独自学習・相互学習に初めて取り組む子どもたち 2011年4月

 

1.はじめに

 相互学習は、大正時代の木下竹次が定義した言葉で、独自学習と対になる学習です。相互学習では、独自学習の学びの交流を進め、質を高めたり、広げたり、活動したり、振り返ったり、質疑に答えたりします。そして、再び独自学習をするための方向性を学び取り、より深い独自学習へと子どもたちは進むことができるのです。

 「相互学習と独自学習では、どちらが大切なのか?」と問われると、私は、「独自学習ができる力を付けること」と答えるようにしています。しかし、学級全体として教師が見守り、学びの集団を育てるために積極的に関わるのは相互学習の場面なので、「質のよい相互学習を創造することが、さらに深い独自学習を育てることである」ともいえます。今年度は、久しぶりに1年の担任をしました。ここでは、独自学習と相互学習の学習法が最初からできあがっていく過程を体験することができました。本稿では、今年度の1年生の学びの過程を振り返ってみたいと思います。

 

2.独自学習の大切さ

 独自学習や相互学習は、「しごと」、「けいこ」、「なかよし」の全ての学習場面で行われる学習法です。個別に独自学習された学びを、相互学習では、テーマを決めて話し合ったり、実験したり、観察したり、表現したりします。独自学習は、相互学習に入るための予習ではないと、木下は書いています。本当にそう思います。課題への関わり方、追究の仕方、追究の質、表現など、全てが独自学習の本質です。

 9月の校外学習で天王寺動物園に行きました。「動物園学習」という課題で追究を進めるとき、それぞれの子どもたちは、自分が決めた動物、例えばコアラ、キリン、ゾウ、ライオンなどについて動物園に行く前に調べ学習をします。そして、動物園へ遠足で見に行くとき、戻ってから動物や動物園についての相互学習をするときは、自分が調べている独自学習の課題から考えたり、意見を言ったり、疑問を出したりします。相互学習の課題は、草食や肉食の動物、食物連鎖、環境適応、種の保存、進化など、このような難しい用語は使わないけれど、このような提案を取り上げて話し合いをします。しかし、相互学習が終わった時、コアラの発表がよかったからといって、ゾウを調べている子どもがコアラ調べに移動することはありません。コアラの発表の仕方、課題の持ち方、調べ方、観点の絞り方などを学んで、自分のゾウの追究に活用するのが、相互学習の大切なところです。相互学習の後のさらなる独自学習では、この友だちの良さに学び、そして、その良さを自分の学びに適応してさらに追究を深め直します。ということは、相互学習の「ふりかえり」の時に、どれだけ友だちの発表、意見、表現から「よさ」を学び取ったのかということが問われます。私たちの学習で、「ふりかえり」を大切にしているのはこういうことなのです。

 

3.独自学習と相互学習が生まれる1年生の4月の活動

 9月の動物園についての独自学習が、なぜ1年生にできるのか疑問に思われるかもしれません。それは、「朝の校庭さんぽ」、「元気調べ」、「自由研究発表」「校外さんぽ学習」を、すでに4月から始めているからです。

 「朝の校庭さんぽ」は、8時25分~50分の間、2年生以上は掃除をしますが、1年生は掃除をテーマにしながらも、学級単位で活動ができます。私の学級は、校舎裏の畑の草取りをしながら、栽培植物や雑草の観察、メダカ池の観察を毎日続けました。チューリップの花を見たり、春の七草を見たり、アブラナの実の成長を見たり、サヤエンドウの収穫をしたりという活動です。雨の日は、図書室、集会室、体育館、造形室、理科室などの掃除に出かけ校内探検です。

 「元気調べ」は、日直が名前を呼んで「はい、私は元気です」の後に続けて「今日、校庭さんぽでメダカを見ました」などの一言をいう活動です。最初の頃は、身近な発見が出ないので、「朝のさんぽ」で見つけたことを言う子どもが多くいました。また、「朝のさんぽ」で見つけたことを少し調べてきて話す子どもが育ってきました。独自学習の芽生えが「元気調べ」にあることが分かりました。

 「自由研究発表」は入学してから約一週間後、4月20日から始めました。ほぼ毎日1時間を設定し、年間約1000点の発表がありました。発表したい子どもが物を持ち込み、前に出てCCDカメラで大きく写して発表をします。始まりの頃のテーマを表示すると、次のようです。

▼4月20日 メダカ・押し花・タンポポ・恐竜・花の色のけんきゅう・メダカの本・貝・つくし・おたまじゃくし・こうもりの実(ヒシ)・平城京の写真

▼4月21日 チューリップ・カタツムリ・サソリ・アボガドの種・シダの化石・植物図鑑

▼4月22日 本の紹介・タンポポの種・サソリの住んでいる所・ハートのキーホルダー・ヒメオドリコソウの種・押し花

▼4月23日 りゅうのなみだ・生き物の飼育図鑑・恐竜の本・植物図鑑・アンモナイト・タニシとヤゴ・本の紹介

▼4月26日 マツの花とマツボックリ・水の生き物の絵・ナノハナの種・アメンボ・水の生き物の図鑑・ザリガニ調べ・カタツムリとカニ・手作りランチョンマット・ナズナ・水の生き物の図鑑・英語の本・四葉のクローバー

▼4月27日 カラスノエンドウのさや・アンモナイト・本の紹介・アマガエル・水の生き物の図鑑・キャップ・四葉五葉のクローバー・アンモナイトの化石

 

 初期は、「朝の校庭さんぽ学習」が根底にある発表です。「元気調べ」の一言発表より、少し話す内容の多い発表が「朝の発表」となりました。発表したい子どもは、「はい僕は元気です。今日はタンポポを持って来ました。後で発表します。」と言い、黒板に名前カードを貼りに行きました。この「朝の発表」が次第に自由研究発表や独自学習へと育っていきました。

 

 「校外さんぽ学習」は、4月に2回出かけました。

▼4月13日、田んぼへ春の植物を見に行く。20種ほどの植物を採集する。

▼4月28日、春の遠足で小川のある公園に行き、ザリガニ、カエルの卵、オタマジャクシ、タニシなどをつかまえる。教室前に置いた大きな水槽で飼育し始める。

 

 このように、1年生の4月から「朝の校庭さんぽ」「元気調べ」「朝の発表」「校外さんぽ学習」などを始めました。日々の学習生活を耕す、育てる、そして互いに聞き合うという、基本的な学習法を進めることで、自分で調べること、そして、みんなの前で発表することが、学校の学習の基本であることを身に付けていきました。今年度、1年担任で良かったのが「朝の校庭さんぽ」でした。朝掃除の時間の25分間は、生活と学びをつなぐ大切な活動になりました。

 

4.運動会の頃に考えたこと

 1年生が、10月に運動会を経験しました。私たちは、運動会を独自学習の発表の場であり、相互学習の場面であったと考えます。理科で言うところの、みんなで取り組む実験、観察の場面であるとも考えられます。運動会が終わってから、話し合いの相互学習の時間を持ちました。日記帳には、運動会当日の独自のふりかえりが書かれています。そこで次に、みんなで相互にふりかえり、「運動会で学んだことは何か」を話し合います。国語でいうところの、「この物語の筆者は、子どもたちに、何を伝えたかったのか」「私たちは、この物語から何を学んだのか」という学習です。運動会の相互学習のふりかえりから、今回の運動会に向けての取り組み方の良さと不十分さが話し合われ、次の新たな運動に対する独自学習の取り組み方が生まれるのです。私たちの学校は、このようにして「自律した学びの文化」を、自分たちで創造していくことを大切にします。また、あえてここに、理科や国語のことを少し書いたのは、全ての学習が、運動会の取り組みと関連しながら、独自と相互の学習として、学びの信念として保たれながら進められているからです。

 運動会の頃、大学生の教育実習がありました。2週間の短い期間ですが、実習生に何をどのように学んでもらうかも、独自学習として学び、相互学習で広げ深めます。基本的な教師としての技能は、日々の担任の先生の立ち居振る舞いから独自学習で学び取ります。私たちの学校では、子どもをどう捉えるのかを大切にしています。自律的に学び続ける子どもをどう育てるのかを考え続けています。学習中、座席表に子どもの発言や様子を記録して、日記や学習ノートと付き合わせながら、その子の姿にせまるようにします。実習生には、常にメモを取りながら一日過ごさせます。子どもが帰ってから、ノートや日記やドリルの丸付けをして、そして、今日のふりかえりの会を持ちます。「自分は今日一日、何を学んだのか」「子どものとらえ方をどのように工夫したのか」「どんな言動やノート記録から、どんな子どもの状況を読み取ったのか」を交流します。授業の技術の善し悪しだけではなくて、子どもが国語の時間、算数の時間、生き生きと学んでいたか、自らの表現をしていたかということを問います。さらに、表面的に見える姿だけでなく、ノートや態度の裏に隠されている子どもの思いや願いの部分を読み取り、子どもの生活の本質の部分に迫る学習研究のあり方を共に追究したいと考えます。教育実習の学生が来ることで、私たち担任も、自分の学級の子どもを見つめ直す機会になります。教育実習生と共に、日々の学びのふりかえりができることを楽しみにしています。4月当初の1年生と同じく、実習生も、初めての教師体験がその人の教師としての出発点です。教員免許を出すのですから、できうる限り免許皆伝としなければいけません。ここでは、こぎつね附小の先生の弟子として学んでもらうように努力しています。

 

5.独自学習と相互学習を育てる一年間の学習場面

 4月の始まりの取り組みは既に書きました。

 5月末から6月の初めにかけて、奈良らしいことを探そうと、「奈良さんぽ」に2回ほど出かけて、最終的に劇として表現しました。4月の春の生き物、草花の取り組みと同じように、柿の葉ずし、奈良漬け、おみやげ、シカ、猿沢池などについて、「元気調べ」や「朝の発表(自由研究)」で、次々と発表されました。「奈良さんぽ」の前後に、それぞれで独自学習が進められて、「元気調べ」「自由研究発表」では相互学習として学習が展開されました。

 9月から10月には、「動物園さんぽ」から始まる独自学習と相互学習が展開されました。

 11月から12月は、奈良公園、大仏殿、二月堂周辺のさんぽを中心にして、大仏様、東大寺、興福寺調べをしました。劇作りにも取り組みました。

 1月から2月にかけては、岩石、化石調べをしました。「二上山屯鶴峰さんぽ」、「自然史博物館さんぽ」を中心に、その前後で、サヌカイト、火山、岩石、恐竜化石、石器作りなどの独自学習が進みました。

 

 以上のように、1年生の1年間では、

①「朝の校庭さんぽ」

②「商店街・猿沢池さんぽ」

③「動物園さんぽ」

④「奈良公園・大仏殿さんぽ」

⑤「二上山・博物館さんぽ」

の五つの大きな学習が進みました。

これらの学習場面で、子どもたちは独自学習、相互学習の学習法を深めていきました。

 

6.相互学習の力が育った子どもの要件

 相互学習は、互いの良さの学び合いであり、相手に対するやさしさ、尊重です。心情が育っていないと、相互学習が、けなし合いになったり、競争心を煽ったりするだけの時間になります。人にはよくない部分がたくさんあります。しかし、素晴らしい点もいくつかあります。よさの部分に心を集めていくと、次第に協同した学びの集団に育ちます。

 また、相互学習は、聞き合い、学び合いの時間ですので、資料、辞書、参考書の持ち込みが大切です。質の高い相互学習は、豊富な資料を使いこなし、正確な言葉で独自学習の交流を進め、おたずねができることが大切です。

 さらに、メモを取る力、日記やノートや掲示物を書く力、言葉で発表する力などを身に付けることが大切です。

 大正期の木下竹次は、相互学習について次のような指摘をしています。「各児童が多種多様に働くことが出来て、しかも其の内に普遍性のひらめくことは相互学習に於いては非常に必要なことで、教師中心の教育に於いて多く見ることのできないことである。如何に偉大な教師でも質に於いて又量に於いて千種萬様に働いて各児童の個性と発展程度とに応じた指導をすることは不可能である。」また、「児童の内には天才的のものが決して少なくはない。下学年の児童についても教師の及ばぬ事は沢山ある。」と述べています。子どもに学べる教師になることが大切だということです。

 

7.おわりに

 今回、1年生を担任して、独自学習、相互学習の未体験の子どもが、どのような学習を体験しながら、次第に独自学習、相互学習が取り組めるようになっていったのかが見えてきました。

①さんぽ(野外観察、体験、調査)に、それぞれ個別の課題を持って出かける。

②さんぽの体験に連動して、個別の課題について学びを独自に進めて、「朝の元気調べ」、「朝の発表」、また「しごと」「けいこ」の学習の時間に発表する。

③相互学習からの学びを生かして、私の個別の課題追究をさらに深め、次の相互学習に備える。

 初めて学習に向かう1年生に、独自学習を育て、相互学習で交流し合う力を体得させることは、形ではなく、「学び合う楽しさの共感」であると感じました。「調べたことを発表し、そして聞き合う。」が出発であり、到達点でもありました。

 

参考・引用文献

 学習研究 大正11年11月号木下竹次「相互学習汎論」