自ら学習のめあてを持てる子ども 理科室の学習の進め方 2008年2月
1.はじめに
理科の専科教諭になって3年目。学級で毎日子ども達と顔を合わせている学級理科の場合とは違う、専科理科の学習の進め方が少し見えてきました。「理科室のお作法」(2007年10月号)に引き続いて、ここでは「理科室の学習の進め方」について書き進めたいと思います。
学級では、朝の会のひと言発表や、自由研究発表などを取り込みながら、また、日記に書かれている理科的な内容も紹介しながら理科学習を進められます。理科的生活の上に、連続した問題意識をつなぎ、学級理科学習を構築することができます。
一方、専科の理科学習では、点と点を必死につないでいくような学習になってしまいます。点を線に、さらに面に広げていくような「学習のめあて」を、どのように専科理科の中で創らせ、できるだけ連続した学びにしていくのか、考えていこうと思います。
2.自律的学習の始まりのお作法
現在のところ専科による理科学習は、各学級の理科の時間を週1回に集めて、3、4年は1、2時間目の2時間続き、5、6年は4、5時間目の2時間半続きで年間を通して取り組んでいます。毎回の各学級の学習を立ち上げていく時の、主な手順とその意義を見ていきたいと思います。
①ノートの1行目を丁寧に書く
日時、曜日、気温、天気、学級名、名前などを、ノートの1行目に丁寧に書かせます。
②「学習のテーマ」を書く
これは、教師が決めます。又は、前時に決まります。例えば、ものの溶け方のきまり、太陽の動きの観察、などと簡単に書きます。事前に係から連絡をしてあるので、学習のテーマに沿った資料を持ち込むようにさせています。
③「学習のめあて」を持つ
学習のテーマに沿って、学習のめあてを持つようにしています。6年生は6行以上、5年生は5行以上、4年生は4行以上書きます。今日の学習を生活や独自学習とつないだり、前回の学習とつないだりしながらテーマに対する学習のイメージを、個々に具体化します。数人に発表させるようにします。
④「独自学習」を少しする
今日の学習に関連する、資料や教科書や参考書や辞書を使って、短い場合は10分ほど、長い場合は30分ほど独自学習をします。最近は、インターネットからの資料を持ち込む子どもも多くなっています。家で取り組む課題「独自実験」を出している場合は、それをノートにまとめる時間にもなります。
⑤「独自学習」の発表
取り組んだ独自学習の内容を簡単に発表させます。時間が少なくても、何か一言でも、数人に発表させます。
⑥「今日の学習」(実験や観察、又はレポート発表等)
めあてや独自学習の発表を生かして、今日の実験や観察の計画を立てて、相互学習を進めます。また、レポートを書いていたり、工作をしていたり、家庭学習で自由研究をしてきていたりする場合は、それらの発表の時間となります。
以上が、「今日の学習」が始まるまでの毎時間のだいたいの進め方です。始まりのお作法です。子どもの力で、今日の学習にどんどん迫っていくための学習立ち上げの方法だと考えています。この手順で学習を進めていくよさは、以下のように考えます。
○教師の発問があってそれに答えていく学習ではなくて、自分の力で、また、友だちの発表を参考にしながら、学びの方向性(めあて)を創っていく学習である。
○独自学習を短い時間でも入れることで、学習の周辺に広がっている世界と、自分たちが今目指している学びをつなぐことができる。逆に言えば、自分たちの学習からの広がる世界が見える。
○独自学習の発表の時、必ず数人発表させます。その時、先に言った人と同じことを言ってはいけないと伝えてあるので、子ども達は他人と違う独自の学びへの取り組みを大切にし、一層さらに独自学習が深められる。
○「めあて」や「独自学習の発表」を板書していくと、その中に今日の学習の方向性につながる課題や疑問や生活とのつながりが見えてくる。それを教師と子どもが共に確認することで、今日の実験観察やレポート発表への問題意識を高めることができる。
学校で本来付けなければならない学習力とは、子どもが、自分で「学び」を立ち上げることができる力だと考えています。どのようにしたら、新たなめあてに自分の力で立ち向かうことができるのかを習得することです。ここでは、学習の立ち上げの部分を書きましたが、研究論文などでいうところの、「この研究をしようと思った動機」の部分をきちんと書かせていくことだと考えます。そして、そのテーマの周辺に広がる資料を集めることも、学びの始まりには大切だと思います。私たちは、教師が導いてさせるのではなくて、自分で追究していくことができる子ども、自分でめあてを持てる子どもの育成を目指しているのです。
3.自律的学習の背景にある安心感
理科の追究は、実験、観察から自分なりのデータを得て、そこから考察をしていく活動であり、また、レポートや工作の発表などを相互に聞き合って、深めていく活動です。
基本的には学習は個人なのですが、間違い、思い違い、聞き違い、理解不足などで、活動が思うようにできない子どもも多くいるのが普段の学級です。違ったまま最後の考察までさせていくと、間違った認識を固定することになります。修正する時間、やり直しをする時間がある場合は、結果考察までしてから、なぜ自分の取り組みが違ったかを考えさせるのが理想的なのですが、実際、日頃の理科の学習の場合、殆どそのような時間を取ることができません。また、一度違った活動をしてしまって、修正ができるような子どもは、大きな間違いをしたりしません。
そのため、グループにして、子ども同士の活動の中で小さな修正がなされながら追究が進められるようにします。私の学校はどの学級も40人近く子どもがいるので、個別実験をすべて点検しながら進めさせることは、不可能に近いのです。そのため、グループ化することで、実験取り組み中のチェックも可能となります。簡単な実験観察は、2~3人の16グループ、少し難しい場合は実験室の机ごと(4~5人)の8グループにして学習を進めさせます。
5年生は、ものの溶け方の実験をしています。食塩やミョウバンを使って、室温の水にどれくらい溶けるか規則性を調べました。50mlと100mlの水に最高どれくらいまで溶けるのかを、各班(4~5人)で協力して実験をします。ビーカーは4つですので、うまく分担しているグループは実験をどんどん進めています。食塩やミョウバンを、1gずつ電子天秤で計り取って、それをビーカーの水の中に入れてはかき混ぜるという単純な作業ですが、物が溶けるということを体験するよい基本実験です。
実験の工夫は、今何gを溶かしているのかを1g単位で、ホワイトボード上の表を書き換えさせていきます。各班の実験がどのように進んでいるのか、教師も他の班の子どもも一目で進行状況が分かります。例えば、他の班が手際よく食塩を2g溶かしきっていると、24gを溶かしている班は大胆でも大丈夫だと分かります。
次に、学習終了の時刻が迫ってくると、実験途中でも終えなければいけません。その時、全ての班のデータが書かれてある表がホワイトボードに残るので、一覧を見ながら、今日の実験の妥当なデータを考えます。この実験の場合、2つの要素で妥当性を考えます。1つは、データが集中している時(おおよそ飽和水溶液まで行き着いている時)は、数値の平均をデータとして採用します。もう1つは、データがばらついている時(時間切れでまだ溶かすことができる時)は、数値の高いデータを採用します。例えば、25、27、28、32、32、33gとなっていると、33gの班のデータをみんなのデータとします。
このように話し合って求めた結果は、50、100mlのそれぞれの水に、ミョウバンは4gと8gで、食塩は17gと33gでした。みんなの力を合わせると、とてもいいデータが求められます。班ごとの結果をそのままグラフ化させて、そこから考察してもよいのですが、その場合ばらつきが多くて、「それぞれの物質の溶ける量は、水量に比例する」という考察が、殆どの班でできないで終わることになります。
このように、班での協力、学級全体での妥当性の検討をしながら、今日の学習のめあてにせまるのが、楽しい理科であり、分かる理科になると考えます。何でも個人実験にしていくと、責任感、自律性のある理科にはなるのですが、協同の学びの中での安心感や相互の学び合いがないと、ばらばらな実験になって、正しさの検討ができなくなります。
小学校の実験も、意外と難しいものです。自律的にめあてをもって進める学習を大切にしながらも、その学習の確からしさを支える、「班の協力」や「学級全体でのデータの検討」が背景にあることが、実は自律的学習を進めていく上での安心感として大切なのです。
4.生活から自律的学習を立ち上げる
学習のめあてを持たせるには、学習を前時から、また家庭からつなぐことが大切です。
1つは、家庭で取り組む「独自実験」です。これは、例えば、「5年ものの溶け方」や、「6年水溶液の性質(酸性・アルカリ性)」、などの学習の時、家で実験をしてくる取り組みです。簡単に、自分なりの体験として家庭にあるもので実験をしてきます。レポートの提出まではなく、簡単なさわり的な取り組みです。
もう1つは、新しい学習を進めていくとき、その学習に合わせた参考図書やインターネットからの「学習資料集め」の取り組みです。これも、家で調べてノートに書いてきたり、レポートを作ってきたりするようなことではなくて、ざっと目を通して、持って来るように伝えます。
これら「独自実験」「学習資料集め」の取り組みは、学習の最初の「めあて」の中に反映されたり、短い「独自学習」の時間に、ノートにまとめられたりします。
家でレポートとして、まとめてくる子どももいますので、それはノートに貼っていくようにさせています。また、図書館に行って、関連図書を借りてくる子どももいます。家庭を巻き込み、家庭の中に科学する心を忍び込ませる取り組みです。毎回、レポートを強制すると理科嫌いになります。「何か実験やってくるといいなあ」「何か資料探してきてください」というような、簡単で優しい指示の方が、子どもも家庭も育つのではないかと、最近思い始めています。
5.自律的学習の終わり方のお作法
学習の終わりは、学習したことを実際の生活の中へ戻したり、学習の次への連続を意識させたりする取り組みです。これも、無理をさせると、学級担任の学習との兼ね合いがあるので、子どもの興味や時間的な程度を考えて、課題を少しずつ進めるようにしています。
①学習の終わりには、今日の振り返りを必ず数行から1ページ程度書かせ、生活と学びをつなぐように意識させる。
②学習後、家庭に帰ってから、生活や地域の中を見回したり、父や母と話をしたりして、学習日記を書く。
③学校で取り組んだ比較的安全な実験を、家庭でもう一度、兄弟姉妹、又は両親に見せて、一緒に楽しむ。
④学校で栽培している植物を、家庭でも育ててもらうため、種を配る。
⑤おたより「まほろば科学館」を配布して、学習の位置づけを解説し、家庭の科学的興味を広げる。
以上は、「理科室の学習の進め方」における、学習の終わり方をどうするかという考え方です。理科学習を、学校の学習時間だけで完結してしまうのではなくて、ずっと興味を持ち続けられるように、生活の中に溶けていくような終わり方が大切だと考えます。子どもの生活の場面から学びを立ち上げて、生活の中に戻していくことが、「自ら学習のめあてが持てる子ども」に育てる大切な要件だと考えます。
6.おわりに
前回の「理科室のお作法」に続いて、「理科室の学習の進め方」をまとめ、自律的学習を専科理科がどのように取り組めばよいのかを考えました。それは、学習の始まりは、生活や資料からつなぐこと、そして、理科室での学習は助け合って安心感のある状況で相互に学ぶこと、終わりは、生活の中に溶けて行くように終わることだと、今回の文章を書きながら見えてきました。子どもが学ぶめあてを自身で持ち、生活とつないだところで科学を見つめる理科の学習法が大切だと思いました。時間がゆったり無くても、毎回の学習の始まりには、めあてを持つ時間を確保し、短くても独自学習の時間には資料と学びをつなぎ、最後の振り返りで再び生活とのつながりを考えることが理科のお作法だと自覚できました。
私たち現場の実践者は、日頃の子どもの学びの姿を見ながら、少しずつ学習の方法を変化させて、子どもたちに合ったリズムの学習法を、直感的に創っています。今回、このようなまとめる機会を得て、自分の日頃の取り組みを、客観的に書き出すことができました。そして、その取り組みを、振り返りながら、自分はなぜそんな取り組みをしているのか考えることができました。
一方、この「自ら学びを持てる子ども」のまとめを書いている中で、次の新たな課題も見えてきました。それは、子どもが持ち込んでくる「独自学習」の「質」をどのように高めるのか、検討が十分にできていないです。今後じっくり検討していきたいと考えます。