太平洋のさざ波 22(2章日本) | ブログ連載小説・幸田回生

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読み切りの小説を連載にしてみました。

よろしかった、読んでみてください。

 22

 わしがプロレスに興味を持った時はすでに馬場も猪木もすでにプロレスラーとしてのピークは過ぎていました。

 


 賢い馬場はジャンボ鶴田をエースに育て、相撲界から天竜をスカウトするなどリングの上では脇役に徹して、社長業、プロモーターの顔でした。
 一方、猪木はプロレス、格闘技に飽き足らず、ブラジルでの事業と政治の世界にのめり込んだ。

 馬場がこの世を去り、猪木は自ら巻いた種とはいえ、創業した新日本プロレスを手放さざえるを得なくなった。

 


 師匠の力道山が今の北朝鮮出身とはいえ、
 猪木があそまで北朝鮮に拘る理由は理解できませんが、
 政治とプロレスに類似点を見いだすのはわしだけでしょうか。



 吉田さんもご存じのようにプロレスにはベビーフェイスに対抗するヒールが必要です。
 必要悪です。

 


 馬場、猪木の時代を経て、現在の新日本プロレスのエースである棚橋がベビーフェイスの代表で醜男や大根役者なら臭い台詞も、正義の味方で色男の棚橋がリング上でマイクを持ち、
『愛しています』と叫ぶと、ファンにアピールします。
 さらに、棚橋の十八番のエアギターが加われば鬼に金棒です。
 これに対するのが、敵役のヒールです。

 


 戦後、アメリカのプロレスを真似て発展した日本のプロレスは日本人のエースがベビーフェイス、外人がヒールを務めることがが多かったのですが、もちろん、例外はあります。


 大相撲の関取だった力道山が朝鮮人のままなら大関、横綱になれないと 自ら悟ったのか、谷町の誰かに知恵でも付けられたのでしょう。

 


 いつの間にやら、日本国籍を手に入れた力道山が日本人役のベビーフェイスを演じ、街頭テレビのヒーローを演じていたのですから。
 謎の覆面レスラー、国籍不明を地で行くように正しく、プロレスを演じきっていました。
 

 成り行きだったのか、夢だったのか、政治の世界に首を突っ込んだ猪木はプロレス以上にグロテスクな政治の世界をどのように見ていたのでしょう。
 猪木に言わせれば、プロレスより政治のほうがよっぽど八百長でしょう。

 


 プロレスならファンも八百長を承知で楽しんでいるのですが、
 国民生活がかった政治はそうもいきません。

 


 昔なら、自民党と社会党、共産党、保守と革新、
 今なら、自民プラス公明、だらしがなく存在感も希薄な野党、
 右と左に別れているように見えて、いや、営業右翼と営業左翼に別れて、根っ子は同じムジナがプロレスを地で行くようにヒールとベビーフェイスを演じる。



 日本最高の舞台であるべき国会で、村社会の縮図である永田町で大根役者達が吉本新喜劇もやらないようなドタバタ喜劇を、猿芝居を演じ続けているのです。
 一国民として、空しく、情けない。

 


 国会議員も地方議員も、わしらが払った血の滲む思いで稼ぎ、
 収めた税金で飯を食っている。
 新幹線や飛行機のチケットはおろか、永田町近くの豪勢な議員会館に安い家賃で住んで、秘書給与まで税金で賄ってもらっている。
 正に至れる尽くせりの現代の貴族です。

 


 国会議員でもバリリ仕事がやれるのはほんの一握りです。
 それ以外は野球でいえば、二軍三軍の連中ですが、一軍と同じ待遇、同じ給料なのは悪い冗談でしょう。
 あんな奴らは日当給にして、移動は今流行のLCCと高速バスで充分です。


 阿呆な国会議員を真似たこの辺の町会議員や市議会議員に毛の生えたような県会議員が当選すると掌を返したように、それまで低かった腰が立ち腰になり、おまけに天狗のように鼻ばかり高くなる。
 わしらの力で議員にしてやったのに、己の力だけで議員になったような勘違いをやらかすのです。

 


 国民が支払う税金で議員を食わせてやっている、
 議員なんて、漁師見習いの若造以下、わしら国民の下僕程度に思っていて、ちょうどいい。

 


 わしが若い頃は漁師といえば自民党と相場は決まっていたのですが、建前で言えば、今も漁協は自民党推しなのですが、
 昨今はそういう時勢でもありません。


 漁協の若造がカラオケで羽目を外して、
 わしを藤原組長に似ていると口を滑らせたあの頃から、 
 いや、日本に戦争に敗けた時から、それ以前のペリーの黒船がやって来た時から時代が変わっていたのかもしれません。

 


 プロレスのヒールとベビーフェイスが一体なように自民党も共産党もありません。
 保守も革新もありません。
 わしら国民に必要なのは国民の顔を見ながら世間を知る、
 国民のための政治家です。



 プロレスでいえば、藤原組長こと、藤原喜明はアントニオ猪木が創設した新日本プロレスに入門した古参レスラーで、戦中生まれのわしと違って戦後生まれの年下で、わしよりずっと大きな体で、さずがにプロレスラー然とした風貌で、漁協の若造や息子が言うようにわしが似ているのかもしれない。

 


 プロレスラーのようで、ヤクザのようで、強面でどこか惚けた得意なキャラクターを活かした藤原組長はプロレスのリングを飛び出して、テレビのバラエティー、ドラマ、映画と活躍の場を広げるにつけ、わしも人からあのように見られているのかと、
 客観視できたのも、藤原組長のおかげかもしれない」



 ここでおじいさんはおばあさんが淹れたお茶で喉を潤した。



「吉田さん、政治家を見張るはずのマスコミも政治と同じく、
 先程も申し上げた、営業右翼と営業左翼に分かれているのご存じですが?」

 俺は小さく頷いた。



「ここで、どことは申しませんが、
 戦前戦中に軍部を一生懸命に押していた連中が戦後、掌を返したように、したり顔でアンチ政府のポーズを取る。
 一方で、そんなアンチな連中をなじる営業右翼、営業保守の連中が政界や財界のコバンザメとなって、おこぼれに預かる。

 


 誰がブックを書いているのかは知りませんが、
 これなど、プロレス以下の八百長です。
 ブックなどという高尚な筋書き以前の小学生の作文以下の走り書きを、満足に台詞も覚えられない間抜けな劇団員が演じる、
 コメディを超えたお笑いです。


 
 先ほども申しましたように、NHKニュースを見つつ、
 ナベツネの読売新聞、地元の千葉日報を読んで世間を知った気になったわしですが、平成に入って、日本経済が傾き始めると、
 銀行は潰れ、証券会社は潰れ、大企業、一部上場企業といえど、いつ何時、潰れてしまうかわからい、下剋上の時代がやってきました。


 
 わしが親父の跡を継いで、漁師になって正解だったかもしれません。
 高校に進んで、下手な野球をやって、名の知れた会社には入り、これで一生安心と喜んだのも束の間、定年間際どころか、
 働き盛りを過ぎると、地獄が待っていた。

 


 そんなこんなで、政治家も役人もそれまでエリートが浮き足だつ始末で、それを報じる大手マスコミに納得できない自分がいました。

 


 ちょうどその頃、三途の川を渡る前の年寄りの耄碌でしょうか、
 教則本片手にNHKの番組を講師にして、
 尚且つ、役所務めでパソコンを覚えた息子に手取り足取りと習い、おぼつかないながらも、流行始めたインターネットとやらを始めました。



 吉田さんもサーフィンをなさるそうですが、
 海で生きる漁師には邪魔者ですが、海のサーフィンのように、
 インターネットの波間を泳ぐように、ネットサーフィンと言うんですか、そこで得た結論といえば、
 誰に教わるもとなく、本を読んだ訳でありませんが、 
 無学のわしが勝手に想っているのですが、戦前戦中から今に至るまで新聞社や通信社を中心とする日本のマスコミは死んでいると。

 


 日本のマスコミが死んでいると思うにつけ、
 房総の片田舎で生まれ育ち、やがてこの地で死んで行く、
 漁師風情のわしなりに世界を見渡してみますと、
 元はといえば、ユダヤ系の通信社、広告代理店、彼らが支配する新聞社、ラジオ、通信の発達が戦争や恐慌を煽り、船や鉄道による、人や物資の移動がそれに輪を掛けた。

 


 
 戦前、戦中には日本で開発が進んでいたとされるテレビの世界が、戦後、日本をはじめ、世界中でテレビ網となって花開きましたが、ベルリンの壁、ソ連崩壊、軍事的な緊張感の余波で、
 それまで軍事目的に開発、利用されていたインターネットが世界を駆け巡った。


 
 その後、世界単一市場、グローバリズムの世界が誕生すると、
 それまでの社会は一変しました。
 それまで主役と想われていたのが、脇役に転じ、脇役が主役に、アメリカを凌駕するとも言われた日本経済が転落したのもその一環でしょう。



 娯楽の王様が映画からテレビに変わったように、
 報道の主役が新聞、ラジオ、テレビからインターネットが変貌を遂げました。

 


 そのネットの世界でネットで囁かれている陰謀論。
 ユダヤが世界を支配するとか、影の政府とか、
 今流行のディープ・ステイトです。


 
 吉田さん、話半分に聞いて欲しいのですが、
 わしにも何が本当で何が嘘がわかりはしないのですが、
 ローマ帝国の末裔が今も世界を支配しているとか、
 ヨーロッパの王族の血統が主役で、
 ユダヤ教に改宗したユダヤ人が影の主役だとか、
 フランス革命、ロシア革命がユダヤ人によるユダヤ人のための革命で、自由、平等、博愛が日本人の本音と建て前を超越した、
 絵に描いた餅のまるっきりの建前に過ぎず、ユダヤ人が発明した共産主義と資本主義は似非宗教であると。
  


 わしの古く澱んだ頭では難しい事は到底理解できせんが、
 アメリカ本土はおろか、ハワイすら行ったことない、
 グアム島と台湾がせいぜいの田舎漁師風情の戯言ですが、
 ヨーロッパから渡ったフリーメーソンがアメリカ政府を樹立して、トランプ大統領がその尻拭いをしている真っ最中だと。

 


 トランプ大統領が登場して以来のアメリカの混乱ぶりを見るにつけ、州が違えば法律も消費税も違い、人種、宗教、学歴、所得、白人と黒人、ヒスパニックと言われるスペイン語を話す人たち、アジア系などのマイノリティ。

 


 0.1パーセントとも言われる富裕層と中間層の弱体化と貧困層。
 そんなアメリカを目指すおびたたしい難民、移民に象徴される、
 社会の分断というのか、一つの国で収まれるかを想像するにつけ、つくづく、日本人で良かった、日本に生まれて良かった。
 

 両親や祖父母、ご先祖様に感謝すると同時に、

 


 インディアンを殺し、土地を奪い、黒人奴隷をこき使い、
 国の根幹を成したアメリカという国を、アメリカ人に憐憫の目を向けると同時にアメリカのマスコミは日本のマスコミ以下の、
 ピート・ローズ以下の連中だと見切りました。


 
 利権と金の亡者であるグローバリストという輩は自分達に都合のよいことだけを強調し、世間知らずな大衆を扇動するのです」
 

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