小さな島の行きつく先は4 2 | ブログ連載小説・幸田回生

ブログ連載小説・幸田回生

読み切りの小説を連載にしてみました。

よろしかった、読んでみてください。

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 ビートルは逢坂の関を越え、陽暮れ前の京都に着いた。
 定村が上洛するのはお盆休みにゆりと一緒に訪ねて以来、
 中学の修学旅行を含めて今回で都合3度目。
 

 ただ暑かった二人揃った夏の京都とはうって変わり、
 彼を待っていたのは、少々肌寒い秋の古都であり、 
 当てのない一人旅という現実だった。

 
 万葉の旅人ならば、深まりつつ秋に、
 歌の一つも詠んでいたであろうが、 
 音楽小説に通ずる心芽を持った定村であっても、
 歌心に乏しく見えるものも見えていえなかった。

 
 京都駅周辺で車を流し、目に付いたビジネスホテルまで進ませた。
 そのままそこで1週間を過ごした。
 週契約したのは少しでも、宿泊料金を節約するためである。
 寺社仏閣を始めとすると、京都観光もそろそろ飽きてきた。

 
 早いもので、11月となり、今年も2ヶ月を切った。
 彼はこのまま京都に居着く心づもりだった。
 ホテル代とは別に駐車代がばかにならず、
 不動産でも回ろうかと思いはじめた。
 

 東京とは一味違った京都独自のルールに戸惑いながらも、
 とりあえず、当座の入居費用を抑えたかった。
 車も所有していることから駐車場も必要だった。

 
 定村が京の四条河原町を歩いていると、
 若い白人の男から手渡されフリーペーパーを何気なく受け取った。
 ホテルの部屋でコンビニ弁当を部屋で食べながら、
 それを読んでいくうち、ある情報が彼の目をとらえた。
 

 翌朝、記された番号にホテルから定村がダイヤルを回すと、
「今からここに来れますか?」
 若い男の西洋訛りのある日本語で返ってきた。
「すぐに行きたいのですが、場所を教えて下さい」
 定村は相手に応えた。
 
 
「そうでしたね。           
 いくらあなたが日本人でも、ここの場所を知らなければ、
 来たくても来れませんからね。
 祇園をご存じでしょう。
 ここは祇園の近くです。
 八坂神社を背景に四条通りを真っ直ぐ進んでください。
 古めかしいホテルの角を左に曲がって左に曲がって」
 
 
「祇園の近くですね。
 八坂神社を背景に四条通りを真っ直ぐ進んで、
 ホテルの角を左に曲がって左に曲がって」
聞き返した定村に、

「どれくらいかかりますか?」
 男が言った。
「30分くらいで、着けると思います」
 定村は腕時計を見ながら応えた。
「そうですか。今、2時です。
 道に迷ったら、電話して下さい」
 男が言った。
「わかりました」
 定村の応えに男が念を押した。
 

「僕は3時にはここを出ますから、遅れないで下さい」
「わたしは定村と言います。
 あなたは?」
「僕はトムです。
 お待ちしています」
 
 
 そこが定村の居場所となった。
 トムの仲間と気ままに京都でフラットシェアをやりながら、
 彼の紹介で英会話スクールの事務や通訳の真似事を始めたのである。
 

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