「書く力」を育てる日々の活動 

  〜「聞き書き力」と「考え書き力」の育成について〜 20154

                                

1.はじめに

 本校のように子どもたちが自律的に学習を進める学校では、書く力はとても重要な力である。書く力が子どもに育っていないと、教師も子ども自身も、学びの進展が見える形として自覚できないからである。

私たちが進める自律的な学習は、子どもたちの独自学習を中心に、個別に学びを構築することを目指している。そこでは、独自に知識を拡げ、論理的に考え、自分自身の学びを計画的に進める力が必要である。また、相互学習では、独自学習を基に、話し合いを深め、自分の意見と友達の意見をつなぐ力が必要である。さらに、校外に調査に出かけて、自ら学びを獲得していく力も必要としている。

 ここでは、自律的な学びの基盤である「書く力」の中の、「聞き書き力」と、「考え書き力」に焦点をあてて、なぜそれらは重要なのか、そして、そのような力をどのように育てていくのかについて、考えてみることにする。

 

2.聞き書きをする力と考え書きをする力とは

 「書く力」というと、黒板を美しくノートに書き写す力、また、参考書や教科書をまとめる力、レポートや作文などを書く力などが直ぐに挙げられると思う。もちろんそれらは大切であるが、さらに私たちの学校では、聞き書きをする力と、考えて書く力に重点を置いている。

 聞き書きをする力とは、空中に飛び交う言葉を文字に表していく力である。大学生でもなかなかできないと言われるが、その力を小学生から育てようということである。学習係が黒板を書く力もこれに含まれる。

 考え書きをする力とは、まさに、考えながら文章を書くことを意味する。まずは、学習の後に、「学びのふりかえり」をする力であり、また、新たな考えを構成していく「めあて」を書く力である。さらに、日記、学習レポート、作文なども考え書きをする活動に当たると考えている。

 

3.「聞き書き力」を育てる

 本校の大正〜昭和初期の主事である木下竹次は学習原論(明治図書p197)に、聴解力の養成の必要性を説いている。「従来の教育は言説に訴えることが非常に多かった。動作による無言の教育はすくなかった。これは、学習者の聴解を重視する教育だが、なぜか教師は自分が系統的に平易におもしろく説明して、学習者が容易に聴解して深く感得するようにしようとのみ工夫して、学習者自身の聴解力を発展させることには務めなかった。ゆえに、聴解させる場合が多いにもかかわらず聴解力養成の方法の研究は、はなはだ進んでおらない。」と書いていて、子ども自身の聴解力の育成が進んでいないことを嘆いている。

大正・昭和初期の頃より、格段に進歩した情報化社会に生活している現在の子どもたちは、おそらく聴解力は随分発展していると思う。しかし、子ども一人ひとりにどのように養成されているかについては一定ではない。そこで、木下の言うところの聴解力の育成を、「聞き書きの力」を育てる実践と関係すると捉え、次の取り組みを試みた。

 1年生入学当初より始めている「朝の元気調べ」の時間に、A4の白い紙を配布し、記録させていく活動を、1年生の6月ごろから取り組んだ。最初は、殆ど単語しか書き取れなかった子どもたちも、秋になり冬になると、朝のお伝えを、例えば「きのう、かぞくでお水取りを見に行きました。たくさんの人がきていました。はじめて見たのでかんどうしました。」と、いうような聞き書きができるようになってきた。また、1年生の自由研究発表も、9月ごろから始めたが、ここでも同じようにA4の白い紙にメモを書かせていくと、模造紙に書かれた内容や、おたずねとその返答なども、次第に書き取れるようになってきた。

 

 これら、朝の元気調べ、自由研究発表の聞き書きには、次のような指導の要点があると考えた。

     最初は書けないで当たり前と考え、書ける子どもが一人でも増えるように支援をする。

     A4版の白い用紙を縦に二つに折り、赤鉛筆で二つに分けるように線を引かせ、横書き二段に書かせるようにした。(縦書き三段にしたこともあったが、三つに折るのに苦労していた。)

     最初の行に、月日、曜日、名前を書かせてから、発表が始まるようにする。

     書き取れないことは飛ばしながら書き進め、書き取れることが増える工夫や努力をさせる。

     ある程度書き取れるようになると、きれいに書くにはどうすればよいかについて考えさせるようにする。(例えば、朝の元気調べは、女子は赤、男子は青で名前を書くようにしていた。)

     毎回記録用紙を集めて、子どもたちの書き取る能力の成長を確かめ、また、ふりかえりに書かれた内容について点検する。

 

 これらの活動を通して、子どもたちには次のような成長が見られた。

     一年間毎日続けると、多くの子どもが、朝の元気調べの一言を、メモできるようになった。

     記録に残るので、朝の元気調べで話す内容が吟味され、より深いことを話すようになった。

     要点を短くまとめて書き取る力がついた。

     友達の発表内容を記憶するようになった。

     自由研究の記録をその日に持ち帰りたいと言い、記録メモを生かして日記に詳しく書くようになった。

     校外に調査に出かけたとき、お店の方や、お寺のお坊さまのお話などを、「メモ帳」に書き取る力がついた。秋の遠足で出かけた動物園や、1年生のお別れ遠足で出かけた海遊館や大阪自然史博物館のメモの記録は、目を見張るような成長が見られた。「メモ帳」の記録は、その日の日記に生かされ、日記も充実してきた。

     国語や算数の学習時、相互のおたずねや答えを、学習ノートにメモできる子どもが増えてきた。

 

 朝の元気調べや自由研究発表の意義については、これまでにも各所で述べてきたのでここでは深く述べないが、このように1年生でも、朝の元気調べや自由研究発表時にメモを取らせていくことで、聞き書きの力が飛躍的に育つ学習場になることが分かった。 

 

4.「考え書き力」を育てる

 考え書きの力は、全ての学習時間の終わりに、「学習のふりかえり」を学習ノートに書くことで、日々育つと考えている。友達の意見、取り組んだ活動内容、そして、自分の考えを合わせて、学習の最後にふりかえりを書くことは、本時の学びを再構成することに当たる。学習ノートを書くということは、得た知識を分かりやすく書くことと、さらに、自分の考えをしっかり書くことの両面が必要である。

 「学習のふりかえり」の記述は、低学年の頃は、教師や学習の司会の子どもが、「それでは学習のふりかえりを書きましょう」と言ってから書いていたが、高学年になると、今日の学びをまとめるように「学習のふりかえり」を自主的に書き始める子どもに育ってくる。また、時間内に書き切れない時には、休み時間を使ってふりかえりをしっかり完成させようとしたり、「放課後までに出しますがいいですか」とこだわって頑張ったりする子どもも増えてきた。

 

 学習のふりかえりの「考え書き」には、次のような指導の要点が挙げられる。

     今日の学習で心に残ったことを書く。

     今日の学習の分かったことや結論、まだ解決していないこと、次時への課題、これからしてみたいことなどを書く。

     時間の都合で発表できなかったことで、先生に後で読んでもらいたいことを書く。

     小見出しをつけながら、文章で書く。

     書く活動ができないような野外での活動や、学校行事や遠足などの終わりの会にも、必ずふりかえりを言う機会を持ち、教師はメモをするようにした。

     ふりかえりの発表は、二、三人しかできないが、書きながら友達のふりかえりを聞き、自分のふりかえりに生かしていくことができるようにした。

     ふりかえりが書かれた学習ノートは、毎回提出し必ず教師が読み、教師のふりかえりとした。

 

以上のように、学びのふりかえりを考えながら書く活動を通して、子どもたちには次のような成長が見られた。

    学習の全体を見通して、大切なことをまとめることができるようになる。

    各学習の毎時間、ふりかえりを書く活動を続けることで、学びに対して自覚的になる。

    友達の考えと違うふりかえりの観点を持とうとし、個性的な学び、より深い学びに向かうようになる。

    考えを書くことで、自分の学びを整理し、構造的に学習を捉え直すようになる。

    ふりかえりが充実してくると、次時の「学習のめあて」を持つ時、より適切で見通しのある考えが言えるようになる。

    ふりかえりが充実してくると、独自学習の必然性が生じて、独自学習を自ら進めるようになる。

    どうしても時間内にふりかえりが十分に書けなかった時は、その日の日記にふりかえりの続きを書くようになる。学習と生活が融合してくる。

    自分の考えや感想をまとめる習慣が育ち、校外学習の時にお話をして下さった方へのお礼の言葉などが、どの子でも適切に言えるようになる。

    学習ノートに、「めあて」と「ふりかえり」が、必ずある学びの形式になり、学習自体が自律的に進められるようになる。

    学習を構造的、自律的に進められるようになると、レポートや学習作文などが、的確に書けるようになる。

 

木下は、自分の研究した結果を記述すればそれが教科書だ。真の教科書は学習者自身の作ったものでよろしい。じつに研究結果を適当に記述したノートは、一種の教科書である。」と、学習原論(明治図書p234)で述べている。木下の言う研究結果だけでなく、さらに、自分の思考の変遷、高まり、深化、感想が表現されているノート指導を目指して、日々の私たちの取り組みは進められている。

 

5.聞き書き力、考え書き力の育つ学級

 「聞き書き」の力、「考え書き」の力は、「朝の元気調べ」「自由研究発表」「学習のふりかえり」という、継続する活動の中で、毎日、根気よく育てることが大切であることを述べてきた。裏を返せば、「朝の元気調べ」「自由研究発表」「学習のふりかえり」が、恒常的に成立していないと、聞き書き力、考え書き力が育たないということにもなると考えている。限られた学習の時間ではあるが、継続的な活動の時間で育つ書く力を大切に育てていきたい。 

 「朝の元気調べ」は、わが校で一番大切な学習時間である。子どもの生活と学びをつなぐ扉である。子どもの生きる情熱の発露である。それらを子ども相互が真剣に聞き合い、互いに書きとめることで、生活と学びを共感し、学びの協働の基盤を形成するのである。生活と学習の全ての原始が、朝の一言に表現されてくる。そんな緊張感のある朝の会、そんな緊張感を感じ合える朝の会を、私たちは創らなければならない。そして、一言も逃さず書き留めて、生活を学びに、学びを生活に共鳴させていき、子どもの全生活の中で学びを形成していくようにしたいものである。

 「自由研究発表」は、一人ひとりの個性と興味によってなされた追究を、学び合える時間である。内容、考え方、取り組み方、その子の興味、さらには生き方までを学べる時間である。独自学習の原点であり、協働した学びの中に個性を主張する場でもある。学級全員の学びを注意深く書き留めてつないでいくことにより、より深い学び合いの形成がなされると考えている。

 「学習のふりかえり」は、学習の「めあて」の成立につながり、自律的な学習を形成する大切な活動である。さらに、日記や学習レポート、学習作文などを書く力にも影響する、自分を見つめ自覚する取り組みである。ふりかえりをしっかり書き、相互に聞き合うことで、全ての学習がそこから始まり、全ての学習がそこに集約されていくと考えられる。

 

6.おわりに

 こぎつね小では、「聞き書き」の力と、「考え書き」の力を培う活動を継続的に続けることにより、自律的に学習を進める子どもの育成を目指している。これまで小学校ではあまり問題にされなかった「聞き書き力」そして「考え書き力」をしっかり育てることで、子どもの学ぶ力を一段と高められることが分かった。教師も子どもも常にメモ帳を持ち、常に現地で書き続ける人に成長していくようにしたい。