辻原登『翔べ麒麟』
毎日、複数の書物を並行して読んでいますが、そのひとつ、偶然手にした辻原登氏の長編『翔べ麒麟』(読売新聞社刊)を先日来、楽しく読んでいます。ゆたかな表現と、スピード感のある描写。舞台は8世紀半ばの長安と洛陽。主役と思われる人物は阿倍仲麻呂。ご存知の通り、阿倍仲麻呂は16歳で留学生として唐に渡り、玄宗皇帝の信頼厚く、中国に住すること50年余、望郷の念を抱きつつも中国に骨をうずめた人。当時、大唐帝国の秘書監・衛尉卿という要職にありました。サマルカンドの歌姫が出てきたり、新羅王子やペルシャ人宝石商が登場したりと、さすが東西文化が融合し絢爛と花開いた当時世界最大の国際都 市長安。この物語で、もうひとりの主役と思われる、遣唐使の護衛士として中国入りしたばかりの青年、藤原真幸(まさき)のなんといきいきと描かれていることか。おそらく筆者の思いを託された架空の人物なのでしょう。このあと、李白や王維、顔真卿といった私たちにとってもなじみぶかい文人も登場するはず。ところで、話が逸れますが、私がはじめて訪れた海外は中国で、場所は西安(かつての長安)、洛陽などでした。18歳の時。洛陽の旅舎ではむっとするような40度近い暑さの中で寝苦しく、西安の大雁塔のてっぺんから見下ろした長安の都跡のだだっぴろさには思わず息をのんだのを思い出します。