昭和41年8月24日日比谷芸術座。
劇団•東宝現代劇 名作鑑賞会 公演
 ガリ版のパンフレット

 最近坂本博士先生がお亡くなりになったのを知り、悲しい思いです。

 坂本博士先生は東宝のミュージカルにも出演されていますが、我々にも音楽の指導をされました。

 この「手古奈」は安東 英男作詞、服部正作曲のオペラです。

 数日のオーディションに選ばれて、家来の役を与えられました。
 
 演出は東郷静男先生。音楽指導は坂本博士先生。

 東宝現代劇の芝居に出演していても、まだまだ新人の我々ですが、初ものの歌劇に出るなんて、かなりの冒険です。

 然し東郷静男先生、坂本博士先生は優しく教えて下さいました。

 東宝の劇場の公演もミュージカルが多くなりつつあり、どっちかと云えば芸術座、宝塚劇場、帝国劇場のシリアスな芝居の出演が多い我々劇団•東宝現代劇ですがまともにぶっかって演じて納得のいく迄歌劇を学びました。

 東郷静男•坂本博士先生の教えが納得のいく迄頭に染み込み、こんなに心地よい公演は、ありませんでした。

 しかも公演が終わると関係者一同約五十人ぐらいが集まって、この公演の合評会を行います。これは劇団•東宝現代劇の自主公演に限ってですが、皆んな自分の意見を言います。

 まったく手前味噌ですが、私の家来役については、中村芝鶴先生は「小林さんが1番よかった、歌といい芝居といい、誰かと思うほどよくやっていた、うまかったし、華やかだったし」坂本博士先生は「1番よかった。正確にうまかった。私の知人も全部が小林さんをほめていた私の妻も1番よかったと言ってた。兎に角1番の出来だった。」音楽のアシスタントの高田祥生先生も「1番うまかった素晴らしい出来」そして、太田恒三郎プロデューサーも「小林君1番好評だった」と。

 これらの評を私はまともに受けて、のぼせず、自分に厳しく芸に邁進しました。

 今考えると坂本博士先生の細かい適切な指導が私をオペレッタの世界に導いてくださったお陰だと何時も感謝してました。

 後に日本オペレッタ協会公演「メリー•ウイドウ」公演で大役ニエーグスを演じた時に坂本博士先生の息子さんと共演できたのがとても良かったと思いました。

 総て何処かでみんな繫がっていると思いました。

 坂本博士先生の御冥福をいのります。