桐野夏生さんの小説です。
大好きな話の1つ。
結構、多くの場合が男性に騙されたり、傷つけられたりして、女性というのは弱者として扱われるものです。でも、なぜかわたしが好きな作家さんというのは皆、女性側が悪い人です。良い意味で、狂ってる。だから、男性に翻弄されて苦しめられているはずなのに、いつの間にか壊れて、全人類を滅亡させてしまうのではないか、というほどに恐ろしい生き物に変わっている。
ただ、ふと立ち止まって考えてみると、実際の女性ってきっとそうなる可能性は強く強く秘めていると思います。基本的に、色んな理性とか道徳とかが混ざり合ってできないだけで、本当は本気出せばみんな狂える。
それが男性にはない女性の魅力であり、魔力だと思っています。
そういう、性別の本質を見抜くような話が多い作家さんって本当に好きで。
思えば、島本理生さんの書く男性って大体がDV男なんですけど、何かトラウマがあるのかしらっていつも思ってる。
あと、誰だっけな、男性作家さんでいつも女性が信じられないくらい悪い人の話を書く方がいて、女性が嫌いなのかなっていつも思ってる。
話が逸れた。
この『I’m sorry,mama.』も女性が化け物になったような話。
いやもう、怖いですよ。湿っていて、陰惨で。
特に、自分が女であることをここまでうええって思わせる話もなかなかないですよ。
あらすじは娼館で育ち、両親を知らず、戸籍もない少女アイ子は施設に入り、そこで大人になった後はひたすら人を騙して、殺して、盗んで生きてきた。誰も信じない、自分の過去はなんでも消していく。そんなアイ子のよりどろこはボロボロの靴。いつもアイ子は靴に話しかけながら生きている。
というものです。
あのー、人ってね、性善説があるくらいに、基本的には良い人で生きていく上で嘘をついたり、騙したり、自分を守ったり、しているから悪い部分もあるっていう認識の方も多いと思うんですよ。
でも、この話に出てくる人は全員自分のことしか考えてないし、嫉妬とか不平不満にまみれていて、正直こんな人たちの中で生きていたらすぐに死んじゃいそう。病むなとか前向きになれとか一切響かないであろう世界ですね。
ただね、皆だれも自分が孤独で傲慢なのか、に気づかないんですよ。それって、本当の意味でどん底で、もうそれ以上の底がないからわからないんです。何が孤独なのかって。そして、アイ子はふとした出来心で生まれ育った場所を訪れます。
そこから、物語は落ちるところまで落ちていきます。
そして最後に気づくのです。
真人間になりたい!と。けれど夢の中で今まで殺してきた人間に嘲笑われます。
わかっているのです。どうにもならないことやどうすることもできないことくらいは。でも、でも、と落ちていった孤独に気づいたアイ子はもがいで逃げていきます。
その光景がまさに表紙みたいな感じだろうと思います。
まあ、こんなにスタイルよくないけど。
ラストは、まるで急にテレビを消されて画面に自分の顔がぼんやり映し出されたような、そんな置いていかれた感覚になりますけど、それはそれで。ここまでの孤独を知ってしまったあと、本当に生きていけるのかわたしなら不安です。
でも、アイ子はもともとが化け物だから、何か開花させてくれるかもしれません。
では。
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