3年理科「物の重さくらべ」 2009年6月

 

1.はじめに

 新しい学習指導要領が昨年発表されて、3年理科に「物の重さ」について学ぶ内容が入りました。まだ教科書もない全く新たな単元なので、子ども達と一緒に迷いながら、子どもはどのような活動に興味を持ちながら重さの学習に取り組むのかを、共に体験していこうと考えました。

 

2.初めての学習を始める

 理科学習の毎時間の始まりは、私が「今日の学習のテーマ」を書いて、子どもは「今日の学習のめあて」をノートに書くようにしています。突然、まだ教科書もない内容の「物の重さくらべ」と、学習のテーマをホワイトボードに書かれた子ども達は、少し戸惑いながらも力強く自分の学習の見通しを書きました。

 

OO いろいろな物(消しゴム・じしょ)は同じ大きさや形でも、大きさや中みがちがうと重さがちがう。氷はとけたら軽くて、こおると重くなると思う。

ST 物の重さは木の重さはいろいろあって、小さなものの重さをはかってノートにグラフをかいてみよう。重い物は水に沈むけど、軽い物は水に浮くか、大きくても軽い物はどんな物かを調べよう。

YD おもさには、重力がかんけいしているからそれをしらべよう。氷と水の重さのかんけいと水の中に入れると何がちがうか考えよう。

YZ 物の重さの違いを計るのはてんびんだけど、僕の体重を計るのは体重計で、いろんな種類のはかりがあるから、どのように重さをはかりたいのかと思った時に、はかりの種類を使い分けよう。

AB 同じ大きさのかんなどの物をてんびんなどで重さをはかったり、角ざとうがとけたときと角ざとうの重さはなくなったりするのかを調べよう。

SK ケーキを作る時にこむぎ粉や砂とうやバターなどをはかるからそれを考えてやろう。

MT 物の重さをはかるのは、はかりやてんびんなどではかれるけれど、水でもはかれるからどんなちがいがあるのか調べよう。小さいけれど重いものは、鉄のスプーン(もつ所が木ではない物)やじしゃくなどです。

YZ 物の重さを水やはかりを使ってはかってみよう。中身でも重さがちがうので、同じ大きさでも中が空どうだと軽いので同じ大きさの物もはかってみよう。さとうやしおは、量で重さがちがう。

 

 新しい学習は、どのような準備をして、どのように進めるとよいのか、当初全く見当もつかなかったのですが、子どものめあてを見ていると、そこには素晴らしいヒントがありました。

 ・同じ大きさでも中身が違うと重さが違う。

 ・氷はとけたら軽くなり、固まると重くなる。

 ・重さを計ってグラフにする。

 ・重い物は水に沈み、軽い物は水に浮く。

 ・重さには重力が関係している。

 ・重さの測定には、てんびん、体重計を使う。

 ・角砂糖が溶けたときの、角砂糖の重さはどうなるか。

 ・小麦粉、バター、砂糖の重さを計る。

 ・重さを水の浮き沈みで調べる。

 ・砂糖や塩は、量で重さが違う。

など、これから進める学習の課題や道具が全て記録されているではありませんか。教師が分からないときは、子どもに聞くという原点を体験したように感じました。

 

 次に、「生活のどんな時に重さを使っているのか」ということについて話し合いをしました。

MO 僕がお母さんと一緒にお店に行ってお肉屋さんでお肉を買う時、100g、300円で、500gでは1500円で買います。

YD 僕が、野球のボールを買いに行くと、重いほうと軽いほうがあって、僕は軽いボールを買うようにしています。

YZ 体重を計る時に重さが出ます。僕は30kgです。

HK 僕もよく体重を計ります。一気にしゃがむと体重が変わります。軽くなります。

ST いっぱいご飯を食べた後計ると、増えていました。

IM お風呂に入った後は、重くなりました。

AB 私は、お風呂に入ると軽くなると思います。たぶん、汗が出るからです。

MO 僕は500gのジュースを飲んで体重を計ったことがあるけれど、その時200g増えました。

YD 体重計の上で、両足で立って計った時と、片足立ちで計った時とでは、片足の方が重くなると思います。

MM お米を買う時には、5kg、10kgで買います。

YJ ハムスターの体重を計っています。30gから48gになりました。

ID 私は、お風呂の後は同じか、減ると思います。増えないと思います。

TN お味噌を買いに行くとき、500gとか700gとか、パックに書いてあったように思います。

MT お餅がみんな同じ重さになるように、お餅つきの時に計りました。

FK 市場では、マグロの重さで、値段を決めて売っていました。

SN 私の家では、ハンバーグを作る時に、秤で計って同じ重さにするようにします。

OO ジュースやコーラには、mLが書いてあります。

きつねT 缶コーヒーは、gで書いてあるね。

HH コーヒーは、粉だからと思います。

TM 入浴剤にも、gが書いてありました。

AB 給食のミルメイクには5g、きなこ味のミルメイクには8gと書いていました。

KT パンを作る時、お母さんは生地の重さを計っていた。

SM 卵パックに、一個ちょっと忘れたけど、○○gと書いていたと思います。

GT マヨネーズ、ケチャップにも、gが書いてあります。

 

以上、生活の中での話し合いから、さらに興味深い重さに関する内容が具体的に出てきました。

 ・お風呂の前後で体重が変化する。

 ・体重計に乗る時、片足、両足立ちの違いで重さが違う。

 ・ジュースを飲む、ご飯を食べると体重が増える。

 ・体積(mL)と重さ(g)の関係。

 ・お米やお味噌は重さで計る。

 子ども達は、「重さ」に関して生活の中のいろいろな場面で出合っているようです。また、食品や生活用品には、重さが記載されていることも、意識化されてきました。生活の中の重さ体験を大切にした学習を進めたいと思いました。

 

3.見えてきた学習の進め方

学習1 重さについて話し合い

 ○生活の中の重さについて       

学習2 家の中で見つけてきた重さ

 ○いろいろな重さ体験、重さ見つけの話し合い

  ・gとkg、mLとL、水1Lが1kg 

 ○水に浮くもの、沈むもの        

学習3 キッチン秤を使った重さの測定

 ○身近な持ち物を、キッチン秤を使って測定しグラフ化

学習4 体重計を使った重さの測定

 ○体の形を変えて・ジュースを飲んで・おしっこして

学習5 天秤を使った固体の重さの比較

 ○素材の質を考えて測定 

  ・固体 (金属、木、プラスチック、ガラス) 

学習6 天秤を使った液体、粉体の重さの比較

 ○台所のいろいろな食物の測定

  ・液体(醤油、ジュース、牛乳、水、油、アルコール)

  ・粉体(食塩、片栗粉、砂糖、小麦粉、きな粉、パン粉)

学習7 形を変えたときの重さの変化

 ○形を変える・置き方を変える

 ○水に浮いている・沈んでいる・溶ける

 ○学習の振り返りを書く

 

4.キッチン秤・体重計を使って(学習3・4)

 子どもが家でも楽しく学習が進められるように、キッチン秤や体重計を使うことを考えました。学習時にキッチン秤を持って来てもらうと、デジタル方式と台秤方式が半々でした。子ども達の多くは、キッチン秤で重さを計るのは初めてです。手当たり次第、何でも計ってみたいようです。班で協力して、鉛筆、消しゴム、ふでばこ、教科書、辞書などを計って、グラフにしました。2種類の秤を使ってみて分かったことは、10グラムよりも小さな重さは、台秤では読み取れず、デジタルの秤を使うようにしていました。

 次に、保健室の体重計を使って学習をしました。両足で立ったり、片足で立ったり、座ったり、力を入れたりして、体重がどのように変化するか比べました。子どもの予想は大きく外れる課題ばかりで、体重計の上でポーズを変えても全て同じでした。さらに家庭で、体重測定が続きました。お風呂に入ると、トイレに行くと、食事をすると体重はどのように変化するのかを、多くの子ども達が独自学習ノートに取り組みを進めました。食べたら増えて、出したら減るということを体験を通して身につけました。

 

5.天秤を使って(学習5・6・7)

 天秤を使って、重さ比べをしました。固体の学習から入りました。同じ体積にして重さを比べたいのですが、生活の中ではそのようなものが見つかりません。そこで、固体の比較は仕方なく、教材用の素材である、アルミニウム、塩化ビニル、ポリエチレン、木の四種の素材を比較しました。子ども達は、簡易天秤で上手に重い順に並べることができました。

 次は、子どもが比べてみたいと希望していた粉体(食塩・片栗粉・小麦粉・砂糖・きな粉・パン粉)や液体(醤油、ジュース、牛乳、水、油、アルコール)の重さ比べをしました。粉体は、同じカップで同じように入れた粉の重さを比べました。液体は、メスシリンダーで測定した200mLの重さを比較しました。6種類の重さを並べるのに混乱を起こすのではないかと考えていましたが、どの班も、間違いなく5分もかからない間に、重い順に並べることができました。4種、さらに6種の重さを順に並べるのが、意外に早くできることから、3年生の子ども達の比較の思考力の高さに、教師が驚かされました。

 さらに、形を変えたり、置き方を変えたりすると、重さの釣り合いは変わるのかについても実験をしました。粘土を3つに分けたり、広げたアルミホイルを丸めたりちぎったり、水に角砂糖を溶かしたりしても、重さの釣り合いは変わらないことを確かめました。

 

6.質量保存と粒子概念

 キッチン秤、体重計、簡易天秤を使った活動をして、それぞれの考察から、面白いことが分かってきました。

 まず、体重計の測定からは、ジュースを200mL飲むと、200g体重が増えて、おしっこをすると体重が減るということから、見えなくなったものも、重さがあるという質量保存の考えが体を使って育っていくと感じられました。

 また、液体の重さ比べから、水よりも重いものは、牛乳、ジュース、醤油で、水に何かが溶けているからではないかと考えました。子どもがいうには、乳脂肪、ミカンなどの繊維、豆の粒や食塩などが溶けていると意見が出ました。油やアルコールは、水よりも軽いので、水と違う物質ではないかと考えました。

 粉体の重さ比べからは、食塩が重くて、それ以外の片栗粉、砂糖、小麦粉、きな粉、パン粉と続きました。食塩だけが鉱物(結晶)で、他は植物からできているので軽いと考えました。空気を含んでいるパン粉は軽い、小さな粒でぎゅっとたくさん入っている片栗粉(デンプンの粉)は重いなどの考察もあり、粒子概念を育てる活動になっていました。

 また、学習後半の形を変えたり置き方を変えたりする実験では、体重計や台秤を使っていろいろ取り組みをして質量保存の概念が育っていたと思っていましたが、粘土を分けると重くなる、アルミホイルを丸めると重くなる、角砂糖を溶かすと軽くなると、きっちりと間違っていました。このような体験を3年生の段階で何度もしておく大切さを感じました。

 

7.金属の学習

 固体の重さ比べの場面では、今回は準備不足で子ども実験として取り扱うことができませんでしたが、鉄、銅、アルミニウムの三種類の金属の重さをここで体験しておきたいと感じました。これまで、小学校理科では金属の学習を前面に出して学習していませんでしたが、理科学習の始まりの「重さの単元」で金属3種を知ることにより、その後の、3年の電気・磁石、4年の熱伝導・熱膨張、5年の電磁石の軸、6年の酸アルカリ水溶液との反応など、全学年に鉄、銅、アルミニウムは取り上げられていきます。今後、3種の金属を素材とした学習を積極的に組んでいきたいと考えています。

 

8.おわりに

 どのように進めるのか全く予測がつかないまま始めた学習ですが、子どもの生活体験や、やってみたいことを聞きながら進めると、結果的にとても楽しく、内容のある学習になりました。子ども達は何度も家で実験をしてきました。生卵とゆで卵の重さは同じか違うか、風呂に入ると体重は増えるか減るか、食事をしたらどれくらい体重が増えるか、立ったり座ったりして体重が変わるかなど、毎回の学習の最初は、家での取り組みの発表が延々と続きました。独自学習を中心にした発表と、疑問点をみんなで確かめる相互学習の実験が、うまく組み合わさった学習になったと思います。