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ビートルは逢坂の関を越え、陽暮れ前の京都に着いた。
定村が上洛するのはお盆休みにゆりと一緒に訪ねて以来、
中学の修学旅行を含めて今回で都合3度目。
定村が上洛するのはお盆休みにゆりと一緒に訪ねて以来、
中学の修学旅行を含めて今回で都合3度目。
ただ暑かった二人揃った夏の京都とはうって変わり、
彼を待っていたのは、少々肌寒い秋の古都であり、
当てのない一人旅という現実だった。
万葉の旅人ならば、深まりつつ秋に、
歌の一つも詠んでいたであろうが、
音楽小説に通ずる心芽を持った定村であっても、
歌心に乏しく見えるものも見えていえなかった。
京都駅周辺で車を流し、目に付いたビジネスホテルまで進ませた。
そのままそこで1週間を過ごした。
週契約したのは少しでも、宿泊料金を節約するためである。
寺社仏閣を始めとすると、京都観光もそろそろ飽きてきた。
早いもので、11月となり、今年も2ヶ月を切った。
彼はこのまま京都に居着く心づもりだった。
ホテル代とは別に駐車代がばかにならず、
不動産でも回ろうかと思いはじめた。
東京とは一味違った京都独自のルールに戸惑いながらも、
とりあえず、当座の入居費用を抑えたかった。
車も所有していることから駐車場も必要だった。
定村が京の四条河原町を歩いていると、
若い白人の男から手渡されフリーペーパーを何気なく受け取った。
ホテルの部屋でコンビニ弁当を部屋で食べながら、
それを読んでいくうち、ある情報が彼の目をとらえた。
翌朝、記された番号にホテルから定村がダイヤルを回すと、
「今からここに来れますか?」
若い男の西洋訛りのある日本語で返ってきた。
「すぐに行きたいのですが、場所を教えて下さい」
定村は相手に応えた。
「そうでしたね。
いくらあなたが日本人でも、ここの場所を知らなければ、
来たくても来れませんからね。
祇園をご存じでしょう。
ここは祇園の近くです。
八坂神社を背景に四条通りを真っ直ぐ進んでください。
古めかしいホテルの角を左に曲がって左に曲がって」
いくらあなたが日本人でも、ここの場所を知らなければ、
来たくても来れませんからね。
祇園をご存じでしょう。
ここは祇園の近くです。
八坂神社を背景に四条通りを真っ直ぐ進んでください。
古めかしいホテルの角を左に曲がって左に曲がって」
「祇園の近くですね。
八坂神社を背景に四条通りを真っ直ぐ進んで、
ホテルの角を左に曲がって左に曲がって」
聞き返した定村に、
八坂神社を背景に四条通りを真っ直ぐ進んで、
ホテルの角を左に曲がって左に曲がって」
聞き返した定村に、
「どれくらいかかりますか?」
男が言った。
「30分くらいで、着けると思います」
定村は腕時計を見ながら応えた。
「そうですか。今、2時です。
道に迷ったら、電話して下さい」
男が言った。
「わかりました」
定村の応えに男が念を押した。
「僕は3時にはここを出ますから、遅れないで下さい」
「わたしは定村と言います。
あなたは?」
「僕はトムです。
お待ちしています」
そこが定村の居場所となった。
トムの仲間と気ままに京都でフラットシェアをやりながら、
彼の紹介で英会話スクールの事務や通訳の真似事を始めたのである。
トムの仲間と気ままに京都でフラットシェアをやりながら、
彼の紹介で英会話スクールの事務や通訳の真似事を始めたのである。