4年理科「生き物の四季変化を調べる」 個別テーマの理科学習 2002年10月
1.はじめに
最近、「学習研究」誌の大正期~昭和16年までの復刻版を先輩から譲り受けたので、ゆっくり読むことが出来るようになりました。今のところ、理科関係だけを読んでいますが、大正期の我が校の神戸伊三郎、大浦茂樹の学習論、理科素材の見方に、感心させられます。また、これも最近、昭和初期に使われていた「小学生の理科」第四、第五、第六学年用を古書店で手に入れました。当時の小学生用の参考書として書かれた書物で、教科書にも準拠しているようです。この参考書の制作には、我が校の鶴居滋一も関わっています。小学生が自然物にどのように関わり、子ども自ら何を観察していくかを詳しく書かれた優れた図書だと思います。しかし、この頃の理科教育については、単なる博物として自然を羅列したものに過ぎない、子どもにこれだけ沢山の内容を教え込む必要があるのか、などの議論もあり、博物学に基礎をおいた当時の理科教育も、研究者によっていろいろ議論がなされています。私自身、実践者として、理科教育史上の難しい議論は分からないのですが、とても物を大切にした教育をしていると思います。
この大正期の自然物を大切にする視点は、結果的に、私の実践の中に、似た形として表れてきました。大正期の実践を読んでそれに真似る取り組みではないのですが、物抜きでは、観察は進まない、自然理解は出来ないということなのです。子ども個々に観察テーマを決めて取り組み、それを発表し合うことで、豊かな自然が教室に持ち込まれ、それぞれの自然のつながりを捉えていく学習へと取り組みを進めました。
2.最近の理科教科書の問題点
私自身、教科書の筆者なので、教科書を悪く言うことは気が引けるのですが、本当に大切にしたい自然を大切にした教科書を、教科書検定の縛りで、指導要領から発展させて書けないところが問題なのです。
①「理科教科書の問題点」と書くと、教科書が悪いようになってしまうのですが、指導要領の縛りが大きく、植物名、昆虫名などが自由に登場させられないのです。例えば、今回実践の4年生理科の「身近な動物や植物を探したり育てたりしながら、季節ごとの活動や成長を季節との関わりについてとらえる学習」では、一年を通して数種類の動植物しか扱えないのです。個々の子どもが扱う生き物が数種類を超さないようにと言うのなら分かるのですが、教科書に載せる動植物が数種類、具体的には7種類を越さないように厳重にチェックを受けているのです。全国一律に使用する教科書に、動物、植物合わせて7種類しか載せられないのは、余りに酷いのではないかと思うのです。
②今回の4年生部分だけでなく、最近の教科書の物抜き理科学習は、とてもひどいのです。いえ、教科書がひどいのではなく、指導要領の物ぬきがひどいのです。かつて、他の所で文章にしたのですが、次のような物抜き教科書なのです。「野辺の花・栽培植物・木の名前が全くありません。よく見る昆虫・池の生き物が数種類しか出てきていません。海の魚、生き物、磯の生き物は全く出てきません。野菜、果物の生育は取り扱いません。その他、雲の名前、山や平野のでき方、大陸移動、氷河、海水、鉱物、岩石、恐竜、地衣類、キノコ、シダ、かび、ドングリ、森の変遷、高山植物、日本の動物、街路樹、太陽系、彗星、流れ星、銀河宇宙、隕石、月面など、本当に当然載っているべき内容が記述されていません。」 また、手元にあるアメリカの小学生の教科書には、ここに挙げた内容は殆ど載っています。また、先ほどの昭和初期の「小学生の理科」には、きちんと扱われています。
③最近の教科書には、自然の個別の生物が載っていなくて、子どもの活動だけがイラストで説明されている漫画のような本になってしまっています。理科離れ、理科の学力低下が起こるのは当たり前で、子どもが読むべき内容、知るべき基礎知識が、大正期と比べて、またアメリカの教科書と比べて、全て無くなってしまっているのです。憂うべきことです。
3.季節日記を書こう
①メールで季節日記
我が校は現在、クラス替えを1年、3年の後におこなっているので、4年生は、クラス替えをした学級です。クラス替えは、3月の最終日にしますので、春休み前から4年生の学級として活動を始めることができます。
1、2年生の学級では、メールを使って子どもの家庭とのやりとりをしていたので、新しい学級でも、少しずつ拡げていくことにしました。つながっている家庭から、春休み中、何度か季節メールを送ってもらいました。勿論、メールのない家は、日記帳に書いておくように指示して、春休み明けに読むようにしました。この季節日記の取り組みは一週間に一回のペースで続き、教師は、子どもからのメールをグループメールで送り返して、全員の共有の学びとしていきました。
■KN 3月25日 (月) 「春をみつけた」 公園へ行く時自転車に乗っていると、タンポポとカラスノエンドウを見つけました。タンポポには、奇麗な黄色の花が咲いていました。ミゾの近くにもあったし、草の所にも咲いていました。カラスノエンドウは、ピンクの奇麗な花でした。まだ豆は出来ていませんでした。たんぽぽの隣にありました。公園では、ツツジを見つけました。薄いピンクでした。少しでした。サクラもみつけました。白くて、奇麗でした。一本の木は、満開でした。もう春だなあと思いました。
■KM 僕は一昨日からお母さんの実家のおじいちゃんの家へお泊りに行っていました。今日は、昨日と違ってお天気が良かったので、朝御飯を食べてからおじいちゃんとお散歩に行きました。歩いて十分ぐらいの場所に幅が十メートル以上もある大きな川が、ありました。その川辺に五種類の鳥がいました。まず、最初に見つけたのは、「カモ」です。全部で見つけた「カモ」は四十四羽でした。「カモ」は、四つの場所に分かれた群れで、生活をしていました。一番多い群れは十三羽で、たいていの群れは十羽いました。それから一羽だけ群れから離れて生活をしている「カモ」もいました。「何で群れから離れているんだろう。群れに入れば寂しくないと思うのに。」と、思いました。次に「ヒヨドリ」を見つけました。「ヒヨドリ」の狙いは花の蜜だったようでした。その証拠に花によって花の中に嘴を突っ込んで蜜を吸っているような動きをしていました。「ヒヨドリのエサは蜜の他に何かあるのかな。」と、思いました。そして、「アヒル」を見ました。「アヒル」は川に顔ごと突っ込んで魚のような物をくわえていました。この次に、「メジロ」を見ました。「メジロ」は何やら桜の木の花を突っついていました。そして、桜の花が落ちたので取って見たら花弁だけでなく蜜が溜まっていそうな所から落ちていました。何で、溜まっていそうな所が分かったかと言うと花の切れ目を触ったら蜜のようなベトベトした物が付いていました。そして最後に「スズメ」を見ました。「このごろ「メジロ」ばかり見ているので「スズメ」が珍しい鳥のようだな。」と、思いました。
②初めての理科(4月12日)
初めての理科です。座席決めをして、係を決めるだけで時間がかかり、観察というよりノート指導が中心になりました。ノートの書き方は大切です。しっかり書かせるために、最近見つけた自然の様子について書かせることにしました。文章で書くことは大切であると学ばせました。
次に、絵を描くことを学ばせるために、アブラナのスケッチをしました。お盆、ピンセット、ルーペなどの使い方、グループから取りに来る方法なども教えながら、今日は理科室のお作法学習でした。次からどんどん進もうと思います。
全て書き終えていないので、家で花のつくりの復習をするように持って帰らせました。月曜日、子どものノートから理科便りを作りこんな書き方、スケッチの仕方がいいと、広げたいと思いました。
理科のファイル、お道具箱をどうするかなど、まだまだ、準備を整えるのが大変です。自由研究の理科の方がどんどん進んでいます。
③理科の自由研究
理科の自由研究は、春休みの間の学習です。4年から、長期休みの自由研究は、理科的な内容が一つと、奈良研究的なものを一つしてくるようにしました。子ども達が取り組んで来たテーマは次の様です。
ニホンバラナタゴ(HM)・大仏ホタル(ON)・奈良盆地は水の中だった(KM)・陀羅尼助(HG)・奈良の鹿(NK)(YD)・郡山の金魚(TZ)(TM)・奈良の八重桜(MK)・面不動鍾乳洞(ON)・貝ヶ平山(MM)・二上山のサヌカイト(NT)・菖蒲池のビオトープ(KY)・天然記念物ワタカ(ST)・奈良公園のナギ(TN)・メダカ(SM)・どんずる峯(HM)(ON)・琵琶湖(MM)・大和茶(OZ)・奈良の気候(NN)・メタセコイア(SM)・神野山(ON)・奈良の地形(TN)・吉野の葛(IU)・比重(OZ)・火山(SK)・ドップラー効果(FH)・マイナスイオン(MD)・ツバキ(YO)・盲点(WD)・チューリップ(AI)・町のネオン(KJ)・伊月の化石(WA)・魚の体(KS)・水力発電(ID)・春の星座(MM)・森のはたらき(OT)・人の体 肺(HS)・周参見の褶曲(KN)・ホーキング(SM)・ハリセンボン(IT)・ロケットのしくみ(TG)・雲について(YG)・サクラ(KJ)・中竜鉱山の鉱物(WA)・鳥羽の恐竜(KM)・シロイルカ(KU)・もんどりで魚採り(KS)・歯のしくみ(AI)・酸性雨(YG)・ピンホールカメラ(TD)・マンボウ(KN)・ハワイ(YD)
このように、素晴らしい研究が4月5月にかけて発表がなされ共有されていきました。
④個人テーマを持ち個別学習を進める
4月から理科の時間に自然さんぽに出かけて、学校周辺の自然の様子を観察し、記録をとる学習を進めました。そして、生き物が増えてくる5月の連休明けに個人の取り組むテーマ決めて、一年間、集中して観察し、発表していくことにしました。子ども達は、次のようなテーマに取り組みました。
チョウ、ガの成長(IT)・落葉樹の特徴と季節による変化(ON)・カマキリの一年(OZ)・チョウ類の成長(KY)・ワタ、ケナフの成長(KM)・甲虫類、土の中に幼虫がいる甲虫(KS)・つるを持つ植物の成長(KJ)・チョウ類の成長(SM)・アゲハチョウを中心にチョウの研究(SK)・糞虫類、ハムシ類などの甲虫(TN)・チョウ類(TD)・テントウムシとアブラムシ(YG)・薬草(NT)・モリアオガエルを中心にしたカエルの研究(HM)・甲虫類、特にカメムシの研究(HS)・針葉樹の研究(HN)・甲虫類、特にカミキリ(MM)・甲虫類、特にカミキリ(YO)・テントウムシの成長(WD)・球根の植物と四季の植物の観察(AI)・イネ科の植物(ID)・葛の研究、ヒョウタン、ヘチマ(IU)・四季の植物の押し花(YG)・クローバー、カタバミ関係の植物(ON)・イネ科(OT)・いも類の植物の研究と四季の植物(KN)・四季の植物(KU)・鳴く虫(SK)・メタセコイアと落葉樹(SM)・水生昆虫(TZ)・モリアオガエルを中心としたカエルの研究(TM)・四季のキク科の植物(NK)・シダ(HG)・種のふしぎ(MK)・コケとキノコと粘菌(MD)・コケとキノコと粘菌(MM)・トマト、オジギソウ(YD)・バッタの研究(WA)
⑤個人テーマの取り組みを発表し相互学習へ
個別の調べ学習を、一人5分で4人ずつ、20分間で発表します。残りの20分間は、それぞれの研究に対しておたずねをしたり、それぞれの発表間の関連を見ていったりしながら、自然のつながりの学習を進めます。発表の後のおたずねから、本当の学び合いが始まります。個別の発表が思わぬ方向に発展して、素晴らしい学習になる日も多くありました。生き物の進化、環境問題、昆虫と植物と関係など、それぞれの生き物のつながりを見つけることで、自然のつながりを考えて行くことが出来ました。全員が発表するのに、約10時間かかりますが、教師も事前に図書館にこもって本を読まないと子ども達についていけなくなるような状況が生まれました。
5.おわりに
4年生になって、自由研究でたくさんの理科的な内容を学び合い、また、理科の時間には、個別で研究観察に取り組み、多様な自然が教室に持ち込まれ、学び合いの土俵になってきました。丁度、大正期の教科書の内容にも匹敵する豊かな生き物を扱い、アメリカの理科の教科書にも負けない、自然の仕組みを追究する学習になりました。自然理解は、豊かな生き物のつながりの中に見えることが分かります。