意訳ショートストーリー | sgtのブログ

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歌うことが好きです。コロナ禍で一度はしぼみかけた合唱への熱が''22年〜むしろ強まっています。クラシック音楽を遅まきながら学び始める一方、嵐の曲はいまも大好きです。


子ども時代に聞いた歌の中には、どうにも気になって仕方がないものが時々あります。

「ないないクレヨン」という歌。

クレヨンのなくなった色の代わりに、仕方なく他の色を使ったら、描こうとしていたものと全然違うものになってしまった、という内容なのですが…

その色の代わりにそれ使うか⁉︎ と、
いちいちツッコミたくてうずうずする。

だって
黄色がないから赤…?
緑がないから青 は まだわかるとして、
いちばん不可解なのは3番。
たしかこんな歌詞です。


ぼくのクレヨン はだいろもない
しかたがないから きみどりでぬる
だから おかあさん かえるみたい


どういう色彩感覚…というより何か、用意したオチのために無理矢理こじつけたような感が否めない←
なんて考えているうちに、この「肌色→黄緑」からこんなお話を思いつきました。

色が余計ムリヤリになった、テーマがわからん、などとお思いになっても、どうか優しく見守ってくださいませ m(_ _)m









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「ないないクレヨン」3番より、こんな代わりだったらあり得るんじゃないかっていうことだけ言いたい短編








お客様たいへん申し訳ございません。
ただいまこちらの商品、ベージュのお色が完売で、再入荷の予定も今のところ…はい、決まっていない状態なのですが、
…はい、そうですね、雑誌に掲載されてからおかげさまでとても好評をいただきまして、
…もしよろしければ、別のお色みのライトカーキはすぐにご用意ができるのですが、
…あ、はい、申し訳ございません。お問い合わせいただきありがとうご…


通話はそこでぷつっと切れた。


朝から何回この言葉を唱えただろう。
デスクシートの中の「欠品対応マニュアル」をお経のように読み続けて、そろそろ暗記できそうな勢い。


ため息をついて受話器を置くと、社員さんが「おつかれ。代わるよ。いま売り場ちょっと落ち着いたから、休憩行ってきな」と言ってくれた。
「はい、お願いします」気がつけば喉がからからだった。


「休憩いってきまーす」と、売り場のみなさんに声をかけ、
今日のスタッフルームは電話が鳴って落ち着かないだろうから、モール内の同じフロアにあるコーヒーショップに行くことにした。



ないない騒ぎになっている問題の商品は、ベージュのモッズコート。


「レディなモッズ」をコンセプトに、形はシンプルな正統派モッズコートながら、やわらかな色合いと素材でスプリングコートとして使えるという、うちのブランドの今季の自信作。
春を意識した明るい色…ベージュとライトカーキ(『ライト』は必ずつけなければいけない)の2色展開なのだが、
そのベージュの方を、いま大人気のモデルが可愛いらしく着こなした写真が昨日発売の雑誌に載ったら、ベージュに注文が殺到して店頭からもネットからも消えてしまい、今日は朝からその対応に社員もバイトも追われている。


確かにモッズコートと言えばホコリっぽいモスグリーンが主流の中、ベージュはなかなか珍しい色だし、フードから覗くパステルブルーの裏地がますます女の子らしさを上げる感じで、注目が集まるのも無理ないと思う。


でも。
すっかり邪険にされてるライトカーキだって可愛いのに。
こっちのフード裏は淡いレモンイエローで、顔まわりを明るくしてくれる効果もある。
形や素材はベージュと一緒だから、着たときの姿は同じになるわけで、あとはどっちの色が似合うか、の問題だけ。
雑誌を見て問い合わせてくる人は「それ」しか見てないから、他の選択肢なんて考えられないんだろうけど。
いちどお店に来て、実際に着てみて!と言いたい…ベージュ×ブルーのクールな感じも確かにいいけど、ライトカーキ×イエローのほわっとした雰囲気の方が似合う人も少なくないはず。
そういう、初めの狙いとは違ったけど意外とイケた、みたいな発見があると、服選びの楽しさも広がると思う…まぁこればかりは人それぞれだけど。


吹き抜けを挟んだ向こう側のコーヒーショップの席からうちのお店が見えた。
中央にライトカーキのコートでコーディネートを組んだマネキンが立っている。
若干、色のインパクトは薄いのかな…でもとろんと体に沿うラインは他のブランドにはない。何より裏地のイエローが春の陽射しみたいで、うん、やっぱり可愛い。


「娘に頼まれてきたお母さん」風の人が、試着もせずに機械的に買っていく昼までの時間は、雑誌に載ったものがそのまま売れることが多いけれど、
おしゃれ好きな学生さんや、勤め帰りのお客さんが来店する、夕方から夜の時間帯が本当の勝負どき。
「実際に着てみて」くれる人たちが、このライトカーキの真価を決めるだろう。
きっとこの色も愛してもらえる、という根拠のない自信を胸に、
コーヒーを飲み終えてお店に戻り始めた。