1月1日、元旦。

新年の始まりを告げるこの日、僕は広島行きの飛行機に乗り込みました。

みんなが初日の出を見て願い事を唱えている頃、僕は知らない街の風景を心に刻みに出発したのです。


午後のフライトだったので、宿に荷物を置いた頃にはもう外が暗くなっていました。

宿泊先は中電前(ちゅうでんまえ)駅の近く。

広島の繁華街・本通り(ほんどおり)まで歩いて10分ほど。旅行者にとってこれ以上ない立地でした。



荷物を置いてまず向かったのは、ホテル隣のコンビニ。

大阪や東京のような大都市では、外国人スタッフの姿がすっかり当たり前になっています。

でもここは違いました。

日本人の店員さんが落ち着いた声でかけてくれる「いらっしゃいませ」。

その些細な違いが、「ここは地方都市なんだな」という実感をじんわりと運んでくれました。

ウーロン茶とから揚げを手に店を出た瞬間、ようやく広島という街に着いたんだと感じました。


軽く腹ごしらえをして、街へ出ました。

広島に来たらぜひ訪れたいと思っていた、外国人に人気のバーに行くためです。

でも、元旦は日本最大の行事「正月(しょうがつ)」。

街は静まり返り、お目当てのお店の扉は、しっかりと閉まっていました。

行き場をなくして、あてもなく街をさまよいました。

冷たい冬の風が首元に入り込む頃、一軒の明かりが目に飛び込んできました。


「立ち飲み(たちのみ)」。

立って飲むスタイルのお店でした。他に選択肢はありませんでした。

扉を開けると、むわっとした熱気とにぎやかな声が出迎えてくれました。

カウンターの端に陣取ってお酒を注文すると、しばらくして店員さんが翻訳機を持って恐る恐る近づいてきました。

「韓国の方ですか?」

その一言が、不思議なほどほっとさせてくれました。

頷きながら日本語で答えると、店員さんは笑顔で「日本語お上手ですね!」と褒めてくれました。お世辞でも、嬉しかったです。知らない街での緊張が、少しずつほぐれていく感じがしました。


時間が経つと、お店は常連さんたちでいっぱいになってきました。

そっと杯を傾けていると、隣の中年男性が話しかけてきました。

「韓国人?」

ぶっきらぼうなようでいて、どこか温かみのある一言でした。

昔はよく韓国に行っていたそうで、旅行ではなくカジノが目的だったとか。

ソウル、仁川(インチョン)、江原道(カンウォンド)、済州(チェジュ)、大邱(テグ)……聞き慣れた地名が次々と出てきました。

僕たちは並んで立ちながら、日韓関係から他愛のない旅の話まで、なんと2時間近く語り合いました。初対面なのに、お酒の席では不思議と警戒心が解けていました。


気分を変えようと店を出ましたが、開いているお店はまだ少なかったです。

明かりを頼りに入った2軒目。

席に座ってよく見ると、さっきのお店とユニフォームが同じでした。

メニューが串焼きではなくお寿司になっているだけで、同じ系列のお店でした。

思わず苦笑い。今日はこのブランドとご縁があるみたいです 笑


静かにお酒を飲んでいると、右隣から英語まじりの日本語が聞こえてきました。

カンボジアから来た男性で、日本で長く働いているとのこと。

僕を日本人と間違えたのか、声をかけてきました。

「韓国から来ました」

と答えた途端、彼は店中の人に僕を紹介し始めました。

「この人、韓国から来たんだって!」

一斉に視線が集まり、スタッフもお客さんも口々に「안녕하세요(アンニョンハセヨ)」とたどたどしい韓国語で挨拶してくれました。

5カ国語を話すというそのカンボジアのおじさんの明るい人柄のおかげで、僕はいつの間にかお店の一員になっていました ✨


酔いも回ってお腹もいっぱいになり、席を立とうとすると、おじさんが寂しそうに言いました。

「もう行くの?」

一緒に写真を撮ろうと言われたので快く応じました。LINEのIDまで交換しましたが、結局写真は送ってきませんでした。きっとお酒で気持ちよくなりすぎたのでしょう 笑

お店を出る僕の背中に、スタッフの声が届きました。

「気をつけて。」

その温かいひと言が、やけに長く心に残りました。



ふと大阪旅行のことが頭に浮かびました。

大阪では「韓国人です」というと、「韓国大好きです!」「ドラマ見てます!」とK-カルチャーへの親しみを真っ先に示してくれる人が多かったです。

僕という人間より、「韓国」という背景に興味を持っている感じがしていました。

でも、広島は違いました。

ここの人たちは、「広島を訪れた旅行者」としてそのまま接してくれました。

韓国のことをよく知らない人がほとんどでしたが、その無関心さがむしろ心地よかったです。ありのままの僕を迎えてくれているような感じ。

冷たい冬の風の中でも、心だけはほかほかと温かかった夜。広島での最初の夜は、見知らぬ人たちの温もりで満たされました。