映画「国宝」 さらに一言。 この映画を観て、まず主人公 喜久雄のモデルとして思い浮かべるのは坂東玉三郎さんでした。生い立ちは違っておりますが、歌舞伎界の外で生まれ、部屋子として入り、女形として大成して、のちに人間国宝まで至った役者さんです。 実際に観劇することもできましたが、それはもう、女性以上の振る舞いや雰囲気が醸し出されています。  喜久雄の幼少期を演じた黒川想矢君も、まるで歌舞伎界で育ってきたように違和感がありませんでした。軟で細い線がある美少年。 後半の吉沢亮さんへの繋がりもスムーズでした。  序盤で寺島しのぶさんが出てきたところで、「これはもう成功する」と思いました。寺島さんも歌舞伎の家で生まれた血筋で、役に合っていました。  人間国宝役であった万菊(田中 泯さん)は、あまりにも、この映画の人生の運命を握る、重要な役どころ。その異様な出で立ちと女言葉が印象的で、怪演をされています。以前、他の歌舞伎を描いたマンガでも同じ雰囲気の方が出てきているので、誰かモデルがいるのだろう?と思いましたが、調べてみると6代目中村歌右衛門さんでした。  作品内では演目「曽根崎心中」が2回、行われます。1回目は喜久雄の実力に俊介が絶望する場面、2回目は俊介が、お初を演じて2人の別れを演じる場面、特にセリフとその時の状況がリンクする素晴らしい見せ場でした。  これが本当の歌舞伎か?と言えば、細かい所作の違いはあるのかと思いますが、設定はリアルに近く、3年間も歌舞伎界に黒子として取材していた原作者に頭が下がります。