私たちのこぎつね附属学校が目指しているところ 2015年秋
「子どもたちの学習を、生活から立ち上げること」は、とても重要だと私たちは考えています。子ども自身が学びの目的を生活の中に見出し、自ら解決していこうとする生活を開拓していく力や、自主自律の力を身に付けさせることにつながるからです。この考え方は、大正時代の主事木下竹次が記した学習原論から引き継がれる根本的な考え方です。百年の歴史を持ちます。
今年の9月、文部科学省から伝達があり、全国の附属を持つ大学が、それぞれの附属がどのような考えで教育研究を進めているのかを、ポンチ絵2枚に表して提出しなさいと言ってきました。全国の附属学校を一覧にして見比べて、それぞれ競争させるのがねらいだと考えました。各附属学校の副校長は、とても大変な一か月を過ごしました。
1枚目には、時代の要請、流行の教育法に振り回されている学校も多い中、私たちは、大正自由主義教育である「奈良の学習法」と、戦後の「しごと・けいこ・なかよしによる奈良プラン」を表現しました。さらに、最近の私たちの学校が、3回に渡って文部科学省から研究指定を受けたテーマ「独創的でねばり強い『思考能力』の育成(平成18〜20年)」と「読解と表現をつなぐ『論理的思考力』の育成(平成21〜23年)」と「多様な能力や個性的な才能を引き出す『生活学習力』の育成(平成27〜30年)」を書きました。
また2枚目には、現在行っている具体的な教育のかたちとしての取り組みを表現しました。幼小一貫教育としての、初等前期(3・4歳)・中期(5歳・1年・2年)・後期(3〜6年)の「学び文化の伝承のある異学年探究」と、「学びの自己組織化を目指した活動・学習の進化」を実現するための協働学習の具体(自由選択活動→学級全体活動→おたずね・おこたえ→めあて・ふりかえり→独自学習・相互学習→児童中心の学習活動→自律的な学習)を段階的に表現しました。さらに、「生活学習力の育成」への具体(みんなへのお知らせ→朝の元気調べ→日記→自由研究→生活からの学習の立ち上げ→生活即学習の精神)による自覚的な生活への取り組みも構造化しました。
今回のポンチ絵では、子ども中心、自主自律の伝統を大切にしながら、それぞれの時代の新しい取り組みが積み重なって、現在の教育があることを全国に表現しました。これまでの先輩たちから引き継いできた現在の形を、今年たまたま副校長だった私が中心になって書きました。今後は、私たちの学校の若い先生方が、時代を見据えて学習法に進化発展を加えながら、日本中の教育界が根源的に目指しているテーマである「子ども主体の学習を創る」ことを目指して実践を続け、さらなる緻密な学習法を表現してくれることでしょう。
幼稚園との一貫教育を進めてきてもう10年近くになります。それ以前は、どちらかというと互いに無関心な関係にありましたが、幼稚園から小学校へ全員進級するように改革し、幼稚園の入園検査を幼小の先生が協力して行い、入園入学式も一緒に取り行い、そしてつい最近、園児の定員の変更がなされて、幼小一貫教育校の形は整いました。組織的な改革と並行して取り組みを進めてきた、いくつかの幼小の活動は、今年から始めた研究開発学校としての「なかよしクラブ」「なかよしひろば」「なかよしラボ」の異学年活動の取り組みへと発展しました。次は、私たち小学校の、「しごと・けいこ・なかよし」の学習が、幼稚園5歳のカリキュラムとどのようにつながるのかについても、研究を進めなければなりません。前回の研究開発学校指定の「論理的思考力の育成」では、学習場「奈良」における「しごと」学習の9年間のつながりについて、系統的に研究を進めることができています。今回の研究開発学校指定では、「生活学習力の育成」というテーマで、「異学年探究」の研究だけでなく、「しごと・けいこ・なかよし」の学習に関して、幼小の一貫教育を深める「5歳のカリキュラム」の設計も構想しています。
附属学校の存在の意義が問われている現在、私たちは、附属幼小中等学校と大学とが協力して、これまでの百年の「伝統と実績ある子ども中心主義の教育」を、さらに世に問うていく考えで進めています。