公務員試験における商法の扱いについて・改訂版 | 彼の西山に登り

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このところ、以前2014年11月19日にアップした、「公務員試験における商法の扱いについて」という記事にアクセスが増えています。

ところが、この記事は国家総合職や国税専門官の試験が現行の制度になってから、また、財務専門官試験が創設されてから2年目の過渡的な時期の記事で、現状と合わない内容もあります(手形・小切手法の扱いなど)。

そのような記事でも、従来のアクセスの積み重ねで、(私としてはありがたくもあるのですが)検索すると上の方に上ってくることから、スパイラル状に参照する方が増える危険があります。

そこで、今回は、2022年までの状況を勘案して、今後の公務員試験における商法の扱いについて、再度書くことにします。

もちろん、現在でも通用する点は以前の記事と同じです。

 

 

もともと、県庁等専門択一試験のある地方上級では、法律系マイナー科目として、商法、刑法、労働法が各2問出題されてきました。しかし、この内商法は、会社法施行(平成18年5月1日)以降、地方上級では出題されなくなってしまいました。

その結果、現在、商法が出題される大卒程度の公務員試験は、
①国家総合職・法律区分(選択問題・3問)
②国税専門官・国税専門A(必須科目「民法・商法」8問中2問)③国税専門官・国税専門B(必須科目「民法・商法」2問中1問)

(現時点では予測ですが、ほぼそうならざるを得ないでしょう)
④財務専門官(選択科目「民法・商法」6問中1問)
くらいとなってしまいました。

難易度的には、国家総合職では難しい問題が1~2問出題されることもありますが、国税・財務専門官(共通問題です)では、平易~標準的な問題がほとんどです。


周知のことながら、一口に「商法」と言っても、大きく3つの分野に分かれます。
①商法(典)
②会社法
③手形法・小切手法

現在では別法律ですが、手形法はいわゆる手形法統一条約(1930)に基づき手形法が制定されるまでは商法典の一部であり、②は会社法が制定されるまでは商法典の一部であったこと等により、広義の商法に含まれます。


しかし、民法などとは呼吸が異なり、公務員試験での出題の中心は、②会社法であって、現在では①・③の出題はほとんど見られなくなっています。

国税専門官では、平成24年に手形法、平成25年に商法が出題されていますが、その後鳴りを潜めています。

現在では、公務員試験で出題される「商法」の問題は、ほぼ会社法の問題と考えていいでしょう。


出題される問題数が少ない割に、会社法だけでも相当な分量になりますから、どの程度勉強するか、あるいはカットするかは、受験する試験やその方の大学での専攻等、個別的な考慮が必要です。

国家総合職(法律区分)の場合は、他の選択科目との関係が問題です。国際法を捨てる方は、商法を捨てる方以上に多いでしょうから、さらに商法を捨てるならば、18問中9問選択の要求を満たすためには、刑法、労働法、経済学・財政学12問中9問を解答する必要があります。

法律区分にまわる経済学・財政学の問題は、国家総合職としては平易なものが多いので、上記12問の中で勝負すること自体は可能と思います。

それで最終合格まで到達している方も、毎年少なからずいるのではないでしょうか。

ただ、特に経済学が苦手な方(法学部生の中にはかなり拒否反応の強い方がいます)の場合、我慢して財政学は勉強するとしても、予備科目は欲しいところです。

この辺りが、商法を勉強するかどうかの境目になるでしょう。

一方、国税専門官の場合は、「民法・商法」1科目扱いで必須科目です。

国税専門A の場合、商法を捨てると、必須科目の8問中2問を最初から運に任せることになります。
他の科目とのバランスもありますが、もし「民法・商法」を民法6問だけで勝負しようとする場合は、財産法でマイナー分野が出題された場合のリスク回避策として、身分法もやっておいてほしい所です。

会社法を少しだけでもやっておこう、という場合は、株式会社の「株式」と「機関」だけでもやっておくと、1問、場合によっては2問拾える可能性があります。

 

一方、国税専門Bの方の場合、必須16問中、「民法・商法」2問、という扱いです。

受験案内を見たときに目を疑いました。出題意図不明です。

必然的?に、民法1問、商法1問ということになると思いますが、理系・情報系の学生が多いと推測される同区分の受験生が、会計学2問はまだしも、1問のために民法典、1問のために会社法を勉強しなければならないのか?

私は一応法律系科目がメインの講師なので、あまり言いたくはありませんが、「民法・商法」はカットして、基礎数学12問とせいぜい会計学で勝負してはいかがでしょうか。

選択問題や専門記述で出題されるわけでもありませんしね。



財務専門官では、「民法・商法」は選択科目(6問)ですから、そもそも当該科目を「選択しない」という途もないわけではありません。

ただ、選択科目「民法・商法」6問中、商法は平成25年以降1問しか出題されず、5問は民法です。

したがって、商法を捨てた上で選択する手もあると思いますが、その場合、やはり身分法は勉強しておいた方がいいでしょう。
国税専門官で出題される民法6問中5問が財務専門官と共通ですが、平成25年以降、身分法の問題は毎年財務専門官にも出題されています(平成24年は、商法が2問出題されました)。

商法は、国税専門官の出題2問のうち、株式会社の機関の問題が回ってくることが多いです。

 


総じて、捨て科目にしない場合は会社法の勉強になる訳ですが、全979条の会社法を全て勉強する必要はもちろんないので、出題頻度の高い、「株式」と「株式会社の機関(機関設計を含む)」を押さえ、余裕があればそれに次ぐ頻度の「株式会社の設立」もみておいて、3問中2問ないし2問中1問とれればいい、くらいのスタンスが程よいだろうと思います。