ショートストーリー「ちいさな東京タワー」 | 手ぶloveの「諸行無常のソナタ」

手ぶloveの「諸行無常のソナタ」

アル中地獄からの解脱と共に解き放たれた世界。
色即是空のことばたちが
縦横無尽に駆け巡る。哀愁の人間讃歌。手ぶらワールドへ
ようこそ!

「ちいさな東京タワー」
作.手ぶlove


どうやら、また、寒波がやって来たようだ。

この季節、寒さが身に堪えると
失うものが何もなかったあの頃…

怖いもの知らずで上京した若かかりし日々を
思い出さずにはいられない。


東京ビッグシティの片隅の
六畳一間のボロアパートで
夢を追いかけてたあの頃を…


かじかんだ手があの頃の記憶を呼び起こした……



ー あの日、私は寒空の中、トラックの荷台に
建築資材を積み上げていた。

凍てつく様な寒さに
軍手の中の指先はかじかんでいた。

思うように感覚が掴めないのか
手慣れた作業の筈が
ちょっとした拍子に肩を脱臼してしまった。


「ウソだろ!?こんな時によ、っきしょう!」







肩を脱臼した事は何度かあったが
上向きに肩が外れたのは初めてだった。

私は挙手した格好のまま
脱臼した方の腕を下におろす事が出来なかった。

あまりの痛みに、
額から嫌な汗がじわりと滲み出る。

まるで選手宣誓でもしているかのように
挙がったままの腕は
端から見ればさぞかし、滑稽だったに違いない。

私はそのまま病院に向かう為に
大通りに出てタクシーを拾うことにした。

挙がったままの手に
タクシーは容易く見つかった。


タクシーに乗り込んでも尚、
車内で手を挙げている私を見て、
不審に思ったのか
運転手がバックミラー越しに、こちらの様子を
チラチラと伺っていた。

車の振動に呼応するかの様に肩に痛みが走り
私の顔面は苦痛に歪んだ。



挙がったままの手は
あたかも東京タワーの如くに
後部座席にそびえ立ち

タクシーは挙手したままの私を乗せて
いくつもの信号を通り過ぎて行った。




ある冬の日



東京ビッグシティの片隅の



ちいさな東京タワーの話さ。


produced.by.tebura.studio.japan


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