2024年度国家総合職専門択一試験・行政法コメントその2 | 彼の西山に登り

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このところ職種別ゼミや専門記述予想等の直前対策講座の講義収録が立て込んで間が空いてしまいましたが、2024年度国家総合職1次試験の専門択一試験の行政法の問題に対する簡単なコメントの続きです。

今回は行政救済法のうち、行政争訟法(広義)の問題についてコメントします。

例によって、問題が手元にある前提で今後の試験対策に活用するための簡単なコメントで、詳細な解説ではありません。

問題№は法律区分のものです。

 

 

【№12】=正答4

行政不服審査法に関する条文、判例素材の問題。ア〇の記述が迷うほか、新判例や細かめの判例も出題されており、やや難易度高めの問題です。

 

ア〇 行政不服審査法4条1号・4号。「主任の大臣」関連の例外(同条2・3号)が念頭にあると迷いますが、「イ、ウ」という選択肢がないので、原則論として妥当な肢と判断すべきでしょう。

イ〇 行政不服審査法7条1項12号。また、再審査請求は法律の規定がないとできません(同法5条1項)。

ウ〇 最判令2・3・26。同判例は、公有水面埋立法42条1項に基づく埋立承認は、国の機関が行政不服審査法7条2項にいう「固有の資格」において相手方となるものということはできない。そして、埋立承認の取消しである本件埋立承認取消しについて、これと別異に解すべき理由は見当たらない。そうすると、本件埋立承認取消しにつき、国の機関である沖縄防衛局がその「固有の資格」において相手方となったものということはできない、としました。

エ× 最判平14・10・24。同判例は、本記述の前半部分については、過去の判例(最判昭27・11・20)を引用して、妥当としました。しかし、同判例は、都市計画法における都市計画事業の認可のように、処分が個別の通知ではなく告示をもって多数の関係権利者等に画一的に告知される場合には、そのような告知方法が採られている趣旨にかんがみて、「処分があったことを知った日」というのは、告示があった日をいうと解するのが相当であるとしました。

 

 

【№13】=正答1

処分性に関する判例素材の問題。基本判例や過去の出題歴のある判例が素材で、処分性の存否についての結論だけで判断できるので、見た目ほど難易度は高くありません。

 

ア〇 最判昭34・1・29。基本判例です。

イ× 最判昭43・12・24。基本判例です。同判例は、通達は下級行政機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあっても、一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達の内容が、法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合においても別段異なるところはない。として、通達の処分性を一般的には否定しています。この点は引っ掛けとして多用されています。

ウ〇 最判平6・4・19。

エ× 最判平・21・11・26。同判例は、特定の市立保育所の廃止のみを内容とする条例であること等から、当該条例の制定行為の処分性を肯定しました。もっとも、本件は法律でいえば処分的法律(措置法律)に当たるような当該条例の特殊な性格が考慮された例外です。もちろん、判例は一般的抽象的法規範である条例一般について処分性を肯定しているわけではないことに注意しましょう(例えば、水道料金を改定する条例の処分性を否定した最判平18・7・14)。

オ× 最判平15・9・4。同判例は処分性を肯定しています。国家総合職では頻出の判例です。

 

 

【№14】=正答4

無効等確認の訴えに関する問題。頻出判例であるア×→肢4・5までは平易ですが、そこから正解を絞るためには、イ〇の判例をチェックしておくべきと思います。難易度高めです。

 

ア× 最判昭62・4・17。同判例は、換地処分の無効を前提とする従前の土地所有権確認の訴えのような現在の法律関係に関する訴えより、換地処分の無効確認の訴えの方が、より直截的で適切な争訟形態であるとして、換地処分の無効確認訴訟の原告適格を肯定しています。判例の結論で切れます。

イ〇 最判昭34・9・22。やや細かめの判例ですが、本問ではこれを知っているかが決め手になる場合が多かったと思います。

ウ× 本記述の内容について行政事件訴訟法等の法律に明文の規定はありませんが、無効等確認の訴えにおいて取消うべき瑕疵のみが主張され、無効の瑕疵が主張されない場合、請求は棄却されることとする見解があり、この見解に従えば前半は妥当といえます。※1

しかし、最判昭33・9・9は、行政処分取消訴訟の出訴期間内に提起された行政処分無効確認請求は、その取消請求を含むとしており、後半が妥当ではありません。学説にも、出訴期間内に無効等確認の訴えが提起されても、原告が取消訴訟でなく無効等確認の訴えとして扱うことを明示的に希望する場合でなければ、取消訴訟として扱うべきであるとする見解があります。※2★

なお、逆に取消訴訟において無効の瑕疵が争われた場合は、裁判所は取消訴訟として審理し、違法性があれば取消判決を下すと一般に解されています。

エ〇 裁判昭42・4・7。国家一般職・地方上級レベルの試験でも時々出題される判例です。

オ〇 無効当確認判決には、取消判決の第三者効(行政事件訴訟法32条1項)の規定は準用されませんが(同法38条1・3項)。ただ、これに対しては批判も少なくありません。また、行政事件訴訟特例法に関するものですが、本記述のような判例があります(最判昭42・3・14)。※3

 

 

【№15】=正答3

仮の義務付け及び仮の差止めに関する条文素材の問題。行政事件訴訟法37条の5がきちんとチェックできているかが問われています。ア〇→イ×→肢2・3までは平易で、正答が絞れるかはエ〇にかかりますが、執行停止からの類推で難しくはありません。

 

ア〇 行政事件訴訟法37条の5第1項。

イ× 同条2項。仮の差止め請求は、差止めの訴えの提起後に限られます。

ウ〇 同条4項は行政事件訴訟法25条5項・6項を準用しています。疎明は、即時に取り調べることができる証拠によってしなければならない点も妥当です(行政事件訴訟法7条・民事訴訟法188条)。

エ〇 行政事件訴訟法37条の5第4項は、同法27条を準用しています。

オ× 同法37条の5第4項は、同法33条1項の取消判決の拘束力の規定を準用しています。また、仮の義務付け決定は、裁判所が処分又は裁決を行うのではなく、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずるにとどまります(同法37条の5第1項)。裁判所の命令に行政庁が従わない場合、裁判所が代執行できる旨の規定はありません

 

 

今回はここまでとします。

 

 

※1 宇賀克也『行政法概説Ⅱ』【第7版】2021年 有斐閣(以下、『宇賀Ⅱ』) P321。

 

※2『宇賀Ⅱ』P320。なお、取消訴訟の出訴期間内の無効等確認の訴えが意味を持つ場合としては、審査請求前置の制約がかからないことが考えられます。行政事件訴訟法8条は、無効等確認の訴えには準用されていません(同法38条1・3項)。

★ウのコメントにつき、一旦アップ後に訂正しました。

 

※3『宇賀Ⅱ』P332~333参照。