今回のお酒は『隆』です。
 本当はもう一週間以上前に飲んだのですが、体調不良もたたって遅れてしまってますね……


 
 参考――前回の『隆 足柄若水』27BYの感想
 
 
 『隆』の銘柄についての説明は上述URL。今回はこの27BYとほぼ同時期のお酒で、火入れではなく無濾過生原酒です。
 雄町とか山田錦もあったのですが、今回はあえて前の足柄若水と比べてみたかったこともありこちらに。
 
 


 アルコール分 19度
 原料酒米  2015年度神奈川県産若水(筆者註:足柄上郡開成町栽培とのこと)
 精米歩合 55%
 日本酒度 プラス5.5
 使用酵母 7号系
 酸度 1.8
 杜氏氏名 高橋 健一
 製造年月日 17.7月

 さて、このお酒は裏ラベルの写真をご覧になれば分かるように、実家に帰ったおり、岸田屋酒店様という横浜の酒店で購入したものです。かつ、『隆』の無濾過生原酒は特約店でも少数生産の極めて貴重なお酒。
 このお酒は岸田屋酒店様の意向により、2015年度(27BY)と 1年間熟成されております。熟成させた理由は、去年の今の時点で27BYはまだ味が乗っていないと酒店側が判断したためだとか。
 なるほど、上参考記事にはこのお酒の火入れスペックを淡麗と評価しましたし、そう評価すれば聞こえがいいのかもしれませんが、華やかさとコクで勝負の生原酒というジャンルで考えたら味がきちんと出ていたほうがいいに決まってますよね。
 
 上立ち香は酢酸エチルもちょっと混じりながらも、プラムを思わせる香りが出ています。
 味わいは、ああ……これはあの『白老百二拾二號』によく似てるかも(どっちも若水使っているから当然といえば当然か)。甘苦渋の合わさった複雑味や、舌に焼き付く感じの刺激が酸味と共に来るところとか特に。でも、『隆』のほうがガス感が少ない代わりに甘味が強くフルーティーですね。熟成されているだけのコクがこちらにはあります。こういうのってボルドー右岸のメルロー主体な赤ワインによくあるんだよなぁ。
 
 



 チーズケーキと合わせてみました。
 ケーキの丸い甘味を『隆』の苦渋を伴った酸味で引き締めて、うまくマリアージュしてくれます。
 
 しかし、淡麗だったのがここまで濃醇フルボディな日本酒と進化するとはなぁ。
 『いづみ橋』の26BYを飲んだこともあり、僕は最近日本酒にも「天地人」があると意識するようになったかも。
 
 天→熟成期間やBY毎の米の出来
 地→仕込み水や蔵元の用いる酵母、酒米の具合。“地酒”の構成要素。
 人→作り手のセンス。蔵元の製造環境。
 
 といった感じで。
 多分その三点が揃ったお酒こそ優秀なお酒と言えます。今までは“地”に特化した“地酒”なら多く出回っていたんですけどね。パラダイムシフトはやっぱり必要です。
 今回の『隆』に関して言えば。
 天→1年間熟成による深いコク。おそらく27BYは熟成の適正があるか?
 地→足柄産若水にこだわった地酒の常道
 人→『隆』らしい綺麗な酸味の演出と、熟成を決めたことによる酒店側の判断。
 ですかね。こうした日本酒が増えていることから、日本酒はより深い世界となっているのかも。