「紙資料を未来へ―中原中也記念館 資料修復事業―」
中原中也記念館から「紙資料を未来へ―中原中也記念館 資料修復事業―」と題するリーフレットをお送りいただきました。そこには、紙資料を扱う文学館・文書館等に共通する問題に対する同館独自の解決策が示されています。既に取り組まれている館もあると思いますが、一部をご紹介します。
中原中也に関わる一次資料には、中原家の火災による損傷を受けているものがあるほか、経年劣化により展示や撮影が困難になっているものもあり、それらは大半が酸性紙に酸性物質を含むインクにより書かれたものであるため、温湿度が管理された環境で保管されたとしても酸性劣化により紙の組織が内部から破壊されるのを免れず、保存のためには脱酸性化処理を施す必要がありました。
東京修復保存センターにいた秦博志さんが同館と近い故郷・鳥取に修復工房を開いたのを機に、2016年、同館の一次資料の劣化調査を秦さんが行い、その結果をもとに修復事業が行われたとのことです。具体的には、①小林秀雄宛献呈署名入の中原中也『山羊の歌』修復、②火災により焼け焦げた資料の修復、③酸性紙に対する脱酸(中和)処理、④筆跡が錆びる⁉-インクの抗酸化処理、⑤紙の破れ、脆弱化、欠損に対する処置、が行われました。
①と⑤は以前より図書館等でも一般的に行われてきたこと。私が一番驚いたのは④の事例です。これは歴史資料の中のインクの腐食の問題です。鉄製のクリップや金具が錆びて紙に穴を開けたり、それが周囲に広がっていくというのは私たちが日常的に経験する事柄です。これと似た事が直筆の筆跡の中でも起こっているというのです。詳細は省きますが、インクの中に余分に残ってしまっている鉄分が鉄イオンとして筆跡中に存在し続けると、酸化腐食が進行することがわかってきました。これに対処するには、その鉄イオンを食品添加物として使用されているフィチン酸を使って安定化させる方法が確立されているそうです。 (大藤 記)