理科での読解力 2006.12.11

 

①自然を読み取る力

 理科における読解力とは、国語のように文章からの読解力ではなくて、自然現象として現れている状態を、どのように読み取り、そして記述していくかということだと思います。自然を読解するには、単なる方法論、指導法ではない、経験、体験、愛着力、直観力などが必要です。例えば、石を見て岩石名が分かるには、かなりの熟練のための時間と経験が必要です。それには、職人の徒弟制度のような伝達が必要なのかもしれません。教育的に「理科における読解力をどう付けるのか」と、いうような授業の方法論は本来ないのかもしれません。植物も岩石も昆虫も、熟練の人と山を歩いて、少しずつ現地でその特徴や見極め方を習得していくものだと感じています。基礎実験も一緒です。熟練者と一緒に実験をしながら、そのコツを身に付けていくのです。全てのことに弟子入りできるものではありませんが、自分の専門を持ち、極めていく中で、自然の広がりや深まりを知り、自然現象に対して謙虚になることが、理科における読解力を身に付ける始まりだと思います。奈良の法隆寺の宮大工西岡常一が弟子に伝え育てたことは、「鉋や鑿の刃の研ぎ方が分からない間は、いい仕事が見えない」ということです。理科教育の鉋と鑿とは何に当たるのでしょうか。

 

②写真や説明を読み取る力

 話を少し、身近な所に戻します。教科書や資料の中の写真や説明をどう読み取るか、これは、子どもにとって大切な読解力です。私達は、教科書や参考書の読み取りの仕方がとても浅いと思います。写真を見て、グランドキャニオン、褶曲、火山などと、知っている言葉とつないで、その写真を理解したように見終えてしまいがちです。実は、他の写真と比較する、細かいところまで観察する、変化や違いを読み取る、等が大切です。その一枚からどれだけ学びを引き出すかが大切です。自然は分からないことだらけです。その分からないを引き出し、追究の始まりをつくるのです。

 また、私達は、写真と同じように、本文や説明や解説を読んで、直ぐ分かったような気になってしまいがちです。これも、辞書、参考書、他の文献と付き合わせて、さらに深めたり、矛盾点を見つけたり、他の場合と比較したり、成り立つ条件を考察したり、文章の論理の飛躍を埋めたりと、厳密に読む習慣を持たせていくことが大切だと思います。

 このように、教科書の写真や説明文においても、注意深く検討し読解を進めていくことが、自然に対しての読解力を育てることになると考えます。

 

③絵や図を読み取る力

 絵や図を見た時、何を表現しているのか、言葉にさせてみることが大切です。これは、人が何かを伝えるために書いたものですから、その意図を自分なりに言葉で表現し直していくようにさせます。そうすると理解がより具体的に、厳密になってきて、自分達が絵や図を描く時の参考にもなります。また、子どもの描いたスケッチから、他の子どもがその特徴を読み取ることで、何を表現できているのか、何を表現しようとしているのかを学び合う学習もします。子ども同士の表現や読み取りの違いを考え合うことで、理解の深まりや、絵や図やスケッチの適切性を高めるようにします。

 

④表やグラフを読み取る力

 表やグラフは、先の表現のところで書いたように、自然を一つの観点で数値化して、そこから分かることを引き出します。小学校の理科は体験重視ですので、表やグラフから読み取るような学習はあまり必要でないと言われますが、わが校では、実験結果を表やグラフに表現していく取り組みを積極的に進めています。そのためグラフを適切に読み取る力が必要となります。どのように比較するのか、変化をどう読むか、グラフの延長をどう考えるのか等、変化を読み取る力を付けないと、グラフを書いても意味がないということになります。いわゆる算数的な読解力を、実際の自然の中で培っていくことが理科でも大切ではないかと考えます。

 

⑤子どもを読み取る力

 理科教育は、自然を表現する力、読む力も大切ですが、理科教師は、理科教育を通して、子どもを読み取ることが大切だと思います。現在8クラス(約320人)の授業をしているので、1週間に10001300頁もノートを読みます。一人ひとりにコメントを書いてあげるのは無理なので、グット、ベリーグットと書くようにしています。そして、各クラスの数人分のノートをコンピュータに打ち込んで資料としています。最初にノートを読んだ時、打ち込んでいる時、再びテキストになった資料を読んでいる時と、何度か深く読んでいくと、子どもの取り組み、感性の動き、思いの深さ、その子の背景にあるものなどが次第に見えてきます。理科で子ども理解をし、また子ども理解から理科を捉えなおす取り組みをしていくことを、続けないといけないと考えています。

 

(学習研究誌12月号 「理科における表現力と読解力」より一部を掲載)