表とグラフでデータを整理する 科学的に自然を探究する理科学習を目指して 2006年2月

 

1.はじめに

 子ども達は最近、インターネットや参考書や塾など、情報化社会の中で生きていて、本や電子情報や人からの「調べ学習」を進めることで、理科学習に代えてしまっている傾向があります。また、私たち教師も、便利な理科教材セットがあり、それを利用して工作させることで、単元を終えてしまったことにしてしまいます。例えば、豆電球、光電池、電磁石などの単元では、データを取ってそこから考えさせたりしないで、子どもがセット教材を作って終わりにしてしまいがちです。さらに、子ども科学実験、プラネタリウム、博物館、科学講演会など、うまく活用すればとても有意義なのですが、参加させるだけで、科学を分かった気にさせていることに、少し不安に感じています。

 さて、それでは理科学習で科学的に追究していくということは、どんなことなのでしょうか。科学者の手法では、実験条件をきちんと設定し、ねらいを持って観察や実験のデータをとり、他の人がしても再現可能な確からしさを求めていくことだと思います。子ども達にも、この科学者の追究の仕方、また、科学的精神に少しでも近づくような取り組みが必要ではないかと思います。

 そこで、今年は、科学的に自然を探究する理科学習を進めていこうと考え、自然に触れて、データをきちんと取るような実践を、いくつか試みました。かつて、私が若い頃の理科研究会なら当たり前のテーマですが、今は、それが当たり前でなくなっているのを、恐ろしく感じます。表やグラフで結果考察をしていく、いくつかの興味のある学習場面がありましたので、報告したいと思います。

 

2.表やグラフでまとめるということ

 表やグラフに表現するということについて少し考えてみたいと思います。表やグラフで表現するということは、「科学的に自然を探究する取り組み」の全てではありません。しかし、比較をしたり、変化を捉えたり、多くの固体数を扱ったりしていくときに、表やグラフは、とても有効です。

 比較する場合、表にするとよく分かることがあります。どんな観点で比較しているかが明らかになるからです。また、変化する数量を比較する場合は、数値の一覧表だけではよく分からないのですが、グラフにして比べると、変化の仕方の違いや規則性などが読み取れるのです。とても有効なのに、小学校では、算数の学びとの関係もあり、あまり積極的に扱うことをしていないと思います。

 また、教科書では、表やグラフを多用すると、見かけ上難しく見えるので、あまり積極的に取り扱わない傾向にあると思います。実際、学習中に表やグラフを書かせると、すぐには書けない子ども達がかなりいて、その子達の指導に多くの時間がかかるので、ついついグラフ化までさせないようになってしまっているようにも思います。

 

3.最近取り組んだ表やグラフ表現

 実験結果を、表やグラフで表現させるのには、数値の整理や平均など、時間がかかり大変ですが、最近取り組んで、案外面白かった実験や観察を書き出して見ます。

3年

・曽爾高原の植物、昆虫(表)

・公園さんぽで見つけた生き物(表)

・日なたと日陰の温度比べ(表とグラフ)

・校内の色々な場所の温度調べ(表とグラフ)

・鏡で集めた光の温度(表とグラフ)

・色の違いによる温度比べ(表とグラフ)

・夏至、秋分、冬至の太陽の比較(表)

・葉の形や葉脈の特徴比べ(表)

・校内の樹木の分類(表とグラフ)

4年

・光電池と乾電池の比較(表とグラフ)

・電池の直列と並列の比較(表とグラフ)

・発光ダイオードと豆電球の比較(表とグラフ)

5年

・晴れ・曇り・雨の日の気温調べ(表とグラフ)

・台風の気圧の変化(表とグラフ)

・高気圧、低気圧、前線の変化(表とグラフ)

・手作り天秤での重さ調べ 予想と実測(表とグラフ)

・衝突(表とグラフ)

・ふりこ(表とグラフ)

6年

・臨海実習(白浜)の貝や海辺の生き物(表)

・家庭の中の物質の酸・アルカリ調べ(表とグラフ)

・大阪層群と和泉層群の比較(表)

・岩石、火山灰、砂の観察(表)

・コイルの強さ比べ(表とグラフ)

 

4.実践事例

事例1 「いろいろな場所の温度を調べよう」3年

 「比較をしながら温度調べをしましょう」という条件を与えると、子ども達は次のような発想をしました。①土の中と表面 ②池の水と水道水 ③コンクリートと土 ④鉄と木 ⑤窓ガラスと壁 ⑥木の葉と落ち葉 の温度比較をすると考えました。教師としては、あまり意味がない比較もあるなあと思いながらも、子ども達の発想を生かして、そのまま実施させることにしました。持ち物は、棒温度計、赤外線放射温度計。結果は、次のようなグラフになりました。3年生なので、みんなの結果を黒板に書き上げて、それらから数値を整理してグラフ化していきました。

 気温は、8℃で、晴れたり曇ったりの日でした。観測結果は、それぞれ比較する対象同士、微妙な違いしかないのですが、水が関係している方が、おそらく比熱の関係で温度が低いのではないかということが考えられます。子ども達も、水が関係している事を引き出せたので、実験前に思った以上に実りのある結果だったと思いました。「いろいろな場所の温度調べ」では、ここまで見えてこないことが、「比較するというねらい」を持って測定をすると、子どもなりに考察が出来ることが分かりました。

▼Iさん ①表面はちょっとは日があたっているから温かくて、10センチ以下は日があたらないから(低いの)だと思います。 ②池の水は風があたっているからつめたくて、水道水は水のとおり道を通っていて風があたっていないから池の水よりあたたかいんだと思います。 ③コンクリートは熱をきゅうしゅうする力があって、土は熱をきゅうしゅうする力がないのでコンクリートの方があたたかいんだと思います。 ④木は水をふくんでいるのであたたまりにくくて、鉄は熱をきゅうしゅうする力があるからだと思います。 ⑤まどは部屋のあたたかい空気をきゅうしゅうしているけれど、かべはあまりあたたかいのをきゅうしゅうできないからだと思います。 ⑥かれ葉には水がふくまれていないのであたたかくて、木の葉は水がふくまれているので冷たいんだと思います。私は、ぼうグラフをかいたりして、ちゃんと考えられたのでよかったです。

【実践して】 得られた結果は、何かを反映して、少しの違いを表現しています。測定誤差と言ってしまえばそれまでですが、その時得られた結果を大切にして考察すると、幾つも要因が考えられることが分かりました。

 

事例2 「鏡の光を集めて温度を調べよう」(3年)

 変化を捉えるのに、表で整理したり、グラフで表したりする活動は、3年生の理科でも、とても大切だと思います。鏡で反射した光を、1枚、2枚、3枚、4枚、5枚と重ねた時の温度を測定しました。実際の学習では、鏡を上手に扱って光を一箇所に集めることができるようになるまでに、しばらく時間がかかったのですが、8班それぞれ測定値を得ることが出来ました。教室に戻って、数値を出し合って表にすると、下の表のようになりました。3年生ですので、数学的に平均を出すのは、まだ少し早いと思いましたので、それぞれの班のデータを書き出して、どの数値が多いか、また、真ん中の数値はどうかなどを話し合って、1つのデータとしました。次に、グラフを書くことにしました。3年生の11月、まだグラフを習っていませんでしたが、一緒に書いていくことにしました。横軸を等間隔に取ることの出来ない子どもや、縦軸と横軸の交点に点を打つことが出来ない子どもも多く、絵のようなグラフが多かったのですが、数人はきちんとグラフを書くことが出来ました。実践を重ねる度に、だんだん出来る子どもが増えてくると思っています。その後、家の自由研究ノートに、「黒い服と白い服の日なたでの温度の違い」を、表とグラフで整理して研究してきている子がたくさん現れました。

▼Nさん 私はこの実験をして、鏡の枚数が1枚ふえると、2~3℃くらいあがるというのがわかりました。はかる前の温度から、かなり枚数がふえていくと高くなっていました。この実験をして、鏡はすごいなあと思いました。4枚の鏡でやると、30度近くになったのでびっくりしました。5枚でやると31度だったので、もっとびっくりしました。鏡は温度をしっかり集める物だなあと思いました。

▼Aさん かがみをどんどんふやしていったら温度があがりました。1枚の時はかんたんだったけど、2枚になると、かさねないとだめなので大変でした。次は5枚にちょうせんしたいと思いました。何枚だったら100℃になるのかなと思いました。家にある鏡でまたやってみたいです。

【実践して】 連続したデータをきちんと取り、グラフ化することで、変化に対する見通しが持てる取り組みとなりました。100℃にするには後何枚鏡を使えばいいのか、グラフからイメージする発展的な考察も出来ました。

 

事例3 「校内の常緑樹、落葉樹調べ」3年

 校内の常緑・落葉樹調べをしました。主な樹木40種に番号と種名を付けた名札を付けてあるので、どの木がどんな名前か、すぐに分かるようにしてあります。12月にもなると、おおよその落葉樹は葉を落としているので、どの木が落葉樹かが、子ども達でも分かります。

 自分たちだけで観察に行かせると遊び半分になって、しっかり見ない子ども達もいますので、教師と一緒に木を見て、落葉樹、常緑樹、そして、針葉樹と広葉樹を確認して回りながら記録をしていきました。教室に戻って、表にまとめ、それをグラフにして、比較してみることにしました。

▼Sさん 私は、落葉樹の方が学校内に多いと思っていたけれど、常緑樹の方が多くてびっくりしました。落葉樹は、落ち葉をそうじするのがたいへんだから、少ないのかなと思いました。奈良は、常緑樹が多いそうです。家の木も、常緑樹が多いです。

▼Aさん 表を書いた時、一番多いのは、常緑広葉樹が多くて、落葉樹の針葉樹が少ない事に気づきました。「なんで落葉樹の針葉樹が少ないのかな?」と思いました。私は木の事はぜんぜん知らなかったけど、今日の学習をして、何科とか、木の名前がちょっとだけおぼえられたのでうれしかったです。次は私の家の近くの木を調べてみたいです。

【実践して】 校庭に人工的に植えられた樹木の観察ですが、樹木の種類を計算してグラフ化することで、気が付くことがありました。意外と常緑広葉樹の種類が多いなあと言うことです。グラフ化することで初めて、私自身も気づきました。初めて取り組んだ観察方法でしたが、グラフ化の意義が感じられた実践となりました。

 

5.おわりに

 今回は、3例しか報告できませんでしたが、今年は、新たな場面で、出来るだけ表やグラフで表現してみる取り組みをしています。5年生の、手作り天秤の利用でも、これまでは重さ比べにしか利用できていませんでしたが、今回は身近な物の重さを予測してから、分銅を使って手作り天秤で実測し、予測と実測の違いを、グラフで表現させました。子ども達はグラフ表現をいろいろに工夫し、単なる重さ測定の学習が、生き生きしてきました。また、臨海合宿(5・6年)や曽爾高原合宿(3年)の野外観察では、見つけた貝の分類や、昆虫・植物の分類からグラフ化していき、その地域の生き物の優占種などが見えてきました。

 これまで、単に記録の為のノートが、表やグラフ化することで、特徴を読んだり、変化の規則を見つけたり、違いからその原因を考えたりと、考察を進める為のノートになりつつあります。表やグラフは、知識的内容を理解させるためにしていた観察・実験を、科学的な探究の取り組みに変えていく、原動力になっているように感じます。