発光ダイオード(LED)の教材化について(3年・4年での試行から) 2006年6月
1.はじめに
発光ダイオード(LED)は、近年、私たちの生活の中でどんどん使われ始めました。しかし、今のところ、理科教材としては、まだ一般的ではありません。生活の中では、家電製品のスイッチの明かりや、携帯電話、コンピュータの液晶画面のバックライト、信号機や文字掲示板に使われ始めています。LED一個の明るさは小さいですが、たくさん並べて面として使うと、これまでの電球とは全く違った使い方ができます。例えば、赤、黄、青の発光ダイオードを並べることで、野外用の大きな映像画面として活用されるようになりました。今後も、使用がますます広がりつつある素材だと思います。小学校の理科では、このLEDをどのように教えるか、実践を試みてみました。
2.発光ダイオード活用の問題点とその解決
数年前、一度、LEDを使った実践をしたことがあります。その当時は、LEDと導線との接続方法はハンダ付けしかないと思い、穴あき基盤に固定して活用しました。4年生3学期の子ども達でしたが、ハンダは4年生にとって難しく、やけどをする子どももかなり出ました。その時、LEDの利用は難しいなあと感じました。
また、LEDを店へ買いに行くと、「抵抗を入れて使って下さい」と、必ず言われました。乾電池とLEDと抵抗を組み合わせて適正な電流量を計算するのは、電気が得意でない私にとっては躊躇する内容でした。また、その抵抗を接続するのもハンダ付けなのです。
以上のような問題点が、LEDを教材として扱うことに踏み込めない、ハードルとしてありました。しかし最近、LEDをハンダ付けで接続しなくても、豆電球のソケットのように使える小さな部品を見つけることができました。その事により、豆電球の学習の時と同じように、導線と導線の接続として扱うことが出来るようになりました。
さらに、乾電池2個(3V)に赤色のLEDをつなぎ、抵抗を入れないで2週間点灯し続けても目立った減光がなかったので、子どもが工作をする程度の使用なら抵抗を入れなくても可能な事が分かりました。また、青色と白色のLEDは、乾電池3個(4.5V)で、2週間点灯し続けました。これも殆ど減光せずに点灯していました。正式には、LEDを流れる電流は20ミリアンペアと書かれていました。それを、抵抗を入れないで使うので、規定値の5倍近く電流が流れます。全く良くない使い方であることには違いありませんが、この2週間の点灯実験で、大きな発熱やLED本体が壊れるなどの問題点が見つからなかったので、小学生の電気工作や比較実験に教材として使うことに踏み切りました。
今回は、3年生と4年生の理科学習の中で、子ども達がLEDをどのように理解していくのか、また、どのように工作をしてくるのかを、実践的に調べてみました。
3.第3学年の実践
3年生は、比較の視点でLED自体の点灯とその性質調べをさせました。学習としては、乾電池に、①豆電球、②モーター、③ブザー、④LEDの4種類の素材をつなぐような順序で進めました。
①豆電球を点灯する
豆電球は、導線1本と豆電球1個を使って、乾電池に接続して点灯させることから学習を始めました。そのことにより、豆電球のつくりの理解や回路の学習ができました。次に、もっと明るくする活動で、乾電池1個の時と、2個(直列)の時を比較する学習をしました。
②プロペラをつけたモーターを回す
モーターも、豆電球の時と同じように、乾電池1個から始めました。子ども達は、活動を通して、顔に風が来るつなぎ方と、顔に風が来ないつなぎ方があることに気づきました。乾電池の+-のつなぎ方を変えると、モーターは逆回転することを学びました。さらに、乾電池を2個にすると、回転が速くなることも理解できました。
③ブザーを鳴らす
ブザーは、モーターのように逆に回ることがないので、豆電球のように、+-のどちらへの接続でも同じように鳴ると予想して学習を進めましたが、鳴るつなぎ方と鳴らないつなぎ方があることが分かりました。さらに、乾電池を2個にすると、音が大きくなることも体験できました。
④LEDを点灯させる
LEDを見るもの触るのも初めての子どもが殆どです。みんなワクワクして活動の機会を待っていました。まず、乾電池1個で挑戦です。+-を入れ替えても点きません。そこで、乾電池2個にすると、点くグループと点かないグループが現れ、そのことから、LEDの+-のつなぎ方が決まっていることに気がつきました。
■学習の結果
▼Aさん LEDは、反対はつかない。乾電池1個だけで光ると思っていたけれど、本当は、乾電池1個だとつかないけど、2個だと光ることが分かりました。僕は自分が予想した事が当たったのでよかったです。次はブザーのことです。前に、僕がよくブザーのおもちゃで、電池を反対にすると鳴らなかったから、このブザーも同じで、たぶん鳴らないだろうと思っていたので、予想が当たってよかったです。モーターは、反対でつないでも同じと思っていたけれど、本当は時計回り(たとえば針が9から1の方へ回るような)と反対回りになることが分かったのでよかったです。
▼Bさん モーターは電池を逆にすると反対回りになって、電池の向きによって回り方が変わることが分かりました。それと、LEDは乾電池1個ではつかないで、2個でつきました。ブザーで乾電池を2個にすると、とても大きな音になりました。ブザーは+を黄色の導線にふれて-は緑の導線にふれると鳴りました。
▼Cさん モーターは、電池をぎゃくにすると、反対のまわり方になりました。ブザーは、電池を2個にした方が高い音がなってびっくりしました。実験の時、私は電池が2個になるとプロペラのまわり方が速いと予想をたてました。そして、実験をしてみると、予想どおり電池が2個の方が速くまわりました。ブザーは2個の方が、音が高くなりました。私は実験をして、2個の電池がある方が、1個よりも速かったり明るかったりするんだなと思いました。LEDは、ぎゃくにするとつかなかったのでびっくりしました。
▼Dさん ブザーを2個の乾電池につなぐと、とってもうるさいけれど、ぎゃくではならない。私がびっくりしたことは、LEDでは、1個のときでもぎゃくのときでもつかなくて、2個のときはついたのがびっくりしました。だからLEDでは、電気がいっぱい流れないと光らないんだなと思ってびっくりしました。どうしていっぱい電気が流れないとだめなのかなあ。多分、たくさん光るためかな。
■考察と問題点
① 3年生の指導内容では、乾電池を1個だけで学習を進めるのですが、LEDを扱うためには、乾電池2個の使用が必要となります。今回、乾電池2個の直列使用は、電気を強くしたいという子どもの願いを満足させることができるので、3年生でも扱ってよかったと思われます。
② LEDは、豆電球と比べると、省エネルギーの光源として取り扱いたいのですが、乾電池1個では点かなくて2個で初めて点灯します。そこで、Dさんのような「電気がいっぱい流れないと光らないんだ」となります。電流計を使わなかったので、このような子どもの考えは、そのままになってしまいました。
4.第4学年の実践
4年生は、LEDを使ったもの作りを最終的なねらいとして学習を進めました。今回は、4年生もLEDを扱うのが初めてなので、3年生と同じように、LEDと豆電球の比較から学習に入ることにしました。学習は常に比較の視点で、実験を進めていくようにしました。
① 豆電球に流れる回路の電流量調べから学習を始めました。豆電球の+側と-側では、電気の流れる量は違うかという疑問から学習を進め、電流計の使い方も練習しながら、どちらも一緒であることが分かりました。
② 乾電池1個と乾電池2個(直列)の時、豆電球の明るさの違いや電流量の違いを測定しました。2倍にはなりませんでした。
③ 乾電池1個、そして、乾電池2個の直列と並列の3通りのつなぎ方を組んで、豆電球の明るさの違いと電流量の違いを測定しました。
④ LEDを点灯させる活動をしました。LEDには、極性があること、乾電池2個の直列の時しか点灯しないことが分かりました。
⑤ LEDを使った電気工作をして、発表会をしました。
⑥ 電池2個で、たくさんの発光ダイオードを点ける実験をしました。
■学習の結果(LED工作の発表から)
▼Eさん 7人の発表を聞いて、M君以外は抵抗を使用していませんでした。私は抵抗を使っていないので少し心配していたけど、抵抗を入れなくていいことが分かってよかったです。
▼Fさん 私は発光ダイオードがつきませんでした。でも、O君のやり方ならできそうだと思いました。K君の回路図がとても不思議でした。
▼Gさん 今日は、発光ダイオードの工作の発表をしました。M君はたくさんていこうを使っていました。私はていこうを使っていないので、使った方がいいのかなと思いました。O君の信号機では、たくさん電池を使っているのでいいなあと思いました。T君の発表で、オレンジ色の発光ダイオードを初めて見たのでよかったです。K君は小さい箱にたくさんの電池を入れて、2つの発光ダイオードがあつくなると思っていたけど、あつくならないという事を知ってよかったです。
▼Hさん 一番びっくりしたのは、M君の工作です。設計図もすごく、音センサーも入っていました。そして、音がなったら走るという工作でした。T君の工作は、発光ダイオードを1個しか入れていないけど、工夫していたので良いなあと思いました。
▼Iさん 僕は今日、回路の組み方についていろいろと学びました。僕がおどろいた回路は、K君の読書灯です。それは、抵抗を1つも使わずに、アルカリ電池4個で、LEDを2個とてもあかるく点けているからです。僕はLED1個と単3アルカリ電池2個をつかっただけです。
▼Jさん S君やO君、T君と僕の回路はにていた。O君の信号はすごくいっぱい電池を使っていておどろいた。それに、M君のはコンデンサをいっぱい使っていたから、こんなのもあるんだなと思った。僕はみんな青の発光ダイオードを使っているかなあと思っていたけど、ほとんどの人が、青を使っていなかったのでびっくりした。一番おどろいたのは、M君の音センサー車で、声だけで走ったからおどろいた。
▼Kさん 「ていこう」という物があることが知れてよかった。何をするものなのかと思って辞書で調べたが、のっていなかった。残念。私はていこうはつけていません。
■考察と問題点
① 抵抗を扱わなくても、子ども達の工作は、問題なく点灯していました。子どもの工作程度の点灯時間なら、抵抗を入れないで作っても大丈夫だと分かりました。
② コンデンサやダイオードを使ったり、センサー類を使ったりした電気工作が出てきて、電気を得意としない私には、回路図を理解するのに少し困りました。
③ 子ども達の工作は、三色のLEDを使った信号機が多かったのですが、星座やクリスマスツリーや塔の飾りなど、数多くのLEDを点灯させている子どももかなりいました。乾電池に多数のLEDを並列に入れている児童と、LED1つに乾電池2個を接続して、大量の乾電池を使っている児童がいました。
5.おわりに
3年生では、乾電池に豆電球だけでなく、モーターやブザーやLEDを使うことで、回路の概念や、電流の流れる向きと、電流の強さを感じさせることが出来たと思います。乾電池2個を直列に使うことは大きな問題ではなく、子どもがやってみたい活動でしたので、その延長上で、LEDも扱えることが分かりました。
4年生は、工作をしていく上で、抵抗を入れるか入れないかで、やはり混乱を起こしましたが、入れなくても工作が出来ることが、今回の取り組みで分かりました。正式な使い方ではないので、今後、電気の専門家からクレームがつく可能性は、重々あると思います。乾電池で抵抗を入れないで、安全に使えるLEDを探すようにしていきたいと思います。今回、取りあえず、子ども達がLEDを使いこなして、電気工作に活用出来たことは、LEDの教材化に向けての第一歩になったと思います。