令和4年度国家総合職専門択一試験・憲法コメント | 彼の西山に登り

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公務員試験講師があれこれ綴るブログ。

【本文】

 

今年度も国家総合職(法律区分)専門択一試験の必須科目問題について、簡単にコメントすることにします。

問題が手元にある前提で、今後の試験に役立ててもらう程度の簡単なコメントで、網羅的な解説ではありません。

№は法律区分のものです。

 

今回は憲法です。

特に基本的人権の問題で難問が多かったように思います。

 

 

【№1】=正答1

特別の公法上の法関係に関する判例素材の問題。めったに出題されない分野であるほか、肢3・4が細かく、単純五肢択一形式ながら難易度高めの問題です。

1○ 最大決平10・12・1。これが妥当だとすっと行ければ正答は出ますが、他肢で迷うと時間を食います。

2× 最大判昭58・6・22。閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序が害される「相当の蓋然性」を「一般的、抽象的なおそれ」(同判例は、それでは足りない、といっています)と書き変える典型的なひっかけです。

 

3× 最判平11・2・26。旧監獄法46条1項に基づく死刑確定者の信書の発送の許否につき、同判例は、「死刑確定者の心情の安定にも十分配慮して、死刑の執行に至るまでの間、社会から厳重に隔離してその身柄を確保するとともに、拘置所内の規律及び秩序が放置することができない程度に害されることがないようにするために、これを制限することが必要かつ合理的であるか否かを判断して決定すべきものであり、具体的場合における右判断は拘置所長の裁量にゆだねられている」として、拘置所に収容されている死刑確定者が新聞社にあてて投稿文を発送することの許可を求めたのに対し、拘置所長がした不許可処分を適法としました。死刑確定者の事案だからでしょう、「受刑者の更生」は判断要素に含まれていません。細かく難易度が高い選択肢です。

 

4× 最判平24・12・7刑集66巻12号1337頁(いわゆる堀越事件の方です)。解答に当たっては、「本件は違憲判決ではないから結論が違う」で切ればいいので困難を感じませんが、「なぜ・どこが誤りなのか」にこだわり出すと時間を食います(試験本番では正答が出ればいいのでそんなことにこだわるべきではない、という好例です)。

本肢は、同事件の原判決の見解です。これに対し同判例は、「・・・原判決は、本件罰則規定を被告人に適用することが憲法21条1項、31条に違反するとしているが、そもそも本件配布行為は本件罰則規定の解釈上その構成要件に該当しないためその適用がないと解すべきであって、上記憲法の各規定によってその適用が制限されるものではないと解されるから、原判決中その旨を説示する部分は相当ではない」としています。

 

5× 最大判昭48・4・25。同判例は、それ以前の都教組事件判決(最大判昭44・4・2)等によって示されたいわゆる二重の絞り論を、「このように不明確な限定解釈は、かえって犯罪構成要件の保障的機能を失わせることとなり、その明確性を要請する憲法31条に違反する疑いすら存する」として変更しました。

 

 

【№2】=正答1

信教の自由に関する判例素材の問題。各肢が非常に長いですが、頻出分野の重要判例揃いで、新判例素材の肢5×以外は、正解肢・誤肢とも内容的に難しくはありません。

1○ 政教分離原則に関する判例の立場を説明したもので、直接の素材は初御目見えの新判例、最大判令3・2・24と思われますが、空知太神社訴訟判決(最大判平22・1・20)や、そこでも引用されている津地鎮祭事件判決(最大判昭52・7・13)、愛媛玉串料訴訟判決(最大判平9・4・2)をはじめ、多くの判例で同趣旨の判示があります。孔子廟訴訟判決を知らなくても、一読、これが妥当だろうとは分かると思います。

 

2× 最判平8・3・8。同判例は、「信仰上の理由に基づく格技の履修拒否に対して代替措置を採っている学校も現にあるというのであり、他の学生に不公平感を生じさせないような適切な方法、態様による代替措置を採ることは可能であると考えられる」とした上で、「信仰上の真しな理由から剣道実技に参加することができない学生に対し、代替措置として、例えば、他の体育実技の履修、レポートの提出等を求めた上で、その成果に応じた評価をすることが、その目的において宗教的意義を有し、特定の宗教を援助、助長、促進する効果を有するものということはできず、他の宗教者又は無宗教者に圧迫、干渉を加える効果があるともいえないのであって、およそ代替措置を採ることが、その方法、態様のいかんを問わず、憲法20条3項に違反するということができないことは明らかである」としています。

 

3× 最判平5・2・16。同判例は、憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」とは、宗教と何らかのかかわり合いのある行為を行っている組織ないし団体のすべてを意味するものではなく、国家が当該組織ないし団体に対し特権を付与したり、また、当該組織ないし団体の使用、便益若しくは維持のため、公金その他の公の財産を支出し又はその利用に供したりすることが、特定の宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になり、憲法上の政教分離原則に反すると解されるものをいうのであり、換言すると、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すとした上で、忠魂碑を維持管理する戦没者遺族会等は、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体には該当しないものというべきであって、憲法20条1項後段にいう「宗教団体」、憲法89条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当しないとしました。

 

4× 最大判平9・4・2。同判例は、ある行為が憲法20条3項にいう宗教的活動に該当するかどうかを検討するに当たっては、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならないとした上で、本件玉串料等を憲法89条にいう宗教上の組織又は団体に当たることが明らかである神社に奉納したことによってもたらされる県と神社とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと解されるのであるから、本件支出は、同条の禁止する公金の支出に当たり、違法であるとしました。

 

5× 最大判令3・2・24。同判例は、国又は地方公共団体が、国公有地上にある施設の敷地の使用料の免除をする場合においては、当該施設の性格や当該免除をすることとした経緯等には様々なものがあり得ることが容易に想定されるところであり、これらの事情のいかんは、当該免除が、一般人の目から見て特定の宗教に対する援助等と評価されるか否かに影響するものと考えられるから、政教分離原則との関係を考えるに当たっても、重要な考慮要素とされるべきものといえる、とした上で、当該免除が政教分離規定に違反するか否かを判断するに当たっては、当該施設の性格、当該免除をすることとした経緯、当該免除に伴う当該国公有地の無償提供の態様、これらに対する一般人の評価等、諸般の事情を考慮し、社会通念に照らして総合的に判断すべきであるとしました。

同判例は、これで他の公務員試験でも出題解禁となるでしょうから、まだ押さえていなかった方は補充しておきましょう。

 

 

【№3】=正答3

社会権に関する記号組合せ問題。ウ○・エ×が平易ですから、最終的に正答は容易に出ますが、ア×・イ○が古典的でない新しめの判例で、例によってここに長時間こだわると時間を食います。

 

ア× 最判平19・9・28。同判例は、初診日において20歳以上の学生である者は、傷病により障害の状態にあることとなる前に任意加入によって国民年金の被保険者となる機会を付与されていたこと、障害者基本法、生活保護法等による諸施策が講じられていること等を勘案すると、平成元年改正前の国民年金法の下において、傷病により障害の状態にあることとなったが初診日において20歳以上の学生であり国民年金に任意加入していなかったために障害基礎年金等を受給することができない者に対し、無拠出制の年金を支給する旨の規定を設けるなどの措置を講じるかどうかは、立法府の裁量の範囲に属する事柄というべきであって、そのような立法措置を講じなかったことが、著しく合理性を欠くということはできない、として、当該立法不作為は憲法25条、14条1項に違反しないとしました。

 

イ○ 最判平24・2・28。本文中最新判例です。

ウ○ 最大判昭51・5・21。古典的重要基本判例です。

エ× この記述のみ、判例素材ではありません。労働基本権に自由権的側面と社会権的側面があるとする前半は妥当ですが、憲法28条は権利の性質上私人間に直接効力を有する人権規定であると一般に解されています。法適合組合でなくても、憲法28条に基づき正当な争議行為に対する民事免責が認められる場合があるのはその典型例です。これは基本知識です。

 

 

【№4】=正答2

内閣に関する総合問題。典型的なひっかけが多いですが平易です。

ア○ 憲法68条1項、66条2項。

イ× 憲法72条「議案」には法律案が含まれると一般に解されています。内閣の法案提出権が肯定される形式的根拠です。この解釈を前提に、内閣法5条は「内閣総理大臣は、内閣を代表して内閣提出の法律案、予算その他の議案を国会に提出し」と法律案を明示しています。

ウ○ 内閣に対する参議院の問責決議は憲法上可能ですが(66条3項参照)、法的効果が明文で規定されていないこと等により、政治的意味を持つにとどまると一般に解されています。

エ× 最大判昭35・6・8。いわゆる7条解散につき、最高裁は統治行為論に依拠して合憲・違憲の判断を避けました。「合憲で有効」とも判断していないことに注意しましょう。

オ× 憲法70条「内閣総理大臣が欠けたとき」とは、(国籍喪失や失踪、亡命のような極限的な場合を除けば、)主に、①死亡と、②国会議員の地位(・被選挙権)の喪失であり、病気の場合は含まれないと一般に解されています。なお、病気の場合は、内閣法9条「内閣総理大臣に事故のあるとき」に当たり、「欠けたとき」と同様、内閣総理大臣臨時代理が権限を代行します。

 

【№5】=正答5

司法権に関する記号組合せ問題。ウ○の判例がやや細かいため、正答が肢3×か肢5○かで迷った方が少なくなかったでしょう。

 

ア× 裁判官の職権の独立の原則は、司法部内の指示・命令も排除すると解すると一般に解されています。この点から問題を指摘された事件として、古くは大津事件(1891年)、戦後は吹田黙禱事件(1953年)、平賀書簡問題(1969年)等があります。

 

イ× 裁判官弾劾法2条所定の罷免自由は、「職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき」と、「その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき」に限定されており、判決内容の当否はこれには該当しないと一般に解されています。敗訴側からの罷免訴追の申出が殺到して訴追委員会の委員が過労死しかねませんからね(笑)。

 

ウ○ 刑事訴訟法の公判の準備のための手続につき、最大決昭23・11・8は、この手続はあくまで公判の審理が完全に行われるための準備であって、公判そのものではないから、憲法にいわゆる「裁判の対審」ではなく、公判の準備手続が行われたからとて、被告人は憲法第37条に定める公開裁判を受ける権利を奪われるものでもなく、又憲法第82条に違反して審判されるものでもないとしました。非常に細かい判例ですが、これが分からないと正答が出ません。

 

エ○ 最大判平元・3・8。重要基本判例です。

オ○ 最大判平23・11・16。重要基本判例です。

 

 

【№6】=正答4

地方自治に関する記号組合せ問題。難易度がやや高めな上、勉強が手薄な方も少なくない分野ですから、手こずった方も少なくなかったのではないかと思います。

 

ア× 地方自治体の二層制(二段階制)が憲法上の要請か否かについては争いがあり、立法政策とする見解と、憲法上の要請であるとする見解があります。また、都道府県の廃置分合、吸収等を前提としており、都道府県制自体の廃止に関するものではありませんが、地方自治法には、国による個々の都道府県の廃止に関する規定があります(同法6条、6条の2)。

 

イ× 国と異なり、地方公共団体では、長の直接公選が憲法上要請されています(93条2項)。これを受け、地方自治法では、首長主義を採用し、議決機関としての議会と執行機関としての長とを共に直接民意に基礎を置く住民の代表機関として対立させ、相互間の均衡と調和を図っています。※1

 

ウ○ 憲法95条「一の地方公共団体」とは、「特定の地方公共団体」という意味であり、実際にその法律の適用される地方公共団体が単一である必要はありません。

複数の地方公共団体に適用される地方自治特別法について、住民投票の実施に当たり、①各地方公共団体において別個に投票を行いそれぞれ過半数の賛成を必要とするか、②関係する地方公共団体を通じて1つの投票を行いその過半数で賛否を決めるかは、あらかじめ立法的な解決が必要とされており、過去の実例では、旧軍港市転換法(昭和25年法律第220号)は、第1条において横須賀市、呉市、佐世保市及び舞鶴市を「旧軍港市」と定義した上で、附則第3項において、その過半数の同意を得られなかった市があったときは、その市は旧軍港市のうちから除かれるものとする旨規定しました。※2

この場合は、各地方公共団体で別個に投票を行い、それぞれ過半数の賛成を必要とする前提です。

 

エ× 法定受託事務にも、条例制定権や地方議会の調査権が及ぶ場合があります(地方自治法14条1項、100条1項参照)。

オ○ 最大判平17・1・26。同判例は、地方公務員法は、一般職の地方公務員に本邦に在留する外国人を任命することができるかどうかについて明文の規定を置いていないが、普通地方公共団体が、法による制限の下で、条例、人事委員会規則等の定めるところにより職員に在留外国人を任命することを禁止するものではないとしています。ただ、普通地方公共団体が職員に採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることまで許されないとするものではなく、そのような取扱いは、合理的な理由に基づくものである限り、憲法14条1項に違反するものでもないとしました。

 

 

【№7】=正答4

憲法の保障に関する記号組合せ問題。妥当な記述が平易なので、正答を出すのに困難はないと思います。

ア× 憲法保障の方法には、論理上、憲法を超える性質をもち、憲法の中に取り込むことができないか、あるいは極めて困難だとされるものがあります(超憲法的憲法保障)。具体的には抵抗権や国家緊急権が挙げられます。

イ○ 最大判昭27・10・8。基本重要判例です。

ウ× 最大判昭25・2・1。同判例は、裁判官が、具体的訴訟事件に法令を適用するに当たり、その法令が憲法に適合するか否かを判断することは、憲法によって裁判官に課せられた職務と職権であって、このことは最高裁判所の裁判官であると下級裁判所の裁判官であるとを問わないとした上で、憲法第81条は、最高裁判所が違憲審査権を有する終審裁判所であることを明らかにした規定であって下級裁判所が違憲審査権を有することを否定する趣旨をもっているものではないとしました。重要基本判例です。

エ× 最大判昭34・12・16。同判例は、日米安保条約という政治性の高い条約について、「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のもの」であるとし、例外的に司法審査の対象となることを認めています。基本知識です。

オ○ 憲法96条1項、国会法68条の2。

 

 

※1 野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅱ』(第5版)2012年 有斐閣 P371参照。

 

※2 小林公夫「地方自治特別法の制定手続についてー法令の規定及びその運用を中心にー」『レファレンス』№705(2009年10月)国立国会図書館調査及び立法考査局 P70参照。