メモノートを持つ
フィールド(野外)を歩く時、ノートを持ちます。フィールドノートと言います。地質学をはじめ野外で調査をする人にとっては、とても大切なツール(道具)です。
ダーウィンの「ビーグル号航海記」は、1831年から5年間、イギリス海軍の測量船ビーグル号に同乗した若き日のダーウィン(1809-82)が南アメリカ大陸沿岸や南太平洋諸島をめぐって各地の地質や動植物を克明に観察した日記体の調査記録です。ダーウィンは、新大陸の生物調査員として船に乗り込み、船が新大陸、初めての島につくたびに探検旅行を行いました。そして、生き物や化石や地層や地形などを克明に書いたフィールドノートをもとに、上記の本を書き上げました。特に、巨大な陸産のカメ、鳥のフィンチなど、特異な動植物で知られるガラパゴス諸島での観察がダーウィンに進化論の着想をあたえたといわれています。
また、民俗学の鶴見良行さんは、「フィールドノート」という本を出しています。民俗学者としてインドネシアや東南アジア諸国を歩き、昼間は調査で現地の方々から見たり聞いたりしたことをメモに取り、夜はそのメモを文章に起こしていく調査生活が伝わってきます。昼間の調査も重要ですが、夕方から夜にかけてのまとめの時間がとても大切であるといいます。
子ども達も、フィールドを歩く学者たちのように、フィールドノートの代わりにメモ帳を持ち、見たこと聞いたこと思ったことを、その場で書く習慣をつけるようにします。さらに、昼間に書いたメモは、鶴見さんのように、子ども達も夕方から寝るまでに資料に当たって調べ直し、日記にまとめます。
子ども達は、動きながら学習をするのが大好きです。しかし、活動を記録に残すのは、指導が必要です。1年生にメモを取らせる習慣をつけるには、野外でメモを書く時間をしっかり取ることです。そして、見たことや聞いたことをその場で整理しておくことです。そうすると、「今日はイロイロ見て楽しかった。」と言うような感覚的な感想ではなく、具体的にできごとの記録に合わせて、状況や感想が書けるようになります。そうなると、「さんぽ」が、「さんぽ学習」になります。
メモを書く力は、朝の会の「元気調べ」の一言発表や、「自由研究の発表」の時の聞き書き記録で力を付けます。1年生の5月ごろから朝の会の記録を始めると、秋には多くの子ども達が、しっかり書けるようになります。それに連動するように、メモを取る技術も伸びていきます。聞き書きをする力は、係の児童が黒板を書く力にも関連します。
ここでは、1年生のメモ記録の育ちを書きましたが、いつから始めても遅くありません。いつもポケットにメモノートを入れておき、見たこと、覚えておきたいこと、思ったこと、気付いたことを、書くようにさせます。特に、テーマを決めて考え続けている時、思い付いたことを書き留めていくことが大切です。新しい学級の子ども達では、春の遠足からメモ帳を使い始めて、次第に色々な学習場面で使わせるようにします。最初はメモ帳を使う活動を意識的に作るようにします。授業中にもメモ帳が活躍するようになり、いろいろ関連のある学習に活用できるようになります。
メモ帳の活用で、これまでの失敗例を一つあげると、専科の先生の授業中、メモ帳をちぎって落書きをし、友達に回すことがありました。予想される出来事ですが、許されない事です。みんなでよく話し合い、こんな事が続くようなら、メモ帳の使用が出来なくなると伝えました。
私たち教師も、子どもと過ごす生活や学習を克明に残すようにしています。教室にメモ帳(ノート)を置き、常に記録します。授業中の黒板記録は写真で残します。昼間に書ききれなかったことは、夕方に1日を振り返りながら書き足していきます。1日の物語を書くように記録を続けると、「子ぎつね物語」ができます。日々の出来事がドラマのようになって、教師は、素敵な仕事をしていることを実感します。