太平洋のさざ波 20(1章ハワイ) | ブログ連載小説・幸田回生

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読み切りの小説を連載にしてみました。

よろしかった、読んでみてください。

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 バスはアロハスタジアムからビレッジセンターを通り、
 ダウンタウンに戻って行くと想っていたら、スタジアム手前の道で逸れた。

 


 車窓には南国ハワイのイメージとはほど遠い住宅街の景色に心あらずのまま座席に座っていると、いつとはなしにアラモアナセンターに着いていた。

 


 パールリッジからアラモアナへと、ショッピングセンターを梯子した理由は特にない。
 折角、ハワイまで来たのだから、他に行くところはないのかと、人に問われたら、たまたま乗ったバスがアラモアナに運んでいたと、応えるしかない。



 巨大なフードコートが広がり、
 寿司コーナーで賑わう日本人観光客の団体を目にして、
 空港のバス停で出会い一緒にザ・バスに乗り込んでアラモアナセンターでSIMを買うと言ってはぐれてしまった、
 ドレッドヘアーの男の人のことを思い出した。



 混雑しているバスの中で突っ立ったまま、
 目立つ髪の毛を指差して、
 毎度のことで慣れていますとでも言うように、
 彼は自分の人となりを饒舌に語り始めた。

 


 関空からもほど近い大阪湾沿い出身で小学生時代は地元サッカーのクラブチームで過ごしながら、意を決してセレッソ大阪のジュニアユースのセレクションを受験するが選外となり、
 公立の中学、高校でサッカーを続けたが、選手権、インターハイ、高円宮杯などの全国大会には縁がなく、サッカーは高校で卒業した。

 


 子供の頃から高校生までは本気でJリーガー、サッカー日本代表を目指していたそうだが、誰にしても、幼い頃からの夢を実現できる人はほんの一握りであっても、現実を受け入れるは難しかった。


 サッカーに見切りをつけても、ブラジル代表のエースストライカー、ロナウドに憧れて坊主頭を通していた彼がこの髪型を始めるきっかけとなったのはレゲエやクラブ通いからではなく、
 ふとしたきっかけで髪を伸ばしはじめ、坊主から真逆のドレッドヘアーへと進化したそうだ。


 費用や洗髪の仕方などに加え、
 サーフィンが目的でハワイへやって来たと、
 身の上を語った彼からは想像できなったが、
 仲間や日本に残した妻に言えば冷やかされるので隠れオタクに身を任せ、アイドルグループのAKBの大阪版のNBM48のメンバーの誰々のファンで彼女はソロでも歌い活動していると語っていたが、 アイドルに関心がない俺にはその顔すらイメージできないうちに彼の姿が見えなくなった。


 
 ドレッドヘアーの彼とはぐれながらも、ワイキキビーチ側のホテルへ直行したのは成功だったのかもしれない。
 SIMを手に入れるのには少しばかり苦労したが、 
 ホノルル市街に足を踏み入れた最初の地点がここアラモアナだとすると、何とも味気ないハワイになっていた気がする。

 


 車中からクヒオ通りを窺いバスを降り、
 ワイキキからの潮風に誘われるようにして迷いながらも、
 ホテルに辿り着いたほうがまだマシだった。



 着いた方面とは反対側にショッピングセンターを抜けると、
 交通量の多い広い通りが現れた。
 オアフ島の地図を広げると、ここ2日間で過ごした行程はオアフ島全体からいえば、十分の一にも達していない。

 


 島の全体図とバスのルートを垣間見た。
 バス停をチェックして、今日は無理ととしても、ハワイに滞在するうちに少なくともオアフ島の半分は征服しよう。



 すっかり午後になって、今からオアフ島を回るのは無理だと観念して、通りからアラモアナセンターを素通りし、バスで降りた地点に戻ると、スマホの地図を頼りに緑に囲まれた通りを、ダウンタウンとは逆方向のワイキキビーチ方面へ歩いた。

 


 西に傾きつつ太陽の光を背後に受けながら、そぞろ歩きの中国人観光客と黒のラブラドール・レトリバーを散歩させる地元風カップルの後に付いて、運河のような小川を渡ると、ヨットハーバーが見えてきた。


 そのまま歩いていくと、ABCがあり、角を渡ると、
 マクドナルドとスタバが目に入った。
 バス停で立ち止まると、行き先がダウンタウン方面のようで、
 目線を上げれば、反対車線にもバス停が見えた。


 
 横断歩道を渡り、振り返ると、やって来たバスに行き先も確かめずに飛び乗った。
 バスは広い公園を抜けた。

 


 リゾート風なホテルの側を走り、どこかで観た光景だと想っていたら、昨日、ダウンタウンからホテルに戻って来た時と同じコースのようで、そのままシティ風なホテルの角を曲がり、公園沿いを走り、もう一度、ホテルの角を曲がると、クヒオ通りを走っていた。


 
 通りを眺めていると、若い女性の銅像が目に入り、
 いよいよワイキキビーチが近づいているのが実感できた。
 ここまでくれば、しめたものだ。

 


 ホテルで一休みして、それから、あとのことを考えよう。
 昨日で時差惚けが解消しているどころか、体はずっと正直だった。

 


 昨日と同じくホテルのベッドで横になると、眠りに落ちた。
 目覚めると、ホテルの予約は2泊限りで連泊するかどうすか、
 そろそろ決めたなくてはいけないが、部屋を移動するのも面倒だ。
 ワイキキビーチを眺めながら散歩がてら晩飯でも食べ、部屋に戻ってから決断しよう。


 
 キャップ、Tシャツ半ズボン姿でワイキキビーチの浜辺で西の海に傾いた太陽の光を浴びながら、海辺ではしゃくぐ人々に見蕩れていると、ホテルの朝食のセルフサービスで見かけた太っちょの若い白人女がビキニ姿になって数名の仲間と戯れる様を発見した。 

 


 膝上まで海水に浸かりながら、赤いビーチボールを取っては投げ、小波を足を取られて、腰から崩れ落ちて海水に浸かると、
 次の波に頭の先まで沈んで、長い金髪から海の滴を垂らしながら、 ゆっくりと浮かび上った女は、「オーマイ・ゴッド!」と大声と叫んだ。
 手で掬った海水を側の男友達に浴びせ、もう一度、大声を出した。

 


 次の波に足を取られて、頭から背面に海に落ちた。
 数秒の間を空けて、彼女は立ち上がり、再び、大声で叫んだ。
 海水が滴る、たるんだ白い腹を揺らしながら、側の男に抱きついた。
 男が笑いながら女を突き飛ばすと、女は頭から崩れ落ちた。


 
 俺の足元に小さな波が届いたようで、体を後ろに反らすと、
 泥濘んだ砂に足を取られ、バランスを崩した。
 躓きそうになって、右手を砂地に付け、転ぶのを防ぐと、
 浮いた左膝から落下して、今度は左手を付いて、
 どうにかして転倒だけは免れた。



 海に目を移すと、
 海に転げ落ちたはずの太っちょの女が勢いを取り戻し、
 仲間に赤いビーチボールを投げていた。
 見世物小屋はもう充分なのでワイキキビーチを離れるとしよう。



 カラカウア通りを西に歩いた。
 腹も減り、そろそろ晩飯を食べたいところだが、
 今朝、真珠湾に向かうバス停で出会った和歌山県の人たちも言っていたが、ハワイで食事はコスパの悪さに加え、食べたい物も浮かばなかった。


 
 2階建てオレンジ色のトロリーバスが目の前に停まり、
 日本人の若い女性観光客数名が通りに飛び降りて、声を弾ませた。

 


 船橋の部屋のPCでLCCの航空券を買っている最中に、
 迷惑ながらも、ディスプレイの片隅に毎度のことながら現れる広告はJCBカードを持ってさえいれば、ハワイのトロリーバスを無料で乗れます、その宣伝文句をすっかり忘れていた。

 


 提携の平カードとはいえ、俺もJCBを持っているので日暮前の今からトロリーバスに乗ることできるが、この界隈をブラブラするにも遅く、この近くにあるというJCBプラザのラウンジに行くことにした。



 スマホのアプリの位置情報ではここからもそう遠くはない。
 カラカウア通りをこのまま西に進んだビルの一角にJCBはあり、 閉館時間まで充分な余裕がある。

 


 ザ・日本という雰囲気に包まれたプラザのラウンジに入ってみると、JCBカードの提示も求められず、
 張られているポスターや店内のディスプレイの様子からここではハワイの旅情報が充実しているようだ。
 あれやこれやと探っているうちに、せっかく、ハワイまでやって来て、このままホノルルのあるオアフ島だけにするのも勿体ない。

 


 ネット上ではフェリーでホノルルからマウイ島へ渡る情報はここ10年アップデートされておらず、場当たり的に訪れたアロハタワー側に停留するフェリーの女性従業員に尋ねたら、案の定、現在はオアフからマウイへのフェリー移動は休止状態である。


 マウイ行きも宙に浮いていたが、
 ここJCBプラザでも航空券の予約は可能のようで、
 ホノルル空港からマウイ島まで航空便は早朝の便から夜更けまでそれなりに充実しているようだ。
 とりあえず、ホテルの部屋に戻り、気持ちを落ち着かせて、
 スマホで調べてみることにしよう。

 

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