博物館、室生の溶結凝灰岩、大和川、星、酸性雨、植物の茎と葉、矢田山のシダ、雲、奈良の気候、大台ケ原のサンショウウオ、奈良公園のムササビ、チョウ、奈良公園のキノコ、水草、箕面の猿、花のつくり、吉野川、吉野の森林、エコカー、チンパンジー、万葉植物園、照葉樹林、オサムシの進化、大台ケ原の立ち枯れ、ルリセンチコガネ、太陽の動き、水銀鉱物、スギ・ヒノキ花粉などでした。それぞれの発表の後、動物、昆虫、草、木、森林、川湖、気候、宇宙、岩石のテーマごとに分かれて、奈良の特色を発表する時間を持つ取り組みに挑戦しました。丁度、それぞれの学会発表のまとめを出しているような取り組みになりました。

 

 2学期は、高松塚古墳とキトラ古墳の星宿図、地震とプレートの動き、花粉を飛ばす植物、大阪層群の海成粘土、アメリカザリガニの歴史、オオダイガハラサンショウウオの生息地と生態、ムササビの種類、蛍のまとめ、阿武隈洞・入水鍾乳洞について、水草、クスノキ、MITS、神社の柱と辰砂、吉野川の水生昆虫、奈良の気候、チョウの進化と奈良のチョウ、矢田山の八月の植物、奈良の銘木、生きた化石ソテツ、雲と気圧の変化、大台ケ原の気候、珪藻類のプランクトンの特徴、白山の高山植物、進化の種類、吉野の森林2、ルリセンチコガネの成長、古代の一番大きなシダ、風力発電、類人猿、夏の万葉植物園、亀の瀬地すべり、佐保川の魚、奈良各地の気候、火星大接近、奈良の酸性雨、奈良の巨樹、猿の仲間の分け方などです。今、発表の途中で、本格的な科学論文の書き方で書いてくれる子どももいて、さらに学びが深まりそうな様相になってきています。

 

 さらに5年生の「しごと合宿」は、白川郷・五箇山へ8月31日~9月2日、2泊3日で出かけました。民俗学と自然学の2グループを作り、村の文化やその周辺の自然について学びました。現在、その整理とまとめ書きに入っています。

 

6.おわりに

 1年生の学校周辺の「こぎつねさんぽ」に始まったしごと学習は、「奈良お寺さんぽ」、「奈良さんぽ」とつながり、さらには「奈良研究」、「滋賀研究」、「京都大阪研究」、「白川郷・五箇山研究」へと広がってきています。

 また、自由研究は、朝の会の持ちこみ発表と長期休みの自由研究発表の二つが、高学年では学級のテーマ研究へと変化してきました。

 しごと学習は、こども一人ひとりの追究力を高め、学ぶ力をつけることを目指しています。学級の力、先生の実践力を示す時間ではないのです。そのため、取り組みはグループではなく、個人研究が基本です。個別にテーマを持ち、自分なりに資料を集め、記録をして、現地でお尋ねをして、お礼状を書いて、まとめを書いて、発表をして、調べなおしをする。この追究を何度も繰り返ししていくうちに、自分の追究スタイルを確立させることがねらいだと思いました。フィールドワークがどうしても必要なので、それには、親や教師が連れて行きますが、現地で何をどのように調査するかは、その子の追究力によるのです。追究力の成長状態によって、その場でどのようにかかわり、何を得てくるかが決まります。

 追究力を鍛えるのは、現地だけではありません。日々の自由研究、個人発表の場面でも育ちます。というよりも、発表の場でこそ、追究力を鍛えていると言っても過言ではないかもしれません。単なる発表の場ではなく、教室で追究力が問われるのです。厳しい子ども同士の討論、教師の指導や評価がここに入るのです。

 このように、低学年から高学年にかけて、フィールドを足元から次第に広げながら、奈良、滋賀、京都、大阪へと、歴史、産業、自然の研究をしてきました。特に、お寺や仏教には詳しくなり、おそらく日本で一番仏教に詳しい五年生ではないでしょうか。

 私達教師は、出来ない子をどうすればいいのか、家庭的に恵まれない子どもは、と考えてしまいます。だから、このような取り組みは無理だと考えると、何も進みません。低学年から、出来ることから一歩ずつ、子どもも、教師も、家庭も、共に育っていくことが大切なのです。