中村哮夫さんがお亡くなりになった。
 黒澤明監督に師事し、後に東宝演劇部に移籍して菊田一夫先生に師事、65年、演出家としてデビューした。

 丁度中村哮夫さんが撮影所にいる頃、私の小学校の同級生で東大を出て、矢張り助監督になった故奈良正博君と同じ時代なので、よく覚えていた。

 同じ同級生の息子さんが矢張り映画監督をやっていて、かなりいい作品を作っている。

 知人が映画で繫がっているのに、私は舞台が多かった。

 中村哮夫さんは東宝のミュージカルや文芸作品の演出が多かった。演出もわかりやすく、直ぐ納得のいく指示で、信念を持っていた。

 「浅草瓢箪池」と言う芝居で私の役はその場面中、靴の修理屋をやつていて、修理するのに多少の音がでる、長い場面で弁当を取り出して食べる、それも多少効果音がでる。権力のある古い役者さんが
中村哮夫さんに噛みついたが、中村哮夫さんは、この音は効果音として必要なんですと信念を曲げなかった。

 そんな骨のある演出家だった。

 「墨東綺譚」と言う舞台で、菊田一夫先生から直接、賞を頂いたきっかけを作ってくれたのも中村哮夫さんだった。

 オペレッタ協会の「メリーウィドウ」に出演した時も一人で密かに見に来ていた。

 自主公演「がめつい奴」公演の時も、観劇後いきなりストレートでツゥツゥツーと楽屋に入るなり、こばちゃんの閣下良かったよ、良かったと感動の余韻をかみしめて、仰って、びっくりした事があった。

 なんかいも出演した「雪国」も中村さんの推薦だった。

 恩のある芝居の世界の方々があの世に行ってしまう。寂しい事です。ご冥福を祈ります。