脳内ポイズンベリー(2015年)
【キャスト】
真木よう子…櫻井いちこ役
西島秀俊…吉田役
神木隆之介…石橋役
吉田羊…池田役
桜田ひより…ハトコ役
浅野和之…岸役
古川雄輝…早乙女亮一役
成河…越智役
【ストーリー】
櫻井いちこは以前、飲み会で出会って気になっていた年下男子の早乙女に偶然再会する。
声をかけるべきか、かけないべきか?食事に誘うべきか、誘わないべきか?
いちこの脳内では男女5人のメンバー(理性、ポジティブ、ネガティブ、衝動、記憶)が会議を繰り広げ、大パニック状態に。いちこ自身が思いもよらないような大胆な行動をとりはじめるが…。
【感想】
「失恋ショコラティエ」で知られる漫画家・水城せとなの同名コミックの映画版です。原作ファンなので映画化されるのをとても楽しみにしてました。
ストーリー自体は、魅力的な年下君と心安らぐ大人の男性に揺れ動くアラサー女性っていうもので目新しさはないです。が、この漫画の魅力っていうのは、脳内にある5つの思考を擬人化して描き、それらに会議を開かせることによって、恋愛中に感じるときめきや喜び、モヤモヤや苛立ち、それから相手の一挙手一投足に一喜一憂してワチャワチャしちゃうところなど、女性の心の揺れっていうのをとても細やかに丁寧に表現しているところにあると思ってます。
ということで、映画版ではこの脳内会議がどんな風に描かれるのか、とても興味がありました。しかも監督が映画『キサラギ』と同じ監督ということで、それだけでもう、脳内会議がどんな感じかイメージできてしまうというか。これは面白くならないはずがないなと。
で、感想ですが…、二つの芝居を見ているような気分になりました。見終わった後は軽く疲れました。現実パートと脳内パートが同時進行してて、その間を行ったり来たりするので、何かあると自分もいちこと同じように自問自答を繰り返してパニックになるような気分にさせられるというか。感情移入してしまって他人ごととしてストーリーを追えないんですよね。
いちこが一目惚れした相手・早乙女。アーティストタイプで自分の思うままに生きているようなタイプ。何を考えているか分からなくてちょっと冷たい感じの人なんですけど、恋愛においては感情をストレートに表現するし、ルックスもよくていざというときに狙った獲物をサーッとかっさらっていくようなキャラなんですよ。女がだめだだめだと思いつつ引っかかってハマッてしまうような人。
対して越智さんは一緒にいて心が安らぐいい人なんですけど、心がときめかない。自分に好意を寄せてくれているのに、いちこの気持ちはイマイチ盛り上がりません。
早乙女と付き合い続けることで一旦は納得したいちこですが、結婚、仕事、相性など、「本当にこの人でいいの?」という迷いは消えません。勝手気ままな早乙女に対して合わせてばかりで、険悪になるのが怖くて思っていることも言えなくなってきてしまい、どんどん疲れていってしまうんですね。楽しいばかりじゃいられないこういう部分が結構漫画も、映画もリアルに描かれていました。
さて、私が一番楽しみにしていた脳内会議のキャストはこちら↓
メンバーは漫画のイメージにほぼ忠実だと思いました。石橋と池田が重要だなと思っていたのですが、この二人だったので安心して見れました。
まず、池田役の吉田羊。年齢も年齢だし、感情だけでは突っ走れない、恋愛で痛い思いもしてきたがゆえのネガティブさっていうのを巧みに表情とセリフの言い回しで表現していたと思います。
吉田羊本人が「池田が話すことによって見ている人がイラッとしたら成功」と言っていたとおり、ギスギスしてるしよく怒鳴るしこわいし池田が口を開くと緊張するんですが、決してそれだけではなくて、彼女が時折見せる疲れた顔や寂しそうな顔からアラサー女性の悲哀というか、もろさみたいなものが出ていて共感できました。
続いてポジティブ石橋を演じている神木隆之介。常に楽観的に考えようとする底抜けに明るいキャラを溌剌と演じていました。元気すぎて暑苦しいところが気に入りました。若さ溢れる力の入った演技は見ていて楽しかったです。
石橋と池田は何かにつけて意見が食い違って口論(というか討論?)になります。あーいえばこーいうといった感じで怒濤のセリフの応酬を繰り広げるのですが、この時の二人の必死な形相、動きは見ていて思わず笑ってしまいました。
議長で理性担当の吉田は常にオロオロしていて石橋、池田、ハトコに振り回されっぱなし。会議の収拾がつかなくなることもしばしば。いちこの思考が限界MAXになると謎の女「本能」に会議を乗っ取られてしまうこともあったり…。クールでおだやかなイメージの西島秀俊がここではうろたえ、わめき、頭を抱えたりともう大変。でも、こういうキャラが意外とハマってるなと思いました。
対して現実パートのキャスト。この三人は、原作とはちょっとイメージが違いました。でも、映画は映画として見れば違和感なく見れました。
映画版は、約2時間のなかで話をまとめなくてはいけないため、ところどころ原作のエピソードを端折ってます。が、原作の世界観を保ちつつ作品が作られているので、見ていて物足りないと思うことはありませんでした。
クライマックスの脳内会議シーン、それからいちこの携帯小説の出版パーティー後に早乙女と越智さんが言い争いをするシーンは映画版ならではの面白さがあって良かったと思います。あの言い争いシーンがあったからこそいちこの越智への印象が変わり、映画版のラストにつながったのかなとも思いました。オリジナルエピソードを盛り込んではいますが、脚本家が恋愛ドラマの名手・相沢友子なだけあってストーリーがしっかりした恋愛映画になっていました。
いちこにとって本当の幸せとは何なのか?崩壊寸前にまで追い込まれた脳内チームが出した答えとは?結末はぜひ映画館でチェックしてみてください。