3年理科「光の学習」
理科の学習課題の生じる場面 2002年2月
1.はじめに
理科学習の進め方に対する基本的な思いは、2001年10月号で、述べることができました。今回も、本稿の最初の部分で、理科学習のあり方や学習環境について考えをまとめてみたいと思います。そして、後半では、3年の「光の学習」の実践を紹介しながら、学習課題が生じる具体的な場面について述べていきたいと思います。今回、3年の2学期より取り組んでいます理科の「光の学習」の内容は、「太陽の動き調べ」・「太陽の光と温度」・「光の性質調べ」とつながり、さらには「豆電球と乾電池の学習」へと発展していく構想で進めました。
まずは、理科学習を入門期と発展期に分けて、理科学習の進め方を考えてみることにします。
2.もの集めから始める入門期の理科学習
「総合的な学習」の研究に学校現場がやっきになっている間に、小学校から、理科学習に励む子どもの姿がなくなってしまいそうです。今、多くの小学校は、「生活科と総合的な学習」の授業研究に多くの時間をかけて、「理科学習」を校内の中心研究テーマに掲げている学校は殆ど見あたりません。こんな時こそ、これからの理科学習の方向性を提言していかないと、科学立国日本の将来は大変な事になってしまいそうです。理科に興味を持って、こだわって追究していく子どもを育てていくことが大切です。
しかし、理科学習は、子どもにとっても、教師にとっても、難しい教科です。なぜかと考えると、生物、化学、物理、地学、環境など、とても広い領域にわたり、そしてそれぞれが、無数の素材と性質と法則によって構築されているからではないでしょうか。少し本気で取り組もうとすると、その奥の深さに楽しみも大きいのですが、反面、到底やっていけないという気持ちも交錯してきます。
現在、小学校の理科の授業では、問題解決型の学習が中心です。基本的には、それでよいのですが、入門期の小学生の理科学習は、問題を見つけてそれを解決していくようにはなかなか進まないものです。子どもに、初動の問題意識、課題意識を持たせることがとても難しいので、学習の出発点で悩んでしまって、理科学習を始められないということも案外多いのです。
そこで、問題を解決するというよりも、もっとじっくり自然を見る、集める、比べる、記録するという、もの集め型の学習を大切にしたいと思うのです。低学年の子ども達は、草花をたくさん集めて名前を調べたり、岩石の標本を作ったり、昆虫を飼育して「むしむしランド」を開いてみんなに見に来てもらったりという活動が大好きです。マニアック(最近は良い意味では使われませんが)に、理科好き、物好きな子どもを育てること、これが、入門期の理科に望まれるところです。たくさん集める、珍しいものを集める、種類を集めるなどを通して、理科好きの底辺を広げ、その上に問題解決型の学習が始まるように進めていくのはどうでしょうか。自然の多様性を知らないと、自然を本当に好きになれないのです。
3.問題意識を持ち続けるための環境条件
理科学習で、問題意識や課題を持つことは、難しいことです。先ほど、低学年理科は物集めからと書きました。ここでは、高学年において、問題意識を生じさせて、連続して持ち続け、さらに発展させていくことができる子どもに育てるには、どのような環境にすればいいのかを考えたいと思います。
殆どの理科室の実験机は、4人が1チームになるように設定されています。教師も、10セットの実験道具を準備して、一斉に同じ実験をしてしまいがちです。しかし、グループ実験をすると、1人または2人がリードして、後の子どもは見ているだけということが多かったのではないでしょうか。これでは、個人の問題意識を追究する学習にはなりようがありません。「学習とは、一人ひとりを育てること」なので、実験も出来るだけ一人ひとりで行えるようにしたいものです。個人が使える道具、例えば、ピンセット、メス、ハサミ、ルーペ、温度計、シャーレ、ビーカー、試験管、アルコールランプなど、一斉に全員が使える数だけ準備します。顕微鏡も一人1台、少なくとも双眼実体鏡と同時に使うと、全員がどちらかを使っていけるようにしたいものです。環境整備は教師の仕事です。それをしないで、子どもが育つわけがないのです。
さて、このように整備が整った実験室で、最初は一斉に同じ活動をさせますが、全員に実験体験をさせていきます。この時期に、安全面、取り扱い方、片づけ方、立ち居振る舞い、記録の取り方などの「理科室の作法」を身につけさせます。慣れてくると、一人ひとりが違った実験に取り組めるように育てます。理科室を、自分の課題解決をするための「マイ実験室」として活用できるようにすることが大切なのです。火や電気や薬品を使います。また、ビーカーや試験管などの後片付けにも、理科室ごとの作法があり難しいのです。これらのことをマスターしていき、理科室を使いこなすことで、それぞれの問題や課題が、「マイ課題」として持ち続けられ、追究が続けられるのです。
理科室の整備と使い方、マイ課題が持てました。さて、これからは子ども個人の追究です。一人ひとりに、教師が適切に指導し、さらに実験ごとに、全体やグループで交流会を持たせながら学習を進めることが大切です。次第に、数人のこだわりの持てる子ども達が育ってくると、その子達を核として、子ども同士の育ち合いが始まるのです。
4.3年「光の学習」の展開事例
▼「太陽の動き調べ」(10月実践)
学習の始まりは、自由研究で「太陽の動きと四季のでき方」についての発表からでした。その発表をきっかけにして、太陽は私達の一日の生活の中では、どのように動いているのかを確かめることにしました。
そこで、まず太陽の位置や動きをどのように捉えていくといいのかを考え、図鑑などを調べて観測道具を作るように促しました。太陽高度測定器を作ってきた人、棒を立てた日時計のしくみで影の動きを捉える道具を作ってきた人、透明半球を台所の透明サラダボールを使って作ってきた人、ペットボトルの観測器具を作った人などがいて、各々の工夫した道具が持ちこまれました。家庭に押しつけているようですが、学習の始まりを無理にでも個人に位置づけることで、真の責任ある追究が始まるのです。
数日間、学校で太陽の位置の観測を続けました。日曜日には、家に持ち帰ることにより、日の出から日の入りまでのデータを集めることもできました。観察のまとめは、暗幕を閉めた体育館で行いました。透明半球や日時計の観測結果を体育館の中央に置き、天井や壁に懐中電灯を活用して、データから太陽の動きを再現していきました。秋の太陽は、東から出て南を通り、西へ沈むことが分かりました。高度計を使った観測からは、太陽は45度ほどの高度で南の空を通っていることが分かりました。方位、高度の学習が、3年生でも十分取り組めた学習となりました。
太陽の学習は、以上のような動きの観察だけでは終わりませんでした。まず望遠鏡で太陽黒点の観測をしました。また、紅炎、コロナ、太陽風など、太陽のいろいろな現象の理解を目指して、「太陽の調べ学習100枚レポート」を実現させた子どもも何人か現れました。確実に理科マニアが育ちつつあります。この膨大な調べ学習の体験は、これからの人生の、きっと素晴らしい原体験になったことと思います。
さらに、太陽の動きを、方位と高度で捉える学習のために、全員が太陽高度測定器を作って観測をしました。このことは、今後行う、月や星の動きを観測する時の、基礎となる観測方法になるからです。方位と高度で捉える観測を、太陽の観測時にしておくことで、これからの自由研究で、月や星の動きを調べることが可能となりました。
太陽の季節による高度変化にも興味を持っている子どもが多くいるので、冬至にも通り道の観測をしました。太陽の四季ごとの観測記録も進めつつあります。次は、春分に観測をします。
▼「太陽の光と温度」(11月実践)
太陽の動きを観測しているとき、太陽と気温のことが話題になりましたので、全員に温度計を配布しました。これは、個人に観測道具を持たせる事の大切さが分かる実践になりました。
子どもは温度計を持つと、いろいろな温度を測りたがります。家に持って帰って、あちらこちらの温度を測ってきて発表し合いました。データを整理していくと、思わぬことが分かってきました。子ども達は、冷凍庫、冷蔵庫、室温、お茶、お風呂、プールのサウナ、体温などを測ってきました。それぞれは、ばらつきはあるのですが、だいたい一定の所に集まり、適温のあることが分かりました。分かってみると当たり前の事なのですが、温度計一本の測定から、予想以上の学習結果が生まれたのです。感動です。こんなに、きれいに適温が分かるのなら、グラフ用紙を準備しておいて、それぞれに色を変えたシールを貼るようにするとよかったのにと、後で反省をしています。
温度計遊びを終えてから、本来の、太陽の光と温度についての学習に入りました。1日の気温と地温の測定をしながら、太陽の動きとの関係を見ていく学習です。子ども達は予想をはずして、気温が一番高くなるのは、お昼を過ぎて2時頃で、地温が一番高くなるのは3時頃だと発見しました。庭の地面、ベランダの植木鉢などを使って測定していますが、昼間は地温の方が、気温より高いこと、夜になると地温の方が下がり、気温の方が高いことなども分かりました。昼間、地温の方が高いことから、もしかしたら地面の熱が伝わって、気温が上がるのではないかということが話し合われました。3年生なのに、少し驚きの学習となりました。これ以上の追究は、比熱や熱伝導のことが関係しますので、今回は深くは扱わないようにして、地温と気温は関係しているということで、学習を終えています。太陽の光は、地面や空気の温度を温めていることが分かりました。
▼「太陽の光の性質調べ」 (12月~1月実践)
次は、太陽の光の学習です。鏡による光の反射の実験は最初の頃にしていましたが、本格的な光の学習は、自由研究「光の不思議」の発表をきっかけに広がりました。光の直進、反射、屈折などの性質が発表され、さらに、光のスペクトル、レーザー光線などについても紹介され、光自体の追究学習を始めるきっかけを作ってくれました。プリズムでスペクトルを作り、虹の学習へと話が進んだり、鏡と水でスペクトルを作る活動へと発展したりしました。また、鏡で光を集めると温度が上がること、光は屈折すること、反射することを確かめる、自由試行の学習へと進めました。理科室の「マイ実験室」化への取り組みを、ここでは始めようと考えました。さらに、虫眼鏡で光を集めると、紙に火が付くほど温度が上がることや、太陽光温水器、ソーラークッカーなどの製作へと、発展していきました。
▼「豆電球と乾電池の学習」(1月~2月実践)
太陽の光、温かさの学習から、豆電球と乾電池の学習へと発展していくように考えました。ここからは、現在進行中の学習です。
5.問題追究の課題が生まれる時
問題追究の課題は、さてどのように生まれてくるのでしょうか。自由にさせておくだけでは出てきません。課題の生まれるいくつかの場面を、実際の「光の学習」から整理してみました。
① 自由研究の発展で学習の課題が生まれる
学習の課題は、子どもから出てくるのが一番望ましいのです。子どもが取り組んできた自由研究を元にして、互いに学び合う課題が生まれてくるのが、素敵な学習の始まり方です。そのためには、夏休みの研究や日頃の自由研究を、学びの原点として日々育てていくことが大切です。
② 事前学習から追究の課題が生まれる
どのように太陽の動きを捉えるのか、事前に工夫しておくように伝えました。太陽の動きを観察する器具を個人で調べて、作ってもらうことにしました。かなり無理をさせているようですが、勿論、教科書を見てもいいのです。いくつかの方法が提案され、それぞれ、自分の追究の方法で、取り組みが進みました。させられる学習ではなく、まず、自分のこだわりの方法で追究が始まることが大切です。
③ 共通活動の中でもこだわりの課題が生まれる
同じ道具を持ち、同じような観察に取り組むのですが、それぞれ、自分の工夫やこだわりで、小さな課題研究ができてきます。ここでは、一斉に温度計を持つことで、それぞれの温度調べが進みました。
④ 発展学習の中に個人の課題が生まれる
発展的な一人勉強では、太陽の様子を図鑑で調べる活動に取り組みました。また、新しい観測器具の製作により、太陽の動きから、月や星の動きを調べる自由研究へと発展していくようにもなりました。さらに、時差の学習、星座の学習など、今回の学習から発展した課題が、自由研究の中に生まれてきています。
6.おわりに
3年生は、週2時間という少ない学習時間ですが、自由研究の延長線上に学習を展開し、個人のこだわりある課題が生まれるような場面を大切にしました。基本的には、「学習は個人を育てる活動」なので、自由研究から相互学習があり、再び、高まった自由研究へと個人に戻っていくことが大切であると、見えてきました。