株で儲かっているはずなのに、なぜ生活は楽にならないのか。
円安が急速に進み、1米ドル=158円という水準に達する中で、多くの日本人が株式投資によって利益を得ているように見える。一方で、自己投資を行わない人が増えているのではないかという懸念も強まっている。
その結果として、コストプッシュ型インフレの進行とともに、日本人の生活は今後ますます苦しくなっていく可能性がある。

株式投資への熱狂と自己投資の停滞という歪み
現在の日本社会には、「株式への資産運用」への熱狂と、「自己投資(人的資本)」の停滞という、非常にいびつな対比が生じている。
株価は5万円台という高水準にある一方で、実体経済における個人の稼ぐ力は必ずしも高まっていない。この乖離は、見過ごせない問題である。
株価の上昇は、株式などの金融資産を保有している人には恩恵をもたらす。しかし、労働による所得だけに依存している人や、付加価値を高める努力をしていない人にとっては、むしろリスクになり得る。
円安とインフレが生活を直撃する理由
原材料高や人件費上昇によるコストプッシュ型インフレは、預貯金や伸びない給与の実質的な価値を確実に目減りさせる。
円安とインフレが同時に進行する局面では、「何もしないこと」そのものがリスクになる。
特に問題なのは、資産所得と労働所得の乖離が拡大している点である。
株で得た利益は一時的な収入にとどまりやすく、それを自己投資に回さない限り、インフレで上昇し続ける生活コストを長期的に支えることは難しい。
インフレに強いのは金融資産か自己投資か
金融資産は市場環境次第で価値が大きく変動する。一方で、自己投資によって高めた能力や専門性、健康は、インフレに対して比較的強い。
にもかかわらず、自己投資が疎かになりがちな理由は明確である。
株式投資は、努力を最小限にして手っ取り早く利益を得られるように見える。一方、学び直しや専門性の深化、健康管理といった自己投資は、時間と労力を要し、成果が出るまでに時間がかかる。
そのため、多くの人が短期的な利益を求めて資産運用に偏りがちになる。
自己投資をしない社会が陥る悪循環
しかし、自己投資を行わない人が増えれば、社会全体は悪循環に陥る。
個人のスキルが停滞すれば企業の生産性は上がらず、企業は成長投資よりも株主還元を優先する。結果として賃金は伸び悩み、インフレによって生活はさらに苦しくなる。
そして、人々は再び「手軽な投資で一発逆転」を狙うようになる。この循環は、日本社会全体を徐々に弱体化させていく。
問われているのは「複利の使い方」
結局のところ、問われているのは「複利の使い方」である。
株で得た利益を消費や投機に回すのか、それともインフレに負けない自分をつくるための学びや経験に再投資するのか。
その選択の違いが、将来の生活水準や格差を大きく左右することになるだろう。
生活が苦しくなっていくという見通しは、単なる悲観論ではない。
現在の経済構造から導かれる、現実的な警告である。今こそ、この現実を正面から受け止める必要がある。