気象系51。真ん中バースデーおめでとう。5くんバースデーの続きです。去年同様後編は1さん誕生日に更新します。
J禁、P禁、ご本人様筆頭に各種関係全て当方とは無関係ですのでご理解よろしくお願い致します。

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 その小さな体にどれだけの力があるのか。思っていた以上に足早に進んでいく背中は街を出てすぐのところで見つかった。装備と宿屋からの食糧を取ってくる間に見失ったがこの街の構造はよく知っている。抜け道を潜りNew Mets Cityへと向かうならこの方角から出るはず、と当たりをつけて探せばビンゴだった。ていうかなんでオレはそこまでしてこの男を追いかけてるんだ。何がそんなに気になるのか自分でもよくわからない。

「おい……おい!待て!」
「……なんだ。」

 ぐっと左腕を掴んだら煩わしそうに振り向かれる。手を振り払われる事はないがジト目で見られて少しだけ苦虫を嚙み潰す。そっと手を放していくぶんか下の目を見返した。
 真っ黒で底の知れない瞳。そこから読み取れるものは何もないけど引きずり込まれそうな魅力がある。外す気もないが、この目で見つめられたら視線を外したくても外せないだろうな、と俯瞰する自分が思う。

「本当にひとりで行くつもりか?」
「……。」
「夜の砂漠を移動するのは深淵の森に迷い込むのと同じだぞ。ひとりは危険だ。」
「問題ない。」

 つれない態度で静かに、けれどハッキリとひと言だけ告げて錆び色のマントがさっさと翻る。砂漠の細かな粒子なんてものともしない軽快な足取りで遠ざかっていく背中に思わず舌打ちをした。

「だから待てって、もうっ!」

 ついていく義理なんて微塵もない。さっき会ったばかりの名前も素性も知らない男だ。宿屋の店主に頼まれただけで、昼間には暴言も吐かれている。本当なら男と隣街までのふたり旅なんて遠慮したい案件。
 今夜は砂嵐の予兆もなく穏やかな砂漠が続いている。地平線の向こうにあるはずのNew Mets Cityのハイタワーの真っ赤な警戒灯はここからじゃ見えない。それほど遠いところへ歩いて行くつもりなんてバカのすることだ。何日かかると思ってる。正式に依頼されたわけでもない、カラカラピープルの討伐じゃねえから報酬だって出ない。オレにプラスになる事は何もない。今ここでアイツを捨て置いてMets Cityに逆戻りしたって誰も咎めはしないだろう。
 だけど気になるんだから仕方ない。
 ガシガシ頭を掻いて渋々男の後を追う。オレよりも小さな歩幅の隣に大きく足跡をつけながら黙々と歩く猫背を追いかけた。

 沈んだ太陽の反対から顔を出した月が真上を通り過ぎた頃、大きく聳え立つ岩場で男が足を止める。そのままスタスタと何メートルもある岩を上がっていくところを見ると今日はここで野宿する気だろうか。
 確かにもう何時間も歩いて足の疲労が半端ない……。男が上がっていった岩場の下、風が凌げる窪みに背中を預けて座り込んだ。あーー、もう今日は動けない。さらさらした足場は思いのほか体力を削られる。昼間の戦闘から充分な休息も取らずに出てきたのだから当然っちゃ当然だが、これは鍛え直さないといけないかもな……。

「おい。」
「うわっ!?」

 心臓が飛び出るかと思った!
 閉じた目を開ければ思っていたよりも近い、拳ひとつ分くらいの距離でこちらを覗き込んでくる顔がある。降りてきていた事に全く気付かなかった。まさかこの距離の近さは狙ってやってるのか?

「……近いんだけど。」
「なにがだ。」

 天然かあ……。

「上に登れ。」
「は?」
「カラカラビーストに食われたいのか。」

 仏頂面でそれだけ言って男がまたひょいひょい上へと上がっていく。寝てる間の砂嵐を防ぐことが先決、と選んだ場所だったがあの干からびたモンスターは夜も徘徊するのか……。水分を求める性質上、人が寝静まって動かない夜はヤツらの活動も止まる。街の入口を守っている砦を閉じてしまえば被害報告なんてないに等しいからコーク感染者の心配はしていなかった。
 それにしても。
 男にとっては勝手についてきただけの存在だろうに気にかけてくれることに驚いた。オレがどうなろうと知ったこっちゃないって態度を隠しもしてなかったと思うが……本来はそういう人間なんだろうか。
 その鉄仮面の下の本当の顔が見てみたいと、ふと思う。
 岩場に見えなくなった姿を追いかけ上へと上がる。そうすれば中腹辺りにさっき居たところよりも広く削られた空間があった。奥が深くえぐれているからこれなら砂嵐が来たとしても耐え凌ぐ事は可能だろう。岩場にかけていた足で中に踏み込めば既に男は自身のマントに身を包み目を閉じて眠っていた。寝息すら聞こえてこないからもしかしたら起きているのかもしれないが……。どうでもいいか。
 少しだけ男から距離を置いて足を伸ばす。さすがに寝転がるスペースまではない。それでも外敵に気を配らなくてもいい野宿というのは幾分か気が楽だった。腰を落ち着けていつものように空を見上げると変わらない星空が広がっている。いつもと同じ風景に、見知らぬ男。たったひとつの新しい要素に日常を崩される予感。
 予定調和な日々に飽き飽きして退屈していた事を思えば今更ながら胸にワクワクと楽しさが広がってちょっと眠れなくなった。子供か、オレは。
 New Mets Cityまでは歩いたら3日もかかる。今のうちに休んでおかないと体力が保てない。無理やり目を閉じて暗闇に息を潜めた。

「……おやすみ。」

 これはもう癖だ。誰といようが、ひとりだろうが言ってしまう。返ってくるとは思ってないのでそのまま静まり返る空間に身を任せようとした。

「…………ああ。おやすみ。」
「!」

 振り向きたい。
 あのカタブツな顔がどんな表情で言っているのか。きっと無表情ではあるのだろうけど、それでも届けられた声はそれまでのどの声音より柔らかく響いて。自然と口角が上がっている事には気付かなかった。けれどなんだかいい夢が見れるような気がした。


 気付いた事がある。コイツはたぶん、不器用だ。
 Mets Cityを出て2日。必要最低限の事しか言わない男とは運よくカラカラピープルに出会う事もなく目的地へと順調に進んでいる。ひたすら砂漠を進んでいく中、迷いもしない足取りをふたりひたすら無言で歩き続ける。途中の休憩でも声をかけてくるわけでもなく、ただ無造作に飲料と食料を渡され食べ終われば即出発。こっちから何度か話しかけたが全てにおいて返答はなかったし、男から話しかけてくる事もない。ただ、点在する大きな亀裂や岩場なんかを渡る時には必ず手を貸してくれた。
 基本ひとりで居たんだろう。コミュニケーションが雑過ぎる。というか端的過ぎる……?必要な事すら話さないのはどうかと思う。
 うだるような暑さの中、砂丘の上へと上がった小さな背中が急に止まった。危うくぶつかりそうになるのを踏ん張る。

「なに、」
「ビーストだ。」

 それだけ言ってちらっとオレを見上げた男はくいっと顎で前を指した。その挙動にわずかに腹が立ったが気付いてなかったオレにわざわざ教えてくれたって事はそいつの餌食にならないようにと配慮してくれた結果ではあるのだろう。とても前向きに考えれば。てかヘッドフォンは索敵の機能も附随してたはずだけど……壊れたか?帰ったらメンテしないと。
 予定外の故障にため息を吐きつつ視線の先を追えば、グルル……と唸り声を上げながら徘徊している犬型のビーストが3匹。カラカラに乾いて張り付いた皮。アバラも落ちくぼんだ目もゾンビのそれのようでグロテスクだ。カラカラピープルの方がまだ見れる。

「これくらいなら任せて。」

 ただ歩いてるだけとはいえ、谷を渡るのにも夜の休息でも手を貸してもらった。借りっぱなしは性に合わない。
 本当に大丈夫か?とでも言いたげな視線を無視してホルスターからカートリッジを取り出す。ブラスターにセットして構えながらあえて気を引く様にザザザっと音を鳴らして駆け出す。おっ反応した!

「少しはオレを楽しませてくれよっ!」

 一目散に射程距離範囲内に目標を突っ込んでポインターを中てる。

バシュッ!

「キャウンッ!」
「ガウッ!」
「おッ!」

 射程ギリギリで狙ったのがマズったかあっちの反応速度が速いのか。2匹は仕留めたものの連射した最後のひとつはかわされた。ついでにこちらの位置を把握する程度の知性はあるらしい。砂塵を巻きながら遠回りに走り寄ってくる体に狙いを定めて引き金を引く。

パシュッ!パシュッパシュッ!

 右へ左へ避けていくのを追いかけて打つが……すばしっこいな!カラカラピープルより断然小さい体でピープルより素早く動く。オレのブラスターはビーストの機動力とはマジで相性が悪い。これならこないだの巨人の方がまだマシだったね!

「ま、すぐ終わっちまうより楽しいか。」

 ピープルと違ってめぼしい反応もないし、オレを楽しませてくれそうにもないって思ってたけど速いのはいい運動になるかも。とはいえ飽きっぽいから退屈に支配されないうちにさっさと片付けてしまおう。

「けどどっかに追い込もうにもこうも遮蔽物がないんじゃあ……!」

 せめて街中にでも出てくれれば壁際に追い詰める算段くらいつけられるのに。どうする。どうやってあいつの動きを止める?
 崩れる足元をうまくカバーしながらの追いかけっこに興じながら頭をフル回転させる。
 コーク感染者が狙うのは人間の有する水分だ。オレたちが感染してカラカラになってない限りもっとも近い餌を諦める事はない。だとするなら自分を囮に使って引き付けるのが1番効果的のはず。
 つまりはまあ、さっきとやる事は一緒ってこった。

「来い来い……オレは逃げも隠れもしないぜっ!」

 走り回るビーストに照準を合わせながらギリギリまで引きつける。どうせなら逃げも隠れも出来ない空中で仕留めてやる。
 元気に回り込んでくるその足元の砂を思い切り抉る様に払いのけると一気に砂が舞い上がってビーストの視界を奪った。けれど飛び上がって回避しようとしたそのしなやかな体が狙い通り砂塵を飛び越えてきて、オレに噛みつこうと大きく口を開いたのを真正面に捉える。だから、

バシュッ!

 その鋭い牙が届く前にブラスターから炭酸水が鉄砲のように噴出してビーストの全身を濡らしていく。大きく開いていた口が閉じオレを越えて着地したよつ足にはしっかりした毛が戻り美しい毛並みの大型犬が足元でぶんっと大きく尻尾を振り回した。どうにかなったな。そのまま駆け出して先にコークを治した2匹と砂丘の向こうへ消えてしまったのを見送る。ふう、と息を吐いてオレも男の下に戻ろうと振り返るその真ん中であの錆色のマントがはためいた。
 砂丘の上から微動だにしていなかった男が腕から何かを引き抜いて天高く空に放り投げる。

「はっ?おい!」

 何する気だ?
 近づいてもいいものか、ここから逃げるべきなのか。判断を迷っているうちにそれはオレの真上で弾けて、

ザアアアア……ッ

「うっわ、冷たっ!」
「グアアアアアッ!!」

 辺り一帯を高濃度の炭酸水が水浸しにしていく。同時に空気を劈く低く大きな叫びが背後で上がった。振り返ればカラカラピープルの巨人が腕を振り上げたまま悶絶している。既視感。
 この展開、似たようなのがついこのあいだもあったよな。あの時はてっきり白い毛むくじゃらのモンスターがやったんだとばかり思っていたけど、もしかしてあれもこの男がやったのか……?

「MJ-Ⅱッ!」

 そんな事を考えてる場合じゃなかったのに気になって、つい反応が遅れた。叫ばれた声にドキッと心臓が跳ねる。
 呼ばれた名前が自分のものである事も、その声があの男のものである事も理解できないまま背後から自分に迫りくる巨人の手を避けようと体を捻る。けど、間に合わないっ!

「ああああああっ!」

 雄たけびと共に膨れ上がった飴色の強炭酸の拳。巨人を吹っ飛ばした先日のそれと同じもの。今あの奇妙な生き物は一緒にいない。寸分たがわぬ同じ展開に、じゃああの時助けてくれたのは本当にこの男が、と確信めいたものが胸に宿る。
 あの時のようにゴウッと強風で砂が巻き上がる嵐と共に巨人が消えて静けさの戻った砂丘の底から、それまでマントに覆われていた手を巨人がいた方へ突き出したまま静止して荒い息を整えている男を見上げた。
 初めて見た右腕がキラッと太陽の光の下で輝く。

「え?」

 機械の、腕?

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