辞書・事典 2009.4.13(月)

 

 これまで、辞書・事典について、何度かお便りで紹介し、前号でも少し詳しく書かせていただきました。しかしまた、熱心な4年生の保護者で「先生、理科では、いったいどんな辞書を持たせるとよいのでしょう。」と、お尋ねがありましたので、今回ここで今一度、私が思っている辞書、事典、図鑑の活用について、考えを書いてみようと思います。

 私が30歳のころの公立小学校での取り組みですが、子どもが自分自身で学習テーマについて調べて、子ども自身が創っていく学習を目指していました。そのきっかけは、テレビで、ハーバード大学の授業を見た衝撃からです。25年も前のことですが、今でもはっきりと幾つかの場面を覚えています。

 

①大学生は、教授から出された読書課題を読んでいないと講義に出ないように言われていました。

②教授からの課題は、何百ページにもなり、また、何冊にもわたる難しい資料の読書です。大学生達は図書室にこもって、読書をしたりノートを作ったりしていました。

③講義では、その内容に関して、学生と教授が議論をしていました。「君は、○○のことについてどう考えているか?」と、次々に学生に問いながらの、討議中心の授業風景でした。

④講義室は、U字型に机が配置された階段教室で、教授はその一番低い底から、U字の真ん中を歩きながら、どんどん学生を指名していました。

⑤個人的なお尋ねができる時間は別に確保されていました。事前に予約していた学生が教授の部屋に行って、自分のレポートを見ながら教授に向かって話をします。教授は、それを模造紙の半分ぐらいの大きさの紙にマジックで書き取りながら聞き、その学生の問題点や次の課題を指導します。

 

 と、いうような、いくつかの場面を覚えています。その番組を見た翌朝、私は学校に早く行き、教室の33人の子ども達の机をU字型に並べてみました。登校してきた子ども達は、「何、これ何?」と言いながらも、雰囲気が変わった教室の様子を楽しんでいました。

 次に、ハーバード大学のように、たくさんの読書課題を出して、それを読んでから学習に臨むということは一般の小学校では不可能と考えました。そこで、

 

①学習に関係のある参考書を持ち込むこと。

②分からないことが出てきたら、その場で調べるための辞書を持ち込むこと。

 

の、二つの提案をしました。

 その後の学習は、例えば、「天平文化とは何か?」というテーマについて、「私の参考書にはこう書いてある」「僕の参考書には、こんな人のことが書いてある」と、いうような調べたことを競い合うように出し合いながら、内容を深めていきました。みんなで、追究する学習の成立です。子ども達は、どんな学習も楽しくて仕方ないようでした。

 参考書は、家で一人で読んでいても理解できるものではありませんが、みんなで競って読み合い、分かったことを紹介すると、本当に深く参考書が読めるようになっていきます。そして分からないことを質問し合って、その場で調べ合うことが学習であることが分かってきました。自分の資料を使いこなし、自分達の言葉で、語り合うことが学習になっていきました。最初の頃は、小学国語辞典を使っていたのですが、これでは到底「天平文化」は深められません。次第に歴史事典、人名事典、歴史資料集を持ち込むようになってきました。「学習を競い合う」ように育ってきました。

 算数も同じです。面積や体積の学習、分数の学習も、参考書勝負です。どれだけ参考書を使いこなして、議論ができるか。さらに分からないことは、数学事典を調べます。国語も、教科書の文章理解はもとより、作者論、他の作品との比較など、どれだけ他の人と違う視点で話ができるかを勝負してくる子どもが現れます。追究者としての学ぶ力が、子どもに育ってきます。

 このような学習の必需品が、参考書、辞書、図鑑です。普通の学級では、分からないことがある時は、①先生が教える。②子どもが「また調べてきて発表します。」と言う。(めったに後で発表しない)③「たぶん」の思いつきだけを互いに言い合う。などが、よく見られます。しかし、学習とは、「分からない時に分かるように調べる過程を子どもが経験すること」が大切なのです。家で一人で調べるものでなくて、学習時間に競い合って調べることであると、子どもから学びました。子ども達は、自分の追究レベルに合わせて、どんどん次なる資料を使い始めます。歴史などは、小学生用の資料集では友達に負けるので、中学、高校の資料を持ってきて、うまく使いこなすようになっていきました。

 教師も「へえー、そうなんだ。」だけを言っておられなくて、国語辞典も広辞苑レベルの大きなものを3種類、漢和大辞典、人名事典、歴史用語辞典、数学事典、科学事典、昆虫・植物・岩石・鉱物などの図鑑、気象事典、地学辞典、哲学辞典・・もう、書き出したらきりがないほどの辞典、事典・図鑑を、教師用の机に並べていくことになりました。子どもと一緒に、次第に辞書事典が増えていきました。

 ハーバード大学の授業風景を見たことをきっかけに始めた学習でしたが、実はそれは、我が校の、独自学習と相互学習に似ていました。子どもが一人で調べる学習と、相互に学ぶ学習です。

 私達大人の多くは、英語以外の辞書を使いこなした経験が殆どありません。小学生の頃、国語の意味調べが宿題に出て、家で調べた経験ぐらいでした。小学生の子どもが辞書、参考書、図鑑を使いこなして議論している姿は、保護者は驚きでした。私も驚きでした。

 さて、理科について話を戻すと、辞書は何を持たせるのかではなくて、子どもが他の子どもの様子を見ながら、自分の辞書・参考書を高めていくことが大切ということです。高まらない学級は、それなりです。資料だけ厚くても、重いだけになってしまいます。子どもの学習の質の高まりと連動します。

 

 ■ お知らせ ■

<3年>

 ノートは、7mmマスを使います。フィールドノート(独自学習ノート)も、後ほど学校から配りますので、自分で買わないようにしてください。丁寧にノート作りをしていくことを、大切にします。

<4年>

 ノートの文字、日頃の学習が、まだいい加減な人がいます。自分のためにする学習を、きちんとしてほしいものです。私以外に、他にだれも、私のために努力してくれません。

<5年>

 植物の観察です。スケッチをしながら、植物の構造を調べます。写真ではなくて、絵で分かったことを表現します。昔の植物学者の学びの過程をたどります。

<6年>

 ふりこ、できればばね振り子(単振動)にも取り組みます。

<大学>

 理科の学習指導要領の特徴と、新旧の学習指導要領の違い、今後の小学校理科教育の方向性を考えます。