石川九楊「語る―人生の贈りもの―」
書は、言葉や文字から離れることのできない特異な芸術です。私も小学生時代、バスで30分ほどかけ、書道を習いに行っていた時期がありました。長じて、岩波書店の新日本古典文学大系の題字や、黒澤明監督の映画「乱」「夢」などの題字を担当なさった故・今井凌雪先生に習ったこともありました。
私が四半世紀ほど、公私共に大変お世話になった堀辰雄夫人、故・堀多恵さんは、書家・西川寧氏の東京・目白の邸に、信濃追分から書を習いに、電車で通っておられました。それに関するお話も数回、うかがいました。西川氏は20世紀を代表する日本の書家。文学で言えば、新潮社版室生犀星全集の題字を担当されています。
さて、ここまでは話の枕です。書家・石川九楊氏の「語る―人生の贈りもの―」全13回が、今年のお正月明けから朝日新聞で連載され(聞き手・宮代栄一)、私は全回、切抜きをとって、終了後、あらためて熟読しました。そうして、書家として一家をなす人の志の高さに、敬服しました。
最終回は、次のように結ばれています。「詩人のように感覚を研ぎすまし、小説家のように壮大な構想を育て、日本画家のように丹念に、音楽家のように展開的に、デザイナーのように時代に鋭敏に――。理論と制作を同時に深める、そんな書家でありたいと思います。」 (大藤 記)