気象系51。
J禁、P禁、ご本人様筆頭に各種関係全て当方とは無関係ですのでご理解よろしくお願い致します。

***

 テレビウケとして喧嘩をする事はある。つれない態度を取ったりキツくふっかけてみたりとパフォーマンスとして噛みついたりしてみせる事は、ある。けれどプライベートで怒ったり苛立ったりを誰かにぶつけたことはなかった。そんな俺だから謝り方が分からない。
 ひとりきりのリビング。この時間はいつもなら潤と2人でウイスキーでも飲みながら今日はなにがあったとか、現場であの人にあってよろしく言われただとか、今度仕事で何をやるだとか。そんな他愛もない話をしながら過ごしていたのに、ひとりきり。
 仕事で居ないなんて事も無くて、潤は今自分の部屋に居る。寝てるのか資料でも読んでるのか、あるいは台本か。物音ひとつさせる事無く籠って出てこない。当然、夕食に呼んでも返事はなかった。
 カラン、と解けた氷がグラスを鳴らす。用意はしたけど飲む気になれなくて放置されたグラスはすっかり汗をかいてテーブルを濡らした。中身もすっかり薄まってしまっているだろう。

「……。」

 前に食べたいと言っていたカレーは食卓から退けられて仕舞われている。これも氷を抜いてラップをかけてしまっておこうか。あまり勧められたもんじゃないけど。

「……散歩でも行ってくるかあ。」

 きっとおいらが家から出ないと潤は部屋から出てこれないだろう。そうしたらご飯は食べられないしトイレだって行けやしない。潤はとても繊細だから。
 ウイスキーを仕舞って玄関に置いてるキーケースを持ち家を出る。ちゃんと戸締りをしてエレベーター……じゃなくて階段に向かった。なんとなく体を動かしたかったのと少しでも家に帰るのを遅らせるためだ。潤がのんびりできる時間が増えたらいい。

「……腹減ってんな……。」

 階段に響く靴の音を聞きながらぐううっと鳴る腹をさする。潤と一緒に食べようと思って俺もカレーは食べてない。酒しかたまってない腹は結構空いてて帰ってきた時には潤に謝れるようになってないとやばいなって思う。
 出かけてる途中で買い食いしたりとか、そういう事をしようっていう気分にはなれない。だって喧嘩の原因がそもそもこれだから。

『ご飯作るけど何がいい?』
『なんでもいいよ。』
『なんでもいいが1番困るんだけど!』

 そういう些細な言い合いだった。いつも潤が折れるような、ちょっとした。ずっと腹にため込んでたそれが今日限界にきたみたいで『そうやってこっちに丸投げするから毎日オレがどんだけ悩んでると思って!』って爆発してマシンガントークで喋り、俺が口をはさむ暇もなく『もういい好きなの勝手に食べたら!』って言って部屋に籠っちまった。だから今日はおいらが晩御飯にカレーを作って呼んだんだけど、反応なし。

「潤が作ってくれる事に甘えすぎてたよな、完全に。」

 なんでもいいよ、は潤のご飯はなんでも美味しいから、あり合わせで作ったとしてもマズくなるわけがないって信頼のつもりだったし、潤が作りたいものを食べたいって意味でもあったんだけど……。反省。
 これからは俺も作るよって、そう言ったら許してくれるんだろうか。

ポーン

 近くで響いたエレベーターの音を聞きながら1階に着いた足でエントランスの床を踏む。

「智!」
「え?」

 グッと腕を掴まれて振り返ってみればそこに居たのは焦った顔をした潤だった。喧嘩した時のまんまの恰好で、家から出てるっていうのに変装もしてない。珍しい。

「どうした?」
「どう、っ、どうしたって、……あなたが家を出てくから……。」
「……追いかけてきてくれたのか?」
「どこ行くつもりだったの?財布も携帯も持たないで。」
「どこって、散歩。」
「こんな夜中に?危ないんだから止めよう。帰ろう?」
「……いいの?」

 怒ってるって顔じゃなくなってるけど、本当にもう大丈夫なのかなって思って聞いたらぐしゃっと顔が潰れて口が引き結ばれる。掴まれたままの腕を引かれて潤が降りてきたばかりのエレベーターに乗り込む。俺もそのまま引っ張り込まれてドアが閉まった。

「智が帰るとこはオレだよ。これからもずっと。」
「……他のやつのとこになんか帰らねえよ。」
「……。」
「ごめんな。どうでもいいって意味じゃねえんだ。お前の料理はなんでも美味いから選べなかっただけで。」
「……うん。そんなことだろうと思った。」
「あと凝った料理作ってくれっからもっかい食べたくても料理名わかんない。」
「あ~~……。」
「だから今度はおいらも一緒に作っていい?作りながら教えて。」

 腕を掴む潤の腕を外してそのままぎゅっと指に指を絡めて握る。覗き込むように見上げたらムッと口を尖らせた潤が一瞬そっぽ向いて、すぐに掠めるようにチューしてくる。おい、エレベーターん中だぞここ。監視カメラはいいのかよ。前撮られるかもって気にして俺からのチュー避けたくせに。

「なにすんだよ。」
「仲直りのキス。」
「家でしろ。」
「だってそんな可愛い顔してんの無理だし。」
「俺には我慢させたくせに。」
「我慢させた後の智、いっぱいオレを求めてくれるから好きなんだもん。」
「うわ。」

 そんな理由で避けたのか。ちょっとショックだったのに。
 ポーン、て音がして部屋のある階に着く。今度は俺が潤を引っ張ってずんずん進んでドアの前に立った。鍵を差し込んだらなんの抵抗もない。

「あ……。」
「……鍵かかってねえじゃん。」
「い、急いでて……。」

 俺が家からいなくなったのがそんなにショックだったのかな。ていうか部屋に籠ってたのに俺が出てった音にすぐ気づくくらいにはこっちを気にしてくれてたって事なのかな。そうだとしたら今のショックが帳消しになるくらいには嬉しい。

「珍しいな。」
「今自分でもショック受けてる……。」
「んふふ。じゅーーん。」

 開けたドアから部屋に入って鍵を閉めて潤を玄関ドアに押し付ける。そのままちゅっと唇を奪ってやった。さっき潤がくれた浚うだけの軽いやつじゃなくてもっと重くて深いやつ。抱き着いて甘えたら潤の腕が包むように抱きしめ返してくれて幸せだなって思う。

「仲直りならこれくらいはくんねえと。」
「足りてんの?これで?」
「足りるわけねえじゃん。奥まで寄越せ。」

 にやっと笑ったらがぶっと頬を噛まれて体を反転させられて今度は俺の背中が壁に着く。見上げた潤の顔はギラギラしてて、こういう潤が見れるならたまには喧嘩も悪くねえかもなあと思う。

「腹減ってるから丸のみにちゃうけどいい?」
「んふふ。いいよ。おいらも減ってるからおんなじだけくれよな。」

 首に腕を絡めて引き寄せたらぐううって腹が鳴って、2人して見つめ合ってそのまま笑った。

***