さんぽで見つけた生き物 ~むしむしどうぶつランドを開こう 1999年12月

 

1.はじめに

 子ども達は、日記を毎日書いています。4月の当初から1年生の日記を読むのを楽しんでいると、子ども達は自然や生き物や夢の中で生きていることが見えてきました。

 AG君は「ゆめ」という日記を書いてきました。「よる ぼくは、ハリネズミになるゆめを みました。ねるまえに おかあさんに もりのほんやさんを よんでもらいました。そのほんに ハリネズミがでてきたからです。ゆめは どうしてみるのでしょうか?(4月19日)」 

 OYさんは「たねまき」という日記で「きょうは おとうさんと おかあさんと おばあちゃんと おじいちゃんと いっしょに たねまきをしました。たんぼのたうえのじゅんびをしました。そのときに かえるのたまご おたまじゃくしのたまごを みつけました。うらのいけで めだかを 十ぴきみつけた。(4月26日)」 

 IDさんは、「はるのくさ」という日記で「ちかくのしょうがっこうに、あそびにいきました。たくさんのくさをみつけました。からすのえんどう、おおいぬのふぐり、ひきのかさ、ひめおどりこそう、すずめのてっぽう、すいば、じゅうにひとえ。とりのなまえのついているくさが おおいなとおもいました。(4月26日)」 

 最近の子ども達は、自然離れしてきているといわれますが、まだまだ、虫の目の高さで生活をしているなと感じました。小さな心が、生き生きと輝くときを、共に過ごしたいと思いました。

 

2.朝の会

  1年生の朝の会を、学校へ来始めて3日目から始めました。4月23日の朝の会は、こんな様子でした。

MI:私は、ベランダでかたつむりを見つけました。おたずねはありませんか。

 (「見えへん」と前に押し寄せてくる子ども達。見えないのに、じっと座っている子ども達よりも子どもらしく、そして興味いっぱいです。これは、喜ぶべき行動なのだと自分に言い聞かせながらも、「座りなさい」と、つい注意をしています。新学期、各教室に配られたCCDカメラが棚の上にあることを思い出し、初めて使用することにしました。)

C:わーAIさんが写った。先生の手が大きい。ピアノが写ってる。

 (テレビに、前の座席の子ども達が写ったので、大騒ぎです。またまた、自分がテレビに映ろうと、前に押し寄せてきます。まるで、子犬のように、一つひとつ全てに興味を示してくれますが、周りから見ると騒がしいクラスなのでしょう。「僕もテレビに映った」と大喜びです。しばらく、騒がせてから、また、「座りなさい」と言ってしまいました。)

T:では、カタツムリを大きく写します。

C:わー大きい。見えへん。とってみせて。うごいた。つのがある。気持ち悪い。ナメクジみたい。

T:では、写っているカタツムリを見ながら、おたずねを聞きましょう。

GR:どこで、拾ったの。

MI:だから、ベランダって言ったでしょ。

NY:なんでいたの。

MI:雨上がりだから。

OY:なんでカタツムリを拾ったのですか。

MI:学校に持っていこうと思って。

HM:かわいいですか。

MI:ちょっときしょく悪い。大きいのよりは、ましです。

NM:名前は何ですか。

MI:名前はつけていません。

KB:・・・また、忘れた。

GR:はい、僕は元気です。

MI:なんやねん。

T:なんでそんなんが、出てくるの。カタツムリに言っているの。もう、おたずねは他にない。

MI:これで私の発表を終わります。

 朝の会では、毎日数人から10人程度の発表があります。毎日1時間をかけて、教師も一緒になって、あれやこれやと楽しみます。あらゆる学習の種が持ち込まれます。

 4月は、朝の会に次のような物が持ち込まれました。

カブトムシの幼虫、ミノムシ、ブンチョウ、ハーブ、キンギョ、カタツムリ、シャクナゲ、パンダの写真、庭の石、ルリセンチコガネ、レンゲ、カエルの卵、メダカ、ベニシジミ、エゾクロテンのぬいぐるみ、ストロベリートーチ、ラディッシュ、テントウムシのさなぎ、の生き物と、他には、折り紙、ピアノ演奏、手話、体の本などがありました。

 5月は、野原の草花が咲き始め、虫たちが動き始めます。さらに多くの生き物が毎日持ち込まれました。

 

3.さんぽ

 さんぽを始めました。先生一人で、1年生40人の子どもをつれてのさんぽは、とても大変です。しかし、学びは、動き始めるところに、広がりが見えます。変化の中に学びを求めて、ちょっと遠くへ歩き始めました。

▼5月21日(金曜日)朝、「今日は、さんぽにいくよ。」「さんぽって、勉強か」「さんぽ、さんぽ、たのしいな」と、大騒ぎで始まりました。しかし、最初は、学校の裏門を10メートルほど出た程度です。今考えるとおかしいのですが、この頃の子ども達は、まだ、並んでさんぽに出ることは大行事でした。そんな小さなさんぽの第一歩でしたが、子ども達はダンゴムシ、コガネムシ、テントウムシ、アブラムシ、ヨモギハムシ、モンシロチョウ、アマガエルなどを見つけて、大喜びです。学校の土手の小さな草むらに、こんなにたくさんの虫たちがいるのです。初めて手の上にカエルをのせて、大騒ぎしている子どもがいます。チョウを帽子で追いかけて、悔しがっています。入れ物も、何も持たないで出かけたので、次は、虫かごがほしい、網を持ってきたいと、言い出しました。今日は、歩くときのルールや、野外での先生の話の聞き方を、確認しました。車が通る道なので、けがをしてはせっかくのさんぽも続けられません。

▼5月28日(金曜日) 今回は、この前よりちょっと遠い、裏門からもう少し離れた所まで出かけました。まるで、初めて穴から出てきた子ギツネたちの巣立ちです。

TN 「きょう、きに みのむしを 5こみつけました。みんなは、かえるとか かたつむりとか こおろぎを とっていました。さんぽは たのしかったです。また、さんぽにいきたいです。また、みのむしもとりたいです。」

GR 「きょう みんなといっしょに 虫とりをした。ぼくはあわふき虫とショウリョウバッタとナナホシテントウをとった。IW君が、田んぼの中で、カブトエビをとったけど、そのカブトエビをまた にがした。」

MI 「きょうは、むしとりをしました。ミミズをとりました。とても、かわいいミミズでした。ちっちゃいむしも はいりました。みんなは、もっといいものをとりました。」

AI 「さんぽにいったとき、アマガエルとか、ヘビイチゴとか、カラシナとか、ダンゴムシを みつけました。おもったことは、つかまえてうれしかったです。アマガエルは、わたしは はじめてみました。ヘビイチゴは いっぱいみつけて とりました。カラシナは、はしってとり、おもしろかった。」

OK 「わたしは、バッタと、きと、おはなと、へびいちごと、かいをとりました。バッタさん、えさを やるから はやくおおきくなってね。まいにち さんぽがあるとおもうから、そのときに えさをかえるから それまできょうあげたごはんでがまんしてね。」

KY 「ばったは、よくとぶし かわいいです。くさをいれて、でもにげました。にげて、たんぼのほうに とんでいきました。いろんなむしを つかまえてそだてたいと おもいます。だんごむしも つかまえました。」

KB 「こがねむしは、ちいさいから かわいいです。むしをもっともっととりたいです。もっととれたら いいとおもいます。また とりにいきたいと おもいます。もっととれたら、おかあさんとか おとうさんに みせたいです。」

KI 「きょう、さんぽにいって、カエルとかたつむりのからと かめむしをみつけました。いつもは、むしをつかまえられないのに、きょうは、3ひきぐらいつかまえました。わたしは、むしをつかまえるのが、すきになりました。」

IW 「かえるを つかまえました。このかえるは つちがえるです。めすです。からだが、ふといので、めすとおもいます。あるいているとき うんちをしました。WDくんが、みつけてくれました。それを つかまえました。つかまえてよかったです。たのしかったです。」

TG 「きょうは、むしをつかまえました。つかまえたとき びっくりしました。むしをとったのは、はじめてだったので、うれしかった。つかまえたとき、どんな なまえかわからなかったけど、ともだちにおしえてもらってわかった。おすか、めすかわからないけど、ぼくはおすとおもう。たのしかった。」

 

4.生き物の飼育が始まる 

 教室の後ろの棚の上は、さんぽでつかまえた生き物や家からの虫たちで、いっぱいになってきました。虫は、標本にするものではなく、飼い続けるもので、死んだら涙を流して悲しむものだと、子どもに教えられました。チョウを展翅台に張り付けるなんて、とんでもない世界です。

 いろいろな生き物が生き続ける教室は、教室全体が生きています。お世話は1年生にとって大変ですが、学校にいつも来て下さる親たちがとても協力的です。子どものお世話に合わせて、生き物たちの世話をする子どもの補助をしてくれます。ありがたいことです。40人の子どもが全員生き物を飼います。その後ろには、子どもの倍の親たちの支えがあります。生き物が生き続ける環境は、こんなところに成立しているのです。私も子どもも虫たちも、生かされているなと感じました。

 

▼6月6日の日記から

SM 「かめ・・きょう、はっぴょうしたかめのなまえは、かんというなまえです。どこでかったというと、おまつりのときかってくれました。がっこうのかえりしなに、STちゃんの はるのけんきゅうみたいに、かめのでんぐりをしていました。

KI 「どじょう・・きょう、がっこうからかえってから、むしむしランドの虫になにがいいかかんがえました。虫の大好きないとこのKTくんに そうだんしました。それで、わたしは、どじょうにすることにしました。みんなで どじょうをとりにいきました。どじょうは、みぞの中にいました。あみでとろうとすると、すぐに石の下にかくれて なかなかとれませんでした。でも、5ひきとれました。とてもうれしかったです。」

YO 「てんとうむしとほたる・・きょう、がっこうで、ほたるをSKくんが はっぴょうでもってきた。くらいところでも、ひからなかった。てんとうむしは、ぼくががっこうでつかまえた てんとうむしのさなぎが、ちょっともうごかない。なんでうごかないのかな。五日で、てんとうむしになるって ずかんにのってた。だから、あしたか あさってに てんとうむしになるかな。たのしみだ。」

KG 「はっぴょう・・かえると おたまじゃくしのたまごをもってきました。はっぴょうをしました。でも、かえるとき、せんせいが、かえるのたまごじゃないって いいました。だから、おおきくなったら なにになるか たのしみです。」 

AI 「かえるのえさとり・・おやつをたべてから、おじいちゃんと、かえるを、とりにいきました。家のちかくの 木がたくさんあるところに いきました。カエルのえさは、くもと、けむしです。きょう とったのは、けむしが2匹と 小さいくもです。かたつむりも、1匹とりました。かえってから かごにいれましたが、きのう、小さいあおむしと、けむしをたべたので、まだ、おなかがすいていないのか、食べませんでした。」

ID 「かえる・・きょうは、いこまのたんぼでカエルをとりました。カエルとトノサマガエルと おたまじゃくしと カブトエビと モンシロチョウと バッタをとりました。わたしは、カエルのえさがなにかわからないので、としょかんにいって本でしらべました。カエルは2ひきつかまえました。」

YZ 「かに・・きょう、いとこのいえにいきました。いとこのなまえは、TSちゃんといいます。いえは、いこま山のふもとにあります。やまのなかのいしのしたに、さわがにがいました。おおきいかにと ちいさいかにを つかまえてもらいました。きょうから、かにの おせわをします。あかちゃんのかにが、とってもかわいいです。かにのめは まるいです。」

YG 「ざりがにとカメ・・きょう、おとうさんとともだちのおとうさんと みぞにいって ざりがにをつかまえました。うちのおじいさんの ともだちだった、おばあさんが、くれました。ざりがには、30ぴきと おもいます。カメは、1ぴきです。かえるもいましたが、にげあしがはやいので、にげました。」

 

5.むしむし動物ランド

 5月の終わり頃、教室にいっぱいになってきた飼育ケースを見て、子ども達が、「まるでむしの動物園だ」とふと言い出しました。4月の遠足で動物園へ行っていたので、そんな言葉がうまれたのでしょうか。素敵な言葉だったので、これからのクラスの進む方向となりました。みんなで「ムシムシどうぶつランドを開こう」と話が進み、6月の終わり頃に、空き教室を借りて、開園となりました。

 

▼子ども達の考えた工夫

①飼っている生き物を、グループに分けて見てもらう。(水の中、水辺、草の中、土の中、土の近く、空を飛んでいる、木にいる)

②グループごとに模造紙に絵を描いて、どんな生活をしているか表現する。

③飼育ケースには、どんな生き物が入っているか説明を書き、その前に、飼育観察記録を置く。

④チケットを一人10枚程作り、お世話係の6年生や隣のクラス、そして2~3年生に配りに行く。親にも渡して見に来てもらう。

⑤ポスターを描き、校内に掲示する。

⑥子ども達が飼育した生き物

カタツムリ、ナナホシテントウ、カエル、コガネムシ、カニ、タマムシ、トノサマガエル、モンシロチョウの幼虫、オタマジャクシ、カメ、アゲハチョウの幼虫、ダンゴムシ、カミキリムシ、カマキリ、エビ、ヤゴ、シマゲンゴロウ、ハイイロゲンゴロウ、ルリセンチコガネ、カタツムリ、カブトムシ、クワガタムシ、ゲンジボタル、ヘイケボタル、ドジョウ、ザリガニ、ホウネンエビ、等

 

TM「むしむしどうぶつランドを金曜日と土曜日に見にきてもらいました。いっぱいの人がきてくれました。とてもうれしかったです。ぼくは、タマムシのことを図書館でいろいろしらべました。それで、タマムシのことがよくわかりました。さいしょは、三匹いましたが、二匹しんで一匹のこっています。ぼくははじめてタマムシをみつけました。」

IM君の母の感想から「むしむしらんどが、無事終了し、先生のご指導で、一年になったばかりという子ども達にあれほど立派な展示、子ども達の発表ができましたことに感激しております。虫を見つけることから始まり、つかまえ、育てるまで、なにも強制されているわけでもないのに、虫ぎらいの息子が、朝の発表をやりたいがために一生懸命虫をさがしました。それまで、人前で話すことがなかなかできなかった彼が、こんなに頑張っている姿を見て、母も一緒にがんばらなくてはと思いました。私たち親子に、またひとつ道を広げて下さって有り難うございました。」

 

6.おわりに

 むしが好きでたまらない子が、増えました。子ども達の生活の中には、自然がいっぱいあり、夢がその中にあることも分かりました。「私たちは生きている」ということが、虫と出会うことによって初めて実感したのでしょう。うんちの世話、餌の世話をして、生きている愛おしさを感じたのではないでしょうか。

 

私はさんぽの詩ができました。

 

さんぽしながらみつけたものは

ちょうにばった てんとうむし

どんぐりこうえん じぞうやま

でも ほんとうに みつけたものは

ならんであるいた てのあたたかさ

いっしょにわらった えがおかな

さんぽでみつけた たからもの

こころのなかで ほらいきている