気象系51。1さんハッピーバースデー。大遅刻すみません。真ん中バースデーの続きです。
J禁、P禁、ご本人様筆頭に各種関係全て当方とは無関係ですのでご理解よろしくお願い致します。

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「助けてくれてありがとう。」
「……。」

 1度目の礼も言えてなかったからその分も込めて伝えれば無言を貫いている男が変わらず無言のまま一瞥だけくれた。少し前のオレだったら返答のない態度になんだよ、と思った事は確実だが、ここ数日で男の事を理解し始めてる今はその一瞬でもキチンと目を合わせればなんとなく男がこちらを無視しているわけでない事は分かってきた。ちゃんとオレの言葉を聞いてくれていると肌で感じる。真摯な気配がしていた。
 今ならきっと応えてくれるだろうという確信も。

「その腕はビーストにやられて?」
「……。」

 オレは基本的にオレが楽しければそれでいい。他人に深入りはしないのがポリシー。だけどなぜかこの男の事は気になる。知りたくなる。そのロボットみたいに動かない表情を崩してみたい……そんな事を思っていたんだって、名前を呼ばれた時の必死な顔を見て気付いた。彼の心を少しでも動かせた事が嬉しかった。ドキドキした。きっとオレは最初から彼に一目惚れに近いものを感じていたんだって。
 トクトクと脈打つ心臓の心地よさを感じながら言葉を重ねる。

「アンタはどうしてNew Mets Cityに行きたいんだ?」
「……妹を探してるんだ。」

 日も暮れて冷え込む岸壁に腰かけて男はポツリと零した。これまでの毅然とした態度からは想像も出来ないような途方に暮れた声でぼそぼそ話す言葉を繋げるとどうやら探している妹はカラカラピープルにされてしまったようだった。話しあぐねている間指先を弄っていたのは癖なんだろうか。その仕草が余計に戸惑いや後悔を表しているようでなんとも居た堪れない気持ちになった。物心ついた時にはもうひとりだったオレには家族の記憶がないからここまで必死になって世界を探し回る気持ちは想像もつかない。コークが蔓延してからもう3年は経つだろうか。その間この男は砂漠と化した広い世界をひとり大切な家族を探しながら放浪し続けていた。本当に途方もない事だったんだろうな……いや、白いデカいのがいたな。そういえばあいつはどうしたんだろう?
 けどそれを問うよりも先に男の口から発せられたのは想像よりも衝撃の事実だった。

「この腕はコークが蔓延して家族がカラカラピープルにされた日に……Met'sの連中に付け替えられたものだ。」
「は?」

 付け替えられただって?
 カラカラピープル殲滅の為に組織されたMet's。黒い噂だって散々流れてる。人体実験やそれこそ人体改造の噂だって耳にした事がないわけじゃない。が、あくまで噂だ。実際に目の前にした事はなかった。うまく隠しているのかデマなのか……現実にあり得るのかと疑っていたけどまさか本当だったとは。
 体を覆うマントを引き寄せて腕を隠す男は、少なくともその腕の事は秘密にしていたいようだった。カラカラピープルを救うための武器であるのに誇りになど到底思ってはいないような仕草。無理やり付け替えられたのだとすれば納得もいく。
 いつか妹に出会って彼女を治した時、兄の腕が機械だなんて知ったら別の苦しみが襲うんだろう。男を見ていて思う。彼が3年も探し続けているんだ、きっと仲が良い兄妹だったんだろうって。

「妹を探すには役立っているからいいがな。おかげでひとりでもビーストすら倒せる。」

 そこでやっと男がまともにオレを見た。ひどく澄んだ瞳が真っすぐにオレの顔を映す。
 その強さに。
 グンッと急速に、心が鷲捕まれる心地がした。

「巻き込んで悪い。」

 ああ……と思った。
 切なくて、可哀想で、苦い。そんな気持ちが一気に胸の中をグルグルして苦しい。
 と同時に腹が立つ。
 砂漠の夜は天候も荒れやすくて穏やかな日の方が少ないからか、今もオレの心を表すように段々と強い風が吹いてきた。ビュウッと靡く髪を掻き上げて目の前の目を強く見下ろす。

「弱いのに巻き込んで、って?」
「そういう意味じゃない。俺の個人的な動機に付き合わせて危ない目に合わせた事だ。」
「勝手についてきたのはオレだよ。」
「頼まれていただろう。お人好し。」
「そりゃまあそうだけど。でもオレは頼まれたからってホイホイついて行くような男じゃねえの。」

 説得力ないとでも思ってそうな顔が片眉を跳ね上げる。そんな顔も出来るんだな。なんだかここにきて色々な表情を見せてくれるのが嬉しい。
 いいな、もっと一緒に居たいな。色んな表情が見たい。怒ってるとか呆れてるとか傷ついてるとか、それだけじゃなくて。
 出来れば笑った顔、とか。
 きっと可愛いと思うんだよね。砂漠に咲く一輪の華のように。

「じゃあ、どうして。」
「放っておけなかった。」
「弱そうに見えた?」
「どっちかというと脆そうに見えた。全部跳ね除けてないと崩れちまいそうな。」

 あくまで今思い返してみればって感じだけど。不器用さとか頑なさとか、男の中身を知った今だからこそ思う事だけど。
 殻に閉じ込めていただろうものを無意識に嗅ぎ分けていた自分をほめたいくらいだ。あの場で彼をひとり行かせてしまわなくて良かった。
 男の存在を知ってしまった時からきっとこうなるのは必然だったんだ。

「ねぇ、オレを連れていってよ。」
「ここまで来たらもうNew Mets Cityまで幾ばくも無い。来るなとは言わない。」
「そうじゃなくて。そっから先の旅も一緒に行こうよ。」

 顔を覗き込めばビックリしたように丸く目が見開かれた。なんか幼くて可愛い。童顔なんだなと気付く。
 この人をこのままひとりで行かせてしまう事はもう出来ない。

「アンタの人生にオレを関わらせてほしい。」
「……変わった男だな。」

 俺といたところで何も面白くはないと思うぞ、とそんな事を言ってくるから首を振って否定する。胸を覆うドキドキだけで十分だ。オレがあんたに付いて行く理由なんて。妹さんが見つかったその時にはこの気持ちも話す事が出来たらいい。
 今はまだ変わった男、その認識で。少しでもオレに興味を持ってくれたなら、それで。
 じっと見つめるオレに耐え兼ねたのか吹き荒れる風を避ける様にオレに身を寄せてきた男がそっと目を閉じる。まるで寝入る直前のような姿勢に慌てて返事は!?と聞けば、薄く開いた流し目が見つめ返してくる。
 色っぽく見えたとか言ったら離れてしまうんだろうな。

「BIG-NO。」
「え?」
「俺の名前だ。」
「!」

 それは着いてきてもいいって事、だよな。じゃなきゃ名前呼べなくて困る事もない。教えてもらえた嬉しさでうっかり顔がニヤける。

「BIG-NO。」
「ん。」
「オレはMJ-Ⅱ。」
「ん。」
「今はあんたに守られたけどこれからはオレがあんたを守るからな。」
「……そうか。」

 えっあれ。今笑ったか?
 ふっと零すような吐息が頬を撫でてドキドキした。振り向きたいけど体が固まったように動かない。

「おやすみ、MJ-Ⅱ。」
「お、やすみ、BIG-NO。」

 砂嵐を避ける様に入り込んだ空洞で身を寄せ合って、肩にBIG-NOの重みを感じながらオレはなかなか眠りにつけなかった。

***