気象系51。毎月15日はいちごの日。これの後の話。フォロワー様からネタを拝借しております。ご快諾ありがとうございます。
J禁、P禁、ご本人様筆頭に各種関係全て当方とは無関係ですのでご理解よろしくお願い致します。

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 トントントン、と音がする。実家でよく聞いていた美味しい音だ。母ちゃんの背中、香ばしい匂い、眠くなるリズム。そのすべてが一気に蘇る懐かしい音楽。今はそれが隣から鳴っていて、それも大好きな恋人がリズムを刻んでいる。
 喧嘩をした次の日、休みの日だからとベッドでのんびりじゃれていた俺たちは夕方からゆっくりと起きだして買い物に行った。近所にあるスーパーは個人でやってるようなこじんまりとした商店で、俺たちが誰なのかに気付いているはずなのに他の人と同じように接してくれる貴重なお店だ。そこでふたりでデートだなんだって盛り上がりながらこっそり手を繋いだり、ちょっと棚の影でほっぺにチューしたり。普段はしねえんだけど今日はちょっとだけ浮かれていた。
 喧嘩したあとってバカんなんのかな。

「智。」
「ん~~?」
「鶏肉の解凍終わった?」

 腰にまくタイプのエプロンを着けた潤が振り返る。前髪を上で縛ってる潤は前髪を下ろしてる可愛い潤の次に可愛いから好き。

「んーー……うん、解れそう。」
「じゃあそれ薄力粉まぶして炒めておいてくれる?」
「はくきりこ、は?はく、はくりきこ……?」
「そこの白い粉。」
「ああ!んふふ、すげえ真っ白。てかこのむぎゅむぎゅする感じクセんなりそう。」
「はは、わかる。きもちいいよね、それ。」
「んふふっ。」
「ほら、遊んでないで。」
「ふふ。」
「焦がさないように。」
「ほーーい。」

 白くなった指先で菜箸を持ってジューー、ジューーっていい匂いのする鶏肉をひっくり返す。玉ねぎを刻んでいた潤は時々俺の様子を見ながら楽しそうに笑っていて、一緒に作ろうと言ってよかったと思う。
 真剣に食材と向き合う潤の横顔を間近で見られる。ドキドキしてワクワクして、ふわふわして。胸がぽかぽかあったかい。喧嘩したからなのかな?いつもよりもずっとずっと幸せだなって思ってしまう。ひとりで浸っちゃった。

「智!智!」
「んえ?」
「そっち焦げてる!」
「うわっ!」

 うっかり潤に見とれていたらフライパンから焦げ臭い匂いが立ち上ってた。慌てて火を消してひっくり返すと真ん中の肉が焦げてる。ああ……って肩を落としたら潤が小さく笑って大丈夫だよって言ってくれた。

「味付けちょっと濃いめにして、代わりにポワローヴィネグレットでも付けようか。口がさっぱりするよ。」
「ぽわぽわびぐねっと?」
「ポワローヴィネグレット。ネギのマリネだよ。」

「短いのあんじゃん。それでいいじゃん。」

「料理名教えてほしいっつったのも智でしょ。」
「だって横文字なんだもん全部。今作ってんのも……なんだっけ?」
「カチャトーラ。」
「カシャトーナ。」
「はは!微妙に違う。」
「だって最初どれ作る?って聞いてきたのなんとかーなって。」
「シチリアーナとアマトリチャーナ?」
「そう!なんとかーな!」
「ふはは!」

 詳しく聞いてもなんだかよく分からなくて全部同じに思えてくる。どっちもパスタだって事しかわからなくてひとつだけ違ったこれにしたんだけど……だって違いわかんなかったし、でも名前似てるからゴッチャゴチャ。なんとか思い出しながら言ってみたもののやっぱり外れたらしくて潤が楽しそうに笑ってる。
 いいけどね、そうやって楽しくしてくれてるのは嬉しいよ、俺も。でもそんな泣くほど笑わなくてよくねえか?

「……笑い過ぎ。」
「だって、ふはは、なんとかーなっははは!」
「じゅうん。」
「ごめん、ごめんっ、可愛くてっ。」
「可愛くなくていい。」
「なんで?さっきのもう1回言ってよ。」
「なんかやだ。」

 子供みてえって分かっててもぷくっと頬を膨らませて拗ねちまう。なんか潤に小さなガキみてえに扱われてる気がしてさ。恋人なのに、なんかこう……もっと、こう、イチャイチャっつうかさあ。キッチンでイチャつくのが危ないのはわかるけど、ちゃんと火は止めたし包丁も避けたし、ちょっとくらい甘い雰囲気になってくれたって、なあ?
 せっかくこうして並んで同じもん作ってるってのに。潤はそういうキュンキュンしたりとかねえのかな。

「さ~~とし。」
「んむ。」
「言って?」

 むにむにって唇をつついてくる潤が楽しそうに俺の顔を覗き込む。

「上手に言えたらご褒美あげる。」
「……ごほうび?」

 にんまりと笑った潤にとくん、とときめく。ちょっと期待が頭をもたげて必死にもう半分くらい絡まってごちゃごちゃになってる名前を紐解く。

「えっと、なんとかーなの方?」
「そっちじゃなくて、ぽわぽわ言ってた方。」
「ぽわぽわ。」
「ポワローヴィネグレット。」

「ぽわろ?ぽ、わ、ろーび、び?びぐねぐれっと?」

「んっ、かわいい……っ!」

 てことはうまく言えてないって事か。

「頑張ってもう1回、ポワローヴィネグレット。さん、はい。」
「ぽわろーびぐにぇっと!」
「ふふ、言えてない。」

 微笑ましそうに笑ってくる潤が、魔法をかけてあげる、そんな事を言ってちゅっと俺の口を塞ぐ。軽くて小さなキスは期待していた俺の心の表面をそっと甘く撫でていって余計に疼かせてくる。

「……舌、吸いたい。」
「ご褒美っつったでしょ。」
「むう。」

 くすくす笑ってほら、て促してくる潤に間違えてはチューされて、舐められて、はむはむされて。その間何度挑戦しても俺は噛み噛みでうまく言えなくて、結局ベロチューは料理作って食べた後のデザートになった。



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