6年理科「奈良の大地のしくみと変化」 家の近くの地層調べレポートを書く 2011年8月
1.はじめに
6年の「大地のつくりと変化」の学習は、およそ30年の教職の間に、何度も工夫して学習を進めてきたつもりです。しかし、振り返ってみると、地学分野は自分自身が得意とする領域なので、教師が状況を与えすぎて、子ども独自に追究させてこなかったかもしれません。また、地層の学習は難しいからと、子ども自らの観察は無理と、頭から思い込んでいたように思います。
今回は、子どもたちが独自学習として、自分の家の近くの地層観察に取り組みました。保護者の熱心な協力が背景には当然あるのですが、子どもの行動力、意欲が育っていないと、保護者の力だけでは実現することはありません。ここでは、「奈良の大地のつくりと動き」の相互学習の追究過程と、独自学習で取り組んだ「家の近くの地層調べ」について紹介していきたいと思います。
2.まず独自学習をする
6年生の子どもたちは、新しい単元の学習に入る前には、独自学習をする習慣をしっかり身に付けています。今回は、「奈良の大地のしくみと変化」というテーマを設定しました。子どもたちは、教科書や参考書やインターネットから探した資料を基に独自学習を始めました。
大地のしくみの学習はまったく初めてなので、子どもたちは、地層のでき方、断層の種類、海洋底プレートの動き、東北地方太平洋沖地震のしくみ、不整合と整合、化石の種類などから学習を始めていました。ちょっと、中学・高校地学のような内容から、手を付け始めているようでした。しかし、資料には図や表が丁寧に描かれている場合が多いので、少々難しい内容でも、それなりに理解することができるようです。
今年度は、3月11日の東北地方の大地震の起こる仕組みを、テレビ等でよく見聞きしています。海洋底プレートの動き、地殻の歪み、断層、つなみ、などの言葉が、日常語として位置づいています。また、地震エネルギーの大きさを、大災害として感じていることで、「大地のしくみや変化」の学習意欲は、必然性のある学習に高まってきています。
3.奈良盆地周辺の地形図に色塗り(4月26日)
子どもたちは、独自学習によって、一般的な大地の構造や地震の仕組みについて学び始めましたが、奈良周辺の地層になると資料を見つけられません。そこでまず、相互学習では、奈良の地形について考え合うことにしました。
大阪湾周辺から奈良盆地までが入っている手作りの地形図を使って、海(大阪湾)は青色、平野は緑色、山はオレンジ色に塗り分け、山の頂上には山の名前を書き込みました。子どもたちは意外に地形、地理を知りません。奈良盆地周辺の山々の名前も知りませんでした。6年の理科で学ばせる必要性があることが分かりました。
地形図の色塗り活動をしながら、①地面の下はどうなっているのか、②どのようにしてこのような地形ができたのか、について自分なりの考えを持ちました。
▼いろいろな種類の土が何段も積まれていると思います。どんな種類があるのか、また、どうやったらプレートが動くのかこれから調べたい。なぜ、地面の下に砂や石があるのかも考えたい。
▼地面の下には岩などがかたまった層があると思います。ずっと地下には土砂などがあって、それが地層になり、地面があると思う。どのようにできるのか知りたいです。
▼地震はプレートが動いているとテレビで見ました。プレートが動くと地層は変わったのか変わっていないのかを知りたい。地球の中のマグマはどんな変化があるのかも知りたい。
▼地震で僕の住んでいる奈良の下には、どんなプレートがあるのか知りたいです。そのプレートは、なぜ動くのか知りたいです。
子どもたちは、資料による一般的な地層についての独自学習から、実際の奈良の地面の下へと興味が向きました。
4.大阪層群と和泉層群の地層の比較(5月10日)
地層の写真を見ることから学習を始めました。撮り溜めてきた奈良県周辺の地層の写真を見せました。
大阪層群は、約200万年以降の第四紀の地層です。奈良、大阪、兵庫などで撮影した大阪層群の地層を見ながら、特徴を捉えました。柔らかくて、スコップで掘れる固さです。1回の堆積サイクルは、下から、小石、砂、粘土と重なっているのが分かります。ペットボトルの中に運動場の砂を入れて振って作った堆積実験とよく似ています。粘土層の上には、地下水が流れた痕跡が見られます。大阪層群は、平野の下に厚く分布し、丘陵地の崖で観察できます。平野を造る地層です。
和泉層群は、中生代白亜紀の地層で、主に砂泥互層でできています。大阪、兵庫(淡路島)で撮影した写真を見せました。ハンマーで地層を叩くとかんかんと音がする固さです。中央構造線の北側に細長く分布し、地層は地殻変動を受けて傾いていて、主に山地を造ります。アンモナイトなどの化石が見つけられます。
子どもたちは、大阪層群と和泉層群の地層の写真を比較し、その違いから、地層の古さ、でき方、地殻変動などを読み取り、似ている所から、地層は水で流された小石や砂や粘土が堆積してできたことを予想しました。
▼二つを比較すると、結構違いが出てきて驚きました。和泉層群は見るからに固そうで、大阪層群は柔らかそうでした。次は化石について調べたい。
▼和泉層群が傾いているのは、海の底から盛り上がったためだと思います。何年間圧縮されているかによって、地層の固さが変わってくる。
▼和泉層群は波が流れてきたときに、波は斜めだから、斜めに地層ができたと思っていたけど、盛り上がって来たときに斜めになると分かりました。
▼大阪層群と和泉層群は、しましまになっていました。私が見てきた地層もすごくやわらかくて、ちょっとさわっただけで、ぼろぼろと一気に落ちました。地層はかたさもちがうのだなあ。
▼私は、大阪層群と和泉層群の傾きが違うのは、海面から上がってきたとき、真っ直ぐに上がってきたのが大阪層群で、斜めに傾いて上がってきたのが和泉層群だと思いました。昔、日本は海に沈んでいた。
子どもたちは、自分の家の近くで見られる地層は、大阪層群なのか和泉層群なのかを考えました。また、化石についても、これから調べてみたいと考えるようになりました。
5.二上山屯鶴峰と二上山博物館に行く(5月20日)
理科専科で教えているので、なかなか思うように野外観察に行けません。今回は、地層の観察は写真を使うようにして、1日かけた野外観察日では、凝灰岩の層が見られる二上山屯鶴峰に行くことにしました。
二上山一帯は、大阪と奈良の境にある第三紀の火山地帯です。石器の材料として有名なサヌカイトをはじめ、流紋岩、含ザクロ石クロ雲母安山岩、石英安山岩、玄武岩など、各種の火山岩が見られます。今回、観察に出かけた屯鶴峰は、二上山の北側に広がり、火砕流と泥流堆積物からなる真っ白い凝灰岩の景勝地です。
屯鶴峰へは、近鉄南大阪線上ノ太子から1時間ほど歩きます。途中の空き地で、幸運にもサヌカイトを採集することができました。また、花崗岩やザクロ石安山岩も見つけました。子どもたちは、持って来たハンマーで石を叩きながら、岩石採集をしました。
屯鶴峰に入ると、凝灰岩の地層が何回も堆積している様子が見られます。屯鶴峰は保護されている景勝地なのでハンマーは使えません。火砕流堆積物の地層の観察をしてから、崖の下まで下りて、川沿いの転石の中から、溶結凝灰岩、凝灰岩、安山岩、流紋岩など、四種類の岩石を拾いました。
午後から、関屋駅に出て電車に乗り、二上山博物館へ行きました。サヌカイト、凝灰岩、ザクロ石の詳しい展示があり、子ども独自で学びを深めることができました。
6.「奈良の大地の学習」の独自学習と相互学習
現在、理科は専科教科として教えています。5・6年生の学習時間は、週1回の4時間目と5時間目(60分)です。4時間目は、子どもたちが取り組んでいる独自学習の発表の時間です。教師は殆ど聞き役になり、子どもが学習を始め、子ども同士で相互に学習を深め合い、そして、さらなる独自学習のテーマを見つけます。
奈良の地形の色塗りを4月末にして、奈良の地面の下の様子に興味を持った子どもたちは、独自学習として、本やインターネットからの資料調べに合わせて、家の近くの実際の地層調べをしてきて発表を始めました。5月最初の連休を使って調べた子どもが多くいて、その子たちが、独自学習ノートを使ってプレゼンをします。4時間目の独自学習の発表に続いて、5時間目には、その時の独自学習から発展する、次のような相互学習の課題に取り組みました。
①大阪層群と和泉層群の地層の比較(5月10日)
②ペットボトル堆積実験、砂の標本作り(5月17日)
③化石年表作り、岩石標本作り(5月24日)
④レポート書き(5月31日)
このように、4時間目は独自の発表の時間、そして、5時間目は、相互に実験や観察に取り組む時間に充てることにより、子どもの自律した学習が次第に深まってきました。
7.家の近くの地層観察の発表と1枚レポート
今回、奈良に住む子どもたちが、奈良の地面の下はどうなっているのか、各自が課題を持ち、独自に調べることができました。4時間目の独自学習ノートを使った地層調べの発表では、地層の調べ方、記録の仕方、大阪層群の特徴などを深め、修正していくことができました。また、大阪層群ではない、生駒山や柳生や木津の花崗岩を調べた子どもがいたり、奈良若草山近くの安山岩や凝灰岩を調べた子どももいたりして、それぞれの発表に個別に指導することもできました。
そして、時々に発表してきた独自の調べ学習を、まとめてみんなに見てもらうために、一枚レポートを書く時間をとりました。わずか1時間でしたが、信じられないほど上手に地層レポートを書くことができました。どうしても、家の近くの調べ学習ができていない子どもは、みんなで出かけた屯鶴峰の調査内容を書くようにしました。全員が、レポート作りに取り組むことができました。
8.おわりに
その後、レポートを使いながら、大阪層群と海進海退、二上山屯鶴峰と火砕流、生駒山の花崗岩の学習へと進め、火山活動、活断層の学習をしました。とくに、屯鶴峰の火砕流堆積物と雲仙普賢岳の火砕流の映像とをつないで学習ができたので、屯鶴峰の凝灰岩の観察が、動きのある火山活動とつないで考えることができました。最後に、学びの履歴を書いて、「奈良の大地のつくりと変化」の学習を終えました。
今回、これまでに取り組んできた地層の学習と違ってきていることは、インターネットの普及により、地質学の専門の本を調べないと分からないような大阪層群や和泉層群、海進海退、氷河期、海洋底プレートの移動などの内容について、子どもでも資料が容易に手に入れられるということです。このことにより、学年の垣根が取り払われ、学ぶ意欲のある子どもは、どんどん調べ学習を進めることができるようになりました。独自学習が、以前よりずっと取り組みやすくなってきています。これらの資料を活用しながら、家の近くの地層調べにも実際に足を運び、写真とサンプルをとり、大阪層群の地層調べのレポートを書くことができました。
私たち教師も、時代の状況に合わせて、学習の進め方を変化させなければいけないと痛感しました。さらに、子どもたちは、資料調べを詳しくするので、教師は、実際の現象に対する調べる力を高め、教師自身が現地で資料集めをする行動力向上の必要性を感じました。